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88話 各国の首脳会議の日
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冒険者ギルドの構想は、エルやオリオス、ガブリエルに加えてマサシゲも混ざって形になっていく。
マサシゲも意外に的確な意見と改善案を出してきたのには驚いた。さすがは宰相家の家宝。
各国の首脳会議の日の数日前には、方針の固まった冒険者ギルドの立案書が完成した。
そして当日、フェオルディーノ城・会議室――。
諸国の国王が一同に介するというロイヤルな会議に混ざる一般人。
場違い感と違和感に苛まれたが、ダンジョンの説明や冒険者ギルドについてはユウから直々に説明する方が良いということで抜擢されてしまった。
ならば仕方あるまい。プレゼンも突っ込んでやろう。
マジックバッグからラルフフロー王を取り出すと、罪人のように拘束された彼を椅子に座らせるなり厳かに会議が進行した。ちなみに進行役はガブリエルだ。
今回の証拠品集めにはヒュースが回収したラルフフロー暗部のナイフと人身売買ルートの指示書からメルヴィン手製のサイコメトリーが真価を発揮。
催眠状態のガブリエルが製作していたが、ラルフフロー王の顔が映り込み、フレデリカがフェオルディーノの王家紋が入ったシーリングスタンプを無断使用していたのも明らかになった。
フェオルディーノも立派な被害国として認定され、各国からは賠償金代わりに問答無用と国土の押収。ちゃっかりナイジェルも少々ばかりの国土を要求していた。
「神子様からも何かご要望はございますか」
「なら、ラルフフロー国内の奴隷解放とお城と、国中の武器と防具と魔道具が欲しいです」
高貴な視線から集中放火を浴びてしまったが、欲しいのは謀反を防ぐための『刀狩り』――と称したフェオルディーノ国内の戦闘道具の補給――で、ラルフフロー王国から支給されている物と貴族達の資産である物に限定する。
傭兵や個人店舗で販売している物、ダンジョンが近いなど、柔軟に対応するが、あくまでも王族と貴族から絞り取るのが目的だ。
「何故、城を?」
「しばらくは一般解放して見学料金を、その後はホテル業とブライダル事業を立ち上げようと思ってます」
「ぶらいだる?」
「結婚式のプランと進行役の業者、というところでしょうか。貴族がターゲットになりますが、お城で挙式なら盛り上がると思うんですよね」
再びエルのツボを突いてしまったようで、まためちゃくちゃ笑われた。他の方々もちょっと肩が震えているんだが。解せぬ、こちとら真面目なのに。
後に面白そうだとフィーとリートが教えてくれた王族の結婚式プログラムを組み込むと馬鹿売れすることになる。
奴隷の解放はリートからの願いだ。
敗戦したリートビアの民は敗者としてラルフフローの奴隷に落とされ、死んでいった。
彼らへの償いにはならないが、それでもラルフフローが亡国となった今、この国の奴隷達にはリートビアの民達が迎えた末路を迎えてほしくない。きっと、リートビアの王達ならば、そう願ったはずだからと懐古した。
「それは、奴隷商のものもか?」
「はい。ラルフフロー国内の奴隷は一律全員です。犯罪行為が確認されなければ、奴隷商人達へ別途補助を行います」
こうして、フェオルディーノという国の滅亡を企てたラルフフローという国が、地図上から消える結末を迎えた。
最早ラルフフローのことなぞ前座でしかないと、マジックバッグの違法改造法案が合意された後、速やかにダンジョンについて会議が移行した。
二国のダンジョンの様子が詳細に語られ、ユウからは神の試練として形式が変わったのではないかと報告し、いよいよ冒険者ギルドの話題に。
これからは間違いなく各国の一般市民の手も借りていかなければダンジョンの対応が間に合わなくなること、経済効果が生まれる理由――ダンジョンではこれから神の試練へ挑む者達に報酬が与えられる形式になる。それを目当てに人々の動きが活発になる。それを妨げないためにも、各領、各国王に協力してもらうのが好ましい。
面白そうではないかとエヴァンハルト帝国の皇帝が真っ先に口を開いた。学生時代にあったら通い詰めていたかもしれないと大層好評を頂いたのを皮切りに、他国も持ち帰って検討してくれることになった。
「文字の読みがな……」
「そうですね。なので、対策の一つとして考案したものがあります」
そう言ってユウはマジックバッグから冊子を取り出す。
「『漫画』という娯楽本です」
漫画の視覚的効果が演劇鑑賞と類似しており、日本では記憶定着がしやすいという研究結果もある。近年の歴史漫画が発行部数が多いのはその研究結果が起因している。
それを踏まえ、題材はフェオルディーノ聖王国の歴史。主人公も初代国王が村人だった所からスタートする。偉人の歴史を楽しく学べるように、コミカルかつ迫力満点の戦闘シーンが描いてもらっている。
作画はエミリー。復讐を遂げ、ハンシェル家の名誉を回復した後、脱け殻になっていた彼女に描いてほしいとお願いしてみたら、新しい生き甲斐を見つけたと言わんばかりに没頭し始めた。
モンスターを描くのが得意なのもあって、モンスターとの戦闘シーンはよく描けていると脳筋属性のマサシゲや騎士達からお言葉頂いている。
会議ではエクスカリバーと出合う一話、今回特別に未発売のオウカ・ハルシノミヤが『ムラマサ』と名乗り、アレクの仲間になる二話目を用意した。
彼らが読んでいる間に、ユウはダンジョン産チョコレートのタルト、ムース、テリーヌの三種盛りをセッティング。
