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エピローグ
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しかし、セオドアの目的はというとエレノアだ。
治癒師ギルドは冒険者ギルドと提携を組むことになった。エレノアは王都ではなく、冒険者ギルド本部があるアジュールの治癒師ギルドに所属しているのだが、セオドアはことあるごとにエレノアの様子を聞いてくる。
兄貴が馬鹿やったから近づきにくいという本音は頂いたが、そんなポンコツにエレノアはやらんというオバチャン魂に火が点いていて塩対応だ。ナイジェルよりマシだが。
そんなエレノアはというと、アリアンロッドによく似てきたとマサシゲは言う。
何故かといえば、エレノアの師匠がアリアンロッドの杖だったピア。そして彼女、予想以上に脳筋思考だったことも発覚した。
『自分が疲れたならば、自分を回復すれば良いんです』と曇りなき眼で迷言を発している。治癒師ギルドが超心配だ。
やって来たセオドアは父親の面影があるのがなんとも残念だが、どちらかというとリナリーのように凛としている。
今日はエレノアのことを知りたいというソワソワ感はなく、用紙一枚持って駆け込んできた。
「神子様、これどういうことですか?!」
「……ブライダル事業で発生した納税書ですよね。計算間違ってないですよ」
「いや違う、桁だ! 納税額が八桁になるってどういうことだ?!」
「それだけ馬鹿みたいな売り上げだったんですよ。これが定額制ではなく利率計算による税収の利点ですね」
結婚式の予約はいつの間にか五年待ちになっているし、リートは飾り付けに追われて今はほとんど自分の城へ戻っている。その傍ら会計担当もしてくれているのだから、ありがたいことだ。
「エレノア様は二日前からロコの村へ出張中です」
「こ、この前も出張してなかったか?! 彼女、無理をしているんじゃ……」
「行政の手が届かないならば公爵家の人間こそ向かわねばと仰っていましたよ」
嘘をでっち上げると、セオドアの表情がコロコロと変わる。彼をあしらっていれば窓の外からは、陽光の下で遊んでいた子供達の所に女の子が駆けてきた。
「ヒュースおじさんが建国記のマンガ三冊セット持ってきてくれた! あそこで売ってるやつだよ!!」
「さすがヒュースおじさん! 早く帰ろうぜ!」
きゃっきゃとはしゃぎながら、子供達が走り出す。インドア派の子供が増えているなぁ。
「何でヒュースの奴はもう配ってんだ? 発売日、今日だろう?」
「お得意様だから特別に、という店側からのご配慮らしいですよ。メルヴィン様が嘆いてました」
付喪神達はあまり金銭に頓着しないようで、ヒュースはその中でも特に顕著だ。学園運営においてはエキスパートだが、いざ自分が給金をもらうと分からないらしい。
最初のうちは「そもそも自分は学園の付喪神」「つまりこのお金も学園のもの」という思考回路で、給料を全額金庫に戻していたことが発覚。ヒュースに「戻すな!」とメルヴィンが激怒したのは面白いエピソードだ。
「セオドア様、あまり離れないで下さい」
「い、今はテオと呼んでほしい」
「それで、殿下。今日は王都の下水道掃除にしますか? それともホープネスの刑務所で畑仕事が良いですか?」
「いや! ついにフィー様からダンジョンに潜る許可が降りたんだ!」
ナイジェルの言うことは聞かないがフィーの言うことはきちんと聞いているセオドアを見て、この国が安泰への道を進んでいると思ってしまうのは何故だろうか。
「ただ、フィー様からは神子様に同伴してもらうという条件を付けられましてね」
ヴィンセントがそう付け加える。後ろには嬉しそうなラセツま来ていて、久し振りだと再会を喜んでいるのも束の間、ヴィンセントからフィーの手紙を預かった。
中を読んでみるとちょっとしたセオドアの過去が書いてある。リナリーを閉じ込めてしまった自分の魔力は、彼にとってコンプレックスという話だ。
【が、格上なんぞ山といると鼻っ柱を叩き折ってくれんかの】
(それ、僕である必要ないよね?)
