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87話 神・アステリアス
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その後、ガブリエルも話すのは今か今かと楽しみにしていたと暴露し、エルメラも黙ってるの楽しかったわねぇと一緒になって言う。
城の連中みんな突っ込もうと提案したのはユウだったが、黙っているようにガブリエル達から言われていたのだ。
理由はラルフフローには『共通の敵』でいてもらうため。反乱軍はユウの尽力でフェオルディーノ側についてくれた上、教会突入では力を貸してくれた。共闘することで仲間意識が沸けばまだフェオルディーノに再起はある。
ユウが黙っていたことを棒読みで謝罪すれば、奥で立ち尽くしていたレイナードとヴィンセントが途端に顔を覆った。
向かいのナイジェルもややしばらくユウを見つめていたが、深い溜息が漏れた。
「そ、それならそうと……」
「陛下が僕の命令に全て従う傀儡であることに変わりありませんよ」
国盗りの結果は王位に就くなど様々な要因で自分がその国を収める権利を手に入れることだ。ならば、ナイジェルを傀儡にしてしまえば結果国盗りで相違ない。
それにラルフフローの国庫はユウの物であってフェオルディーノの資産にはならない。当然、金の貸し借りはしてやるが必ずきっちり返済してもらう。
「今、陛下が唯一使える部分って何だか知ってます?」
「……」
「王族という権力だけですよ。その権力は貴族という権力者達に絶大な効果を発揮する。陛下にはそれだけしか価値はありません。なのでフィー様、ガブリエル様、『この国のために』、どうぞ遠慮なくコレを使い潰して下さい」
「うむ、心配ない!」「それは助かりますなぁ」
二人からそんな晴れやかな笑顔を向けられてはユウもニッコニコである。
その間に、エルの爆笑がBGMに響き続ける。「歴代最高の神子だ」と笑いまくっている。
しばらくすると盛大に噎せ返って、ようやく息を切らしながら落ち着いたようだった。
今までの様子とは打って変わって微笑を浮かべるエルからは、改めて同胞の救出に尽力してくれたねとに感謝申し上げる、と頭を下げられてしまった。オリオスも一緒にだ。
「我ら二国を代表として、正式にお礼をしたい」
何かあるなら要望に答えると言われたが、そもそもユウ自身がそんなに何かやっているかといえば、実際は特に何もしていない。
情報集めに行ったらほぼ全部教えてもらって、目が覚めれば情報量の嵐が起き、ほっといたら何かしら誰かが調べて教えてくれていた。中心地にはいたが情報提供は個人の善意によるものばかりで特筆してやったことはほとんどない。
フェオルディーノ国内の食糧事情について聞けば、それは国として援助してくれると言われ、ラルフフロー王の脅しは自分達の仕事だと言われてしまった。
「ならば、冒険者ギルドの運営と構想、それに協定などについて我らも協力するのはいかがだろうか。多国間を跨ぐこともあるのだろう?」
「あぁ! なら、それでお願いします!」
それなら各国の合同会議で話題として持ち上げるべきだとオリオスは言う。
ユウの言う通り新しく増えている事実、塔の形をしていないことを知らないだろう。注意喚起の意味合いも必要だ。
ダンジョンには経済的な見込みがあるが、国政だけで応対するには無理があるのだ。ならばやはり一般市民の全面的な協力が必須になる。
「これも、アステリアスの目論見だろうが」
「そのアステリアスって、誰ですか?」
「貴女の親神の名だ。創造と再生を司る、この世界の創造神――天地開闢より、貴女が初めての神子だから大層うかれているのだろう」
ぽんっ! とあのパステルカラーの煙が巻き上がる。そこから現れたのは暁だ。
ユウ様! と嬉しそうに肩へとやって来る。
「神子様! お待たせしました!!」
「相変わらず愛らしい姿だな、アス――」
ぴゅん! とエルの顔へと突っ込んでいった暁が「アステリアスなんて知りませんよ!」と足をパタパタさせた。
人違いだと断固として訴えるご様子の暁だが、随所随所に神様然としていたのはユウも感じていた。ライネスト神を「あの子」と言ったり、意味のないことを言わなかったり――それは、今思えば事の顛末を知っているようだった。
摘んで引き剥がしたエルがユウの手元へと暁を返却してくれた。
「そういえば、『レールガン』について聞かせてもらえるか。要の起爆役を務めた彼も知らないようだしな」
遠くで立ちっぱなしのレイナードも、ちょっと気になってはいたんだろう。そろそろーっと近寄ってきた。ヴィンセントもすすすっと近寄ってきた。
大まかな構造は電磁石に電流を流し込み、強力な磁場を発生させて電機子弾いて乗せておいた高速飛翔体を押し出す兵器だ。時速約七千キロにもなるスピードを生かしてエミリーの認識外から接近した。
普通は人間が乗るものではない。まず電流で即死、打ち出された後はぺしゃんこだ。
そして、ほぼ四秒でエミリーの元へ接近したユウが対応できるはずがない。そこで時間計測ができるクロードだ。〇、〇〇〇〇〇〇〇一秒単位でサポートするという彼に絶妙なタイミングで投げ捨ててもらった。本当に完璧に文字通りドラゴンの目の前に放り出されていたのには驚きだった。