ユウのプレゼンは、まだ始まったばかり。
「こちら、ダンジョンで採れたチョコレートという素材で作ったお菓子です。ご賞味下さいませ」
マサシゲも意外に的確な意見と改善案を出してきたのには驚いた。さすがは宰相家の家宝。
各国の首脳会議の日の数日前には、方針の固まった冒険者ギルドの立案書が完成した。
そして当日、フェオルディーノ城・会議室――。
諸国の国王が一同に介するというロイヤルな会議に混ざる一般人。
場違い感と違和感に苛まれたが、ダンジョンの説明や冒険者ギルドについてはユウから直々に説明する方が良いということで抜擢されてしまった。
ならば仕方あるまい。プレゼンも突っ込んでやろう。
マジックバッグからラルフフロー王を取り出すと、罪人のように拘束された彼を椅子に座らせるなり厳かに会議が進行した。ちなみに進行役はガブリエルだ。
今回の証拠品集めにはヒュースが回収したラルフフロー暗部のナイフと人身売買ルートの指示書からメルヴィン手製のサイコメトリーが真価を発揮。
催眠状態のガブリエルが製作していたが、ラルフフロー王の顔が映り込み、フレデリカがフェオルディーノの王家紋が入ったシーリングスタンプを無断使用していたのも明らかになった。
フェオルディーノも立派な被害国として認定され、各国からは賠償金代わりに問答無用と国土の押収。ちゃっかりナイジェルも少々ばかりの国土を要求していた。
「神子様からも何かご要望はございますか」
「なら、ラルフフロー国内の奴隷解放とお城と、国中の武器と防具と魔道具が欲しいです」
高貴な視線から集中放火を浴びてしまったが、欲しいのは謀反を防ぐための『刀狩り』――と称したフェオルディーノ国内の戦闘道具の補給――で、ラルフフロー王国から支給されている物と貴族達の資産である物に限定する。
傭兵や個人店舗で販売している物、ダンジョンが近いなど、柔軟に対応するが、あくまでも王族と貴族から絞り取るのが目的だ。
「何故、城を?」
「しばらくは一般解放して見学料金を、その後はホテル業とブライダル事業を立ち上げようと思ってます」
「ぶらいだる?」
「結婚式のプランと進行役の業者、というところでしょうか。貴族がターゲットになりますが、お城で挙式なら盛り上がると思うんですよね」
再びエルのツボを突いてしまったようで、まためちゃくちゃ笑われた。他の方々もちょっと肩が震えているんだが。解せぬ、こちとら真面目なのに。
後に面白そうだとフィーとリートが教えてくれた王族の結婚式プログラムを組み込むと馬鹿売れすることになる。
奴隷の解放はリートからの願いだ。
敗戦したリートビアの民は敗者としてラルフフローの奴隷に落とされ、死んでいった。
彼らへの償いにはならないが、それでもラルフフローが亡国となった今、この国の奴隷達にはリートビアの民達が迎えた末路を迎えてほしくない。きっと、リートビアの王達ならば、そう願ったはずだからと懐古した。
「それは、奴隷商のものもか?」
「はい。ラルフフロー国内の奴隷は一律全員です。犯罪行為が確認されなければ、奴隷商人達へ別途補助を行います」
こうして、フェオルディーノという国の滅亡を企てたラルフフローという国が、地図上から消える結末を迎えた。
最早ラルフフローのことなぞ前座でしかないと、マジックバッグの違法改造法案が合意された後、速やかにダンジョンについて会議が移行した。
二国のダンジョンの様子が詳細に語られ、ユウからは神の試練として形式が変わったのではないかと報告し、いよいよ冒険者ギルドの話題に。
これからは間違いなく各国の一般市民の手も借りていかなければダンジョンの対応が間に合わなくなること、経済効果が生まれる理由――ダンジョンではこれから神の試練へ挑む者達に報酬が与えられる形式になる。それを目当てに人々の動きが活発になる。それを妨げないためにも、各領、各国王に協力してもらうのが好ましい。
面白そうではないかとエヴァンハルト帝国の皇帝が真っ先に口を開いた。学生時代にあったら通い詰めていたかもしれないと大層好評を頂いたのを皮切りに、他国も持ち帰って検討してくれることになった。
「文字の読みがな……」
「そうですね。なので、対策の一つとして考案したものがあります」
そう言ってユウはマジックバッグから冊子を取り出す。
「『漫画』という娯楽本です」
漫画の視覚的効果が演劇鑑賞と類似しており、日本では記憶定着がしやすいという研究結果もある。近年の歴史漫画が発行部数が多いのはその研究結果が起因している。
それを踏まえ、題材はフェオルディーノ聖王国の歴史。主人公も初代国王が村人だった所からスタートする。偉人の歴史を楽しく学べるように、コミカルかつ迫力満点の戦闘シーンが描いてもらっている。
作画はエミリー。復讐を遂げ、ハンシェル家の名誉を回復した後、脱け殻になっていた彼女に描いてほしいとお願いしてみたら、新しい生き甲斐を見つけたと言わんばかりに没頭し始めた。
モンスターを描くのが得意なのもあって、モンスターとの戦闘シーンはよく描けていると脳筋属性のマサシゲや騎士達からお言葉頂いている。
会議ではエクスカリバーと出合う一話、今回特別に未発売のオウカ・ハルシノミヤが『ムラマサ』と名乗り、アレクの仲間になる二話目を用意した。
彼らが読んでいる間に、ユウはダンジョン産チョコレートのタルト、ムース、テリーヌの三種盛りをセッティング。
ユウのプレゼンは、まだ始まったばかり。
「こちら、ダンジョンで採れたチョコレートという素材で作ったお菓子です。ご賞味下さいませ」
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