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81話 神子の力
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今まで瓦礫となって散らばっていたそれらは、意思を持って浮かび上がると一つの長方形の石となる。燃やされて焦げて、破壊されていた調度品や家具達も、小さく散っていた木の繊維が元の位置に収まり、燃えてなくなったはずの破片すら何もないところから現れ、損傷箇所へと寸分違わない位置に戻り、修復されていく。
そして今、地面にただ無造作に散らばっていた煉瓦達が我先城を建て直さんと、四方八方から石材が飛んで戻っていく。
それらは全て時間を巻き戻されるように、一つ一つの素材が元いた位置に帰っていく――。
町も、炎弾で破壊され燃やされ、炭化していた建物もみるみるうちに元に戻り、折れた所が次々に直されていく。その中に一人立つオークが乾いた笑いを漏らしているのを、誰もが聞く者はいない。
物達を癒すその光は広大な敷地を持つヒュースウェル学園の全域にもおよび、さらにアジュールにまで到達して、次々に壊れていた物を片っ端から修復していく。
そして最後に、ふっとフェオルディーノ王家紋が施された旗が黄金色の中でユラユラとはためいた。
完璧です! と告げる暁。
ユウはスキルの行使を終える。酷く短い幻想的な黄金色が空気に溶けて見えなくなっていった。
ついさっきまでなくなっていたフェオルディーノ城を見上げながら、手をぱんぱんと叩いて手に付いた砂を叩き落とす。
まるで城など破壊された痕跡などどこにもなかったように、誰もが再生された王城に言葉を失い、見上げて硬直していた。
そんな彼らの背へ、ねぇ、と呼び掛けてユウは傲慢に言い放つ。
「それで、何かあったのかな?」
そもそも、王都で死んだ人も、町で死んだ人もいない。暁が、キングス三家の協力の元、ヒュースの手により都民の避難も完全に完了していたと口添えしてくれる。
このザマでは、王都にドラゴンが出ただけである。エミリーが罪に問われるようなことなんて何もないではないか。
ユウは異世界に来て約二週間という短い時間で、権力について勉強した。
それはもうとても勉強になったんだと彼らに語り掛ける。
「例え人が死んでいてもどうということはない。証拠は隠蔽して揉み消せば罪に問われないんだ。権力者が圧を掛ければ捜査は強制打ち切りになる――今までの権力者達は、みんなそうだったよね」
「斜め上の解答で感心だ、ミコサマ」
ユウを見つけたマサシゲがケラケラと笑っている。
駆け寄ってきて心配そうなラセツにユウは大丈夫だと頷く。
「それで? これいるか?」
中に人差し指を入れ、指先でくるくると回していたのは王冠だ。いります! と両手を上げれば投げて寄越された。ついでに、飛んで行く際に預けたマジックバッグも帰って来た。フィーも横に現れた。早速、顕現させると、彼女はきょとんとしている。
「妾、壊れなかったかのう?」
「白昼夢じゃないですかね?」
「そうだな、白昼夢だ。気のせいだな」
「どこも壊れてないですよね?」
「そうじゃ! そうなんじゃ、神子様よ! 妾、作り立てになっておる!!」
表面の石一粒一粒が際立っているだとか、今までガタが多かったが建てられたばかりの時のように身体が軽いとめちゃくちゃ喜んでくれた。確かに、城の肌色が明るい気がする。
他のメンバーもフィーへとド突かんばかりの勢いで駆け付けてきた。エクスなんぞガチで飛び込んできて、フィー自身がかわさなかったら一緒に地面へ倒れ込んでいただろう。
遠くからは絨毯に乗ったハッテルミーとクロードの姿も見えた。そういえばぶっ飛んでいたんだった。彼らにも手を振っていれば、エルメラもリートを連れてやって来た。
身体の方を心配されたが、ご覧の通り騎士と魔法師に証拠隠滅を見せつけるぐらいに元気が有り余っている。
マジックバッグから廃嫡を記した書面を取り出して、ユウは王冠に浄化の魔法を使うと、クリスがごろりと転がった。
呆然としている隙に、マサシゲが胸倉を掴み上げて立たせると片腕を締め上げながら、拘束する。もう一方の腕はジャストタイミングで降りて来たクロードがもう片方腕を押さえ込んでくれた。
「どうも、本日はお日柄も良く素敵で最高な日ですね、元王太子殿」
「なっ?! お、お前が何で!」