しかし、彼らにはどれも聞き馴染みのない言葉だったようで、一様にきょとんと首を傾げられた。
「実験しますかねぇ……」
城の連中みんな突っ込もうと提案したのはユウだったが、黙っているようにガブリエル達から言われていたのだ。
理由はラルフフローには『共通の敵』でいてもらうため。反乱軍はユウの尽力でフェオルディーノ側についてくれた上、教会突入では力を貸してくれた。共闘することで仲間意識が沸けばまだフェオルディーノに再起はある。
ユウが黙っていたことを棒読みで謝罪すれば、奥で立ち尽くしていたレイナードとヴィンセントが途端に顔を覆った。
向かいのナイジェルもややしばらくユウを見つめていたが、深い溜息が漏れた。
「そ、それならそうと……」
「陛下が僕の命令に全て従う傀儡であることに変わりありませんよ」
国盗りの結果は王位に就くなど様々な要因で自分がその国を収める権利を手に入れることだ。ならば、ナイジェルを傀儡にしてしまえば結果国盗りで相違ない。
それにラルフフローの国庫はユウの物であってフェオルディーノの資産にはならない。当然、金の貸し借りはしてやるが必ずきっちり返済してもらう。
「今、陛下が唯一使える部分って何だか知ってます?」
「……」
「王族という権力だけですよ。その権力は貴族という権力者達に絶大な効果を発揮する。陛下にはそれだけしか価値はありません。なのでフィー様、ガブリエル様、『この国のために』、どうぞ遠慮なくコレを使い潰して下さい」
「うむ、心配ない!」「それは助かりますなぁ」
二人からそんな晴れやかな笑顔を向けられてはユウもニッコニコである。
その間に、エルの爆笑がBGMに響き続ける。「歴代最高の神子だ」と笑いまくっている。
しばらくすると盛大に噎せ返って、ようやく息を切らしながら落ち着いたようだった。
今までの様子とは打って変わって微笑を浮かべるエルからは、改めて同胞の救出に尽力してくれたねとに感謝申し上げる、と頭を下げられてしまった。オリオスも一緒にだ。
「我ら二国を代表として、正式にお礼をしたい」
何かあるなら要望に答えると言われたが、そもそもユウ自身がそんなに何かやっているかといえば、実際は特に何もしていない。
情報集めに行ったらほぼ全部教えてもらって、目が覚めれば情報量の嵐が起き、ほっといたら何かしら誰かが調べて教えてくれていた。中心地にはいたが情報提供は個人の善意によるものばかりで特筆してやったことはほとんどない。
フェオルディーノ国内の食糧事情について聞けば、それは国として援助してくれると言われ、ラルフフロー王の脅しは自分達の仕事だと言われてしまった。
「ならば、冒険者ギルドの運営と構想、それに協定などについて我らも協力するのはいかがだろうか。多国間を跨ぐこともあるのだろう?」
「あぁ! なら、それでお願いします!」
それなら各国の合同会議で話題として持ち上げるべきだとオリオスは言う。
ユウの言う通り新しく増えている事実、塔の形をしていないことを知らないだろう。注意喚起の意味合いも必要だ。
ダンジョンには経済的な見込みがあるが、国政だけで応対するには無理があるのだ。ならばやはり一般市民の全面的な協力が必須になる。
「これも、アステリアスの目論見だろうが」
「そのアステリアスって、誰ですか?」
「貴女の親神の名だ。創造と再生を司る、この世界の創造神――天地開闢より、貴女が初めての神子だから大層うかれているのだろう」
ぽんっ! とあのパステルカラーの煙が巻き上がる。そこから現れたのは暁だ。
ユウ様! と嬉しそうに肩へとやって来る。
「神子様! お待たせしました!!」
「相変わらず愛らしい姿だな、アス――」
ぴゅん! とエルの顔へと突っ込んでいった暁が「アステリアスなんて知りませんよ!」と足をパタパタさせた。
人違いだと断固として訴えるご様子の暁だが、随所随所に神様然としていたのはユウも感じていた。ライネスト神を「あの子」と言ったり、意味のないことを言わなかったり――それは、今思えば事の顛末を知っているようだった。
摘んで引き剥がしたエルがユウの手元へと暁を返却してくれた。
「そういえば、『レールガン』について聞かせてもらえるか。要の起爆役を務めた彼も知らないようだしな」
遠くで立ちっぱなしのレイナードも、ちょっと気になってはいたんだろう。そろそろーっと近寄ってきた。ヴィンセントもすすすっと近寄ってきた。
大まかな構造は電磁石に電流を流し込み、強力な磁場を発生させて電機子弾いて乗せておいた高速飛翔体を押し出す兵器だ。時速約七千キロにもなるスピードを生かしてエミリーの認識外から接近した。
普通は人間が乗るものではない。まず電流で即死、打ち出された後はぺしゃんこだ。
そして、ほぼ四秒でエミリーの元へ接近したユウが対応できるはずがない。そこで時間計測ができるクロードだ。〇、〇〇〇〇〇〇〇一秒単位でサポートするという彼に絶妙なタイミングで投げ捨ててもらった。本当に完璧に文字通りドラゴンの目の前に放り出されていたのには驚きだった。
しかし、彼らにはどれも聞き馴染みのない言葉だったようで、一様にきょとんと首を傾げられた。
「実験しますかねぇ……」
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