無能と追放された神子様は顕現師!~スキルで顕現した付喪神達の方がチートでした~

星見肴

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84話 ツケを取り立てに行こう

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 アジュールに戻るなり、ナイジェルへ「対価を請求しに来ました」とストレートに要件を述べたユウに、カッヘルの屋敷の応接間にて、フィー、ヒュース、ケイオンとリート、それからガブリエルにエミリーと大所帯になった。
 何でしょうかと表情は少々固くも友好的なご様子のナイジェルに、ユウは難しいことじゃありませんと前もって宣言する。

「金銭的な要求ではありません。ただ、私の言うことには全て肯定し、全て必ず実行していただくだけですよ」
「……それは、ちなみに……」
「『かしこまりました、神子様』です」
「……」
「『かしこまりました、神子様』ですよ、陛下。誰のお陰で首の皮一枚繋がっているのか、お分かりではないのかな」

 そう言い返すユウに戸惑いが滲み出てきたナイジェルだが、かまわずユウはエレノアに全面的な謝罪を認めた書面の作成を言いつける。あんなゴミと婚約させていたのは全面的にナイジェルの非であるという旨が明記された書面だ。
 寄って集って嵌められた連中の処理はガブリエルに一任させれば良い。そう言ったらキラッキラの笑顔でもちろんやるとガブリエルが返答した。

「続いてハンシェル領で起きた感染病に援助しなかったこと、死亡者を拡大させたのも国に非があると全面的に認めた書面を。その上で、ハンシェル領からの救援要請を拒んだ領主の逮捕、貴族達には爵位の剥奪です」
「そちらは、今すぐには――」
「言い訳をするな。僕の言うことには?」

 沈黙で返そうとするナイジェルにユウは追撃する。

「ならば、こちらからの問いに全て答えろ。お前の頭に何も詰まっていないことを証明してやる」

 予防で有力的とされている方法、滅菌効果のある液体、そんな風に知っている簡単なことに尋ねる。この国の医療水準が低いのは予想の範疇。淡々と質問責めにしていく。数分という短い間の中で詰め込むだけ情報を詰め込んでやった。
 ユウはふてぶてしく膝について肘で頭を支える。

「で? ネズミやハエといった病原菌の温床でもある下水道の掃除を放置していた理由は」
「……」
「神子様、口を挟んでもよろしいかの」
「何でしょう」
「今の医療大臣達も知らぬ情報のオンパレードなんじゃが」
「何で国の中枢とも言える大事な場所に能無ししかいないのですか、陛下」
「……」
「質問に、答えろ」
「わ、私の不徳の致すところ……」

 ごにょっと、どもった言い方をする感じがなんとも、クリスとよく似ている。

「年間の死亡者数について何か思ったことは」
「……」
「貴方が流し読みした死亡者数の中に、貴方にとってリナリー様のような存在が何百何千人も亡くなっているのに何もお考えではなかったと?」

 良い度胸だ、とユウは告げる。

「ならば次は貴方がいかに何もしてこなかったか、その証明討論だ。せいぜいその足りない頭で言い訳してみせれば良い」

 ◇◇◇

 エミリーの親族を襲った感染症については分からないが、一箇所に集めるにしてもぎゅうぎゅうに詰めるのではなく、ある一定の距離を保ち、仕切りも本来必要だっただろう。
 こういった知識はたくさんの人命を守るのに必要なことだ。だからこそ政府は積極的に発信していかなければいけない――それは、貴族の領主にも伝達されるべきことだったはずだ。

「なら、大事なことなのに各領地において感染症や病の対策について政府はどんな施策を?」
「領主に一存じゃ」
「そうですか。無能が過ぎますね。ならば、ハンシェル領の感染症は対処すればどうにかできる病だった点についてですが、何故これまで対処できてきたものに対処できなかったのでしょうか。この点についてどう思われますか陛下」
「……」
からですよ。お分かりになりませんか?」

 自分達優先の領主ならば、自分達は助かるためだけの対策をしておいて他は捨て置く。王都にドラゴンが出ると事前に知らされてすぐ金目の物を持って王都を離れた貴族達なんて良い例だ。

 ハンシェル領はどうしようもなくなったところで発生した感染病に首が回らなくなった。だから国に救援要請を出した。他領に求めた。
 だが、国は要請を拒否し、他領の人間達は嗤いながらその手を振り払った。ヒュースがどこぞの学生を名指しにして嗤って言っていたと告げる声に、僅かな怒気が含まれていた。

 結果、起こった暴動に抗うという選択すら残っていなかったのかもしれない。
 領民が他領の支配か、あるいは移住で生きられるかもと考えた可能性は大いにある。

「ハンシェル家の方は人情があって、決して貴方のような薄情な人間ではなかった。エミリーさんだけでも他国へ逃れるようにと逃がしてくれたのでしょう。それぐらい決定的にお前とは人間性が違う」

 ひっく、と小さく喉を引きつらせる声が聞こえる。いつの間にか俯いて顔を覆っていたエミリーだ。

「――んで……なんでよぉ……」

 涙で潤んだ声で、小さく小さく、そんな問いを零す。

「分かりますよ。君はずっと、ご家族のために怒っていたじゃないですか」

 ドラゴンになる前、彼女は叫んだ。
 お前達、教会が父を殺した。
 もう父はいない。母も祖父も、祖母も、もう誰もいない。

 最後、愛してるか問えば、当たり前だと叫んだ。

 数々の理不尽に見舞われ、今まで領民のためと尽力してきても一方的な理由でハンシェル領はなくなった。今でも彼等は罪人扱いだ。

 そんな人達ではないと訴えられるのは、もうエミリーだけ。
 ここで諦めたら全てハンシェル家のせいにされてしまう。

 一人にされても、泣いて休む時間もなく現実に追い立てられた彼女は、どれだけボロボロでも走って、この国の滅びを現実に描ききった。

 フェオルディーノ城を壊した時点でエミリーの完全勝利だ――それを、何事もなかったことにしたのは、ユウだが。

「何も知らない? でも、その官僚は貴方が雇い続けていたんですよね? 言い逃れが出来るとお思いかな」
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