「じゃあ、連れて行ってくれや」
そう言ったマサシゲが腰に引っ提げていた自分自身をユウにぽんと渡してきた。妖刀ムラマサである。
「俺からの評価がA以下だったら訓練量増やすからな」
「ド、ドウモアリガトウゴザイマス、シショウ」
真皇桜血流とかいう、ネーミングセンスがダサいオウカ独自の剣術をマサシゲ直々に詰め込まれてきたユウは、げんなりと返答する。
「サポートはお任せ下さい、神子様」
「いや、お前のサポートは完璧過ぎるからテオの子守りだ。お前が手を貸したら今のユウの実力が分からないだろ」
ラセツとマサシゲの間で意見が衝突するが、それよりも訓練量の増加が確定した未来が見えたユウは憂鬱になる。
(国が平和になった証拠かなぁ……うん、そう思おう)
終わり
治癒師ギルドは冒険者ギルドと提携を組むことになった。エレノアは王都ではなく、冒険者ギルド本部があるアジュールの治癒師ギルドに所属しているのだが、セオドアはことあるごとにエレノアの様子を聞いてくる。
兄貴が馬鹿やったから近づきにくいという本音は頂いたが、そんなポンコツにエレノアはやらんというオバチャン魂に火が点いていて塩対応だ。ナイジェルよりマシだが。
そんなエレノアはというと、アリアンロッドによく似てきたとマサシゲは言う。
何故かといえば、エレノアの師匠がアリアンロッドの杖だったピア。そして彼女、予想以上に脳筋思考だったことも発覚した。
『自分が疲れたならば、自分を回復すれば良いんです』と曇りなき眼で迷言を発している。治癒師ギルドが超心配だ。
やって来たセオドアは父親の面影があるのがなんとも残念だが、どちらかというとリナリーのように凛としている。
今日はエレノアのことを知りたいというソワソワ感はなく、用紙一枚持って駆け込んできた。
「神子様、これどういうことですか?!」
「……ブライダル事業で発生した納税書ですよね。計算間違ってないですよ」
「いや違う、桁だ! 納税額が八桁になるってどういうことだ?!」
「それだけ馬鹿みたいな売り上げだったんですよ。これが定額制ではなく利率計算による税収の利点ですね」
結婚式の予約はいつの間にか五年待ちになっているし、リートは飾り付けに追われて今はほとんど自分の城へ戻っている。その傍ら会計担当もしてくれているのだから、ありがたいことだ。
「エレノア様は二日前からロコの村へ出張中です」
「こ、この前も出張してなかったか?! 彼女、無理をしているんじゃ……」
「行政の手が届かないならば公爵家の人間こそ向かわねばと仰っていましたよ」
嘘をでっち上げると、セオドアの表情がコロコロと変わる。彼をあしらっていれば窓の外からは、陽光の下で遊んでいた子供達の所に女の子が駆けてきた。
「ヒュースおじさんが建国記のマンガ三冊セット持ってきてくれた! あそこで売ってるやつだよ!!」
「さすがヒュースおじさん! 早く帰ろうぜ!」
きゃっきゃとはしゃぎながら、子供達が走り出す。インドア派の子供が増えているなぁ。
「何でヒュースの奴はもう配ってんだ? 発売日、今日だろう?」
「お得意様だから特別に、という店側からのご配慮らしいですよ。メルヴィン様が嘆いてました」
付喪神達はあまり金銭に頓着しないようで、ヒュースはその中でも特に顕著だ。学園運営においてはエキスパートだが、いざ自分が給金をもらうと分からないらしい。
最初のうちは「そもそも自分は学園の付喪神」「つまりこのお金も学園のもの」という思考回路で、給料を全額金庫に戻していたことが発覚。ヒュースに「戻すな!」とメルヴィンが激怒したのは面白いエピソードだ。
「セオドア様、あまり離れないで下さい」
「い、今はテオと呼んでほしい」
「それで、殿下。今日は王都の下水道掃除にしますか? それともホープネスの刑務所で畑仕事が良いですか?」
「いや! ついにフィー様からダンジョンに潜る許可が降りたんだ!」
ナイジェルの言うことは聞かないがフィーの言うことはきちんと聞いているセオドアを見て、この国が安泰への道を進んでいると思ってしまうのは何故だろうか。
「ただ、フィー様からは神子様に同伴してもらうという条件を付けられましてね」
ヴィンセントがそう付け加える。後ろには嬉しそうなラセツま来ていて、久し振りだと再会を喜んでいるのも束の間、ヴィンセントからフィーの手紙を預かった。
中を読んでみるとちょっとしたセオドアの過去が書いてある。リナリーを閉じ込めてしまった自分の魔力は、彼にとってコンプレックスという話だ。
【が、格上なんぞ山といると鼻っ柱を叩き折ってくれんかの】
(それ、僕である必要ないよね?)
「じゃあ、連れて行ってくれや」
そう言ったマサシゲが腰に引っ提げていた自分自身をユウにぽんと渡してきた。妖刀ムラマサである。
「俺からの評価がA以下だったら訓練量増やすからな」
「ド、ドウモアリガトウゴザイマス、シショウ」
真皇桜血流とかいう、ネーミングセンスがダサいオウカ独自の剣術をマサシゲ直々に詰め込まれてきたユウは、げんなりと返答する。
「サポートはお任せ下さい、神子様」
「いや、お前のサポートは完璧過ぎるからテオの子守りだ。お前が手を貸したら今のユウの実力が分からないだろ」
ラセツとマサシゲの間で意見が衝突するが、それよりも訓練量の増加が確定した未来が見えたユウは憂鬱になる。
(国が平和になった証拠かなぁ……うん、そう思おう)
終わり
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応援の方法が動画を見てエールを送るしか方法が無いのが悔しいと思うくらい面白い。