「こちらをどうぞ。君の廃嫡が正式に決定した書面ですよ」
王冠になっていた時の記憶が曖昧なのだろうか。それとも思考を放棄したのか。そんなはずはないと書面を読み込んだクリスの顔が真っ青になっていく。
そんな馬鹿な! と、悲鳴を上げる。
そして今、地面にただ無造作に散らばっていた煉瓦達が我先城を建て直さんと、四方八方から石材が飛んで戻っていく。
それらは全て時間を巻き戻されるように、一つ一つの素材が元いた位置に帰っていく――。
町も、炎弾で破壊され燃やされ、炭化していた建物もみるみるうちに元に戻り、折れた所が次々に直されていく。その中に一人立つオークが乾いた笑いを漏らしているのを、誰もが聞く者はいない。
物達を癒すその光は広大な敷地を持つヒュースウェル学園の全域にもおよび、さらにアジュールにまで到達して、次々に壊れていた物を片っ端から修復していく。
そして最後に、ふっとフェオルディーノ王家紋が施された旗が黄金色の中でユラユラとはためいた。
完璧です! と告げる暁。
ユウはスキルの行使を終える。酷く短い幻想的な黄金色が空気に溶けて見えなくなっていった。
ついさっきまでなくなっていたフェオルディーノ城を見上げながら、手をぱんぱんと叩いて手に付いた砂を叩き落とす。
まるで城など破壊された痕跡などどこにもなかったように、誰もが再生された王城に言葉を失い、見上げて硬直していた。
そんな彼らの背へ、ねぇ、と呼び掛けてユウは傲慢に言い放つ。
「それで、何かあったのかな?」
そもそも、王都で死んだ人も、町で死んだ人もいない。暁が、キングス三家の協力の元、ヒュースの手により都民の避難も完全に完了していたと口添えしてくれる。
このザマでは、王都にドラゴンが出ただけである。エミリーが罪に問われるようなことなんて何もないではないか。
ユウは異世界に来て約二週間という短い時間で、権力について勉強した。
それはもうとても勉強になったんだと彼らに語り掛ける。
「例え人が死んでいてもどうということはない。証拠は隠蔽して揉み消せば罪に問われないんだ。権力者が圧を掛ければ捜査は強制打ち切りになる――今までの権力者達は、みんなそうだったよね」
「斜め上の解答で感心だ、ミコサマ」
ユウを見つけたマサシゲがケラケラと笑っている。
駆け寄ってきて心配そうなラセツにユウは大丈夫だと頷く。
「それで? これいるか?」
中に人差し指を入れ、指先でくるくると回していたのは王冠だ。いります! と両手を上げれば投げて寄越された。ついでに、飛んで行く際に預けたマジックバッグも帰って来た。フィーも横に現れた。早速、顕現させると、彼女はきょとんとしている。
「妾、壊れなかったかのう?」
「白昼夢じゃないですかね?」
「そうだな、白昼夢だ。気のせいだな」
「どこも壊れてないですよね?」
「そうじゃ! そうなんじゃ、神子様よ! 妾、作り立てになっておる!!」
表面の石一粒一粒が際立っているだとか、今までガタが多かったが建てられたばかりの時のように身体が軽いとめちゃくちゃ喜んでくれた。確かに、城の肌色が明るい気がする。
他のメンバーもフィーへとド突かんばかりの勢いで駆け付けてきた。エクスなんぞガチで飛び込んできて、フィー自身がかわさなかったら一緒に地面へ倒れ込んでいただろう。
遠くからは絨毯に乗ったハッテルミーとクロードの姿も見えた。そういえばぶっ飛んでいたんだった。彼らにも手を振っていれば、エルメラもリートを連れてやって来た。
身体の方を心配されたが、ご覧の通り騎士と魔法師に証拠隠滅を見せつけるぐらいに元気が有り余っている。
マジックバッグから廃嫡を記した書面を取り出して、ユウは王冠に浄化の魔法を使うと、クリスがごろりと転がった。
呆然としている隙に、マサシゲが胸倉を掴み上げて立たせると片腕を締め上げながら、拘束する。もう一方の腕はジャストタイミングで降りて来たクロードがもう片方腕を押さえ込んでくれた。
「どうも、本日はお日柄も良く素敵で最高な日ですね、元王太子殿」
「なっ?! お、お前が何で!」
「こちらをどうぞ。君の廃嫡が正式に決定した書面ですよ」
王冠になっていた時の記憶が曖昧なのだろうか。それとも思考を放棄したのか。そんなはずはないと書面を読み込んだクリスの顔が真っ青になっていく。
そんな馬鹿な! と、悲鳴を上げる。
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