無能と追放された神子様は顕現師!~スキルで顕現した付喪神達の方がチートでした~

星見肴

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89話 フェオルディーノの改革

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 合同会議終了後。
 冒険者ギルドを試運転するのにちょうど良いと乗っ取ったアジュールの商業ギルド。

 奴隷の解放に同意をもらえたと報告すれば、リートは安心したように微笑んだ。
 近々、ラルフフロー国には各国が応対してくれる。そこにリートも鎮圧には手を貸してもらうことになるだろう。

「神子様が準備していたチョコレート菓子は他国への売り込みが目的ではないのでしょう。現在はダンジョン産で出荷量が一定しませんから」

 その通りである。だが、ユウが今回の会議で持ち込んだ料理がおいしいのも事実。
 ならば、料理技術が全体的に低い国々相手に『自国の特産品』が使えるような基礎部分に当たる料理を実際に作って覚えられる料理教室を開講すると提案したのだ。
 各国喜んでの宮廷料理人をアジュールに寄越してくれると口約束をもらってきた。

「もちろん、フェオルディーノも対象ですよ」

 お前なぁ、と呆れるマサシゲの隣で、リートは笑いながら表情を綻ばせる。

「会議へ行く前に言っていた『他国からお金を落としてもらう』とはこのことだったのですね」
「えぇ。いずれネタは尽きますが、重要なのは他国の人間が支払う価値のあるサービスを提供すること、もう一つは国土を増やせないなら人間を呼び込んで定住させりゃあ良いじゃんって話ですよ」

 国土が狭いだとか、だから税金が少ないんだとか、そんな言い訳だ。観光業とは他国の人間からお金を払わせる政策なのだから。

 そして、その一環が女性達に教えていたパンとお菓子だ。

「いやぁ、冒険者ギルドを運用するための職員も確保できてありがたい限りです」
「どこからですか?」
「そりやぁ、奴隷商人ですよ」

 奴隷商と人材派遣は似通っている部分があるとユウは思う。人を商品とする前は働き先で即戦力になれるよう教育を施すことを義務付けられている。それはユウからすれば、日本の派遣業者とほぼ同じだ。

 ならば、人を見る目は彼らにもある。というより、奴隷商はそもそも人材育成のエキスパートだ。
 商売形態が大幅に変わることになるが、これからは人間を商品ではなく、その人達をサポートしてもらうのだ。
 冒険者ギルドに縛られず、貴族の屋敷で働けるような人材を育成してきたノウハウを、自主的に学びたいという一般人相手にセミナーを開いても良いだろう。彼らにはそのうち、人材派遣会社でも設立してもらおう。

「まぁ良いや。僕、料理教室のことをみんなに伝えて来ます! あぁあとですね、明日には皇帝陛下が風祈の塔を見に来るんですよ!」
「お前それ、声掛けただろ」
「はい! そうしたら行ってみたいと仰って下さいまして! 明日用に別のパンをみんなに教えようと思います!」

 ユウは商業ギルドを飛び出す。これからもう少し本格的にレシピを作成していかなければならないし、作ってもらう予定の『クロワッサン』は手間がかかる。それでも、他国で美食に慣れているはずの国王に舌鼓打たせるぐらいできるだろう。

 ユウの居なくなった部屋で、マサシゲの呆れ
た溜め息が漏れる。

「明日も騒がしくなんなぁ」
「そうですねぇ」   

 翌日――皇帝が兵を連れず単騎出陣で現れたことで騒ぎとなるのだった。

 ◇◇◇

 ユウにガチめの首輪を付けられてから城に帰ったナイジェルが激務に追われ、キングストンの宰相親子、腐った官僚の冤罪が晴れて復帰した官僚達も瀕死状態だ。

 フィーはというと人間とは違う体のため、誰よりも朝早くから夜遅くまで仕事をこなしてもへっちゃらなんだとか。

 ラルフフローから引き抜いてきた官僚とヒュースウェル学園の卒業生達も洗礼を受けているらしい。それでも辞めるとは言い出さないのだからナイジェルは果報者だ。

 リートはユウの専属だが頻繁に政務の手伝いへ向かってくれている。
 更なる大活躍を見せるのが、書類を一枚作ればあとは大量に発行できるラセツだ。拝み倒されているという。

 ドラゴンが出現すると王都から逃れて帰ってきた貴族や一部の官僚は、既に解雇通達済みで家財の一切が押収され、爵位も剥奪されていた。
 不当な解雇だと連日詰めかけてくる連中はヴィンセント達に混じるエクスも無邪気な笑顔で排除しつつボコっては金銭の追い剥ぎを容赦なく遂行中。「お城様のご命令でして」が、お決まりの台詞だ。

 エルメラはヒュースと共にヒュースウェル学園で教鞭を取っている。
 長男から運営権をぶん取った天才少年メルヴィンが理事長に。端から聞けば無理がある指示だが、父親のジェイクが容認。補佐がヒュースになっている。

 女性教師を意図的に排除していた学園と一度衝突したものの、頭脳明晰、古代魔法を扱い、アースガルズの文献を読み解くなど造作もないという学術分野貢献間違いなしのハイパーエリート女史を一般人以下の教職が止められるはずもなく採用された。
 新たに会計や事務職員も尻尾を出したと、これを機に解雇。ヒュースウェル学園の膿み出しもまだまだ始まったばかり。

 クロードは王家の使用人として働き、ハッテルミーは要らない物を売り払いに各国を巡っている。帰ってくる度に大漁の金貨と、白銀金貨十枚前後を持ってくる豪商ぶりだ。
 そこに、最近新たなお供が加わった。
 セレナーディアご友人一行だ。人間になる薬を使って、人間社会の勉強をしに行っている。
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