上 下
82 / 93

80話 君の勝ち

しおりを挟む
 腕が痛い、体が痺れている気がする、肩の間接が異様に痛い。でも目の前の黄金色にユウが記すは日本語。

 異世界系では定番になりつつある三文字――無効化

 ユウは一秒ごとに景色が変わる怒涛の三秒後、縦に割れた瞳孔へ目掛けてデカデカ記した『無効化』の魔法を、握り拳に乗せて叩き込む。
 ぬるっとしたプラスチックのような感覚が拳にめり込んでずるりと滑る。

 だがその勢いは止まらず、そのまま体もめり込んだ。

 ぱぁあああああんっ!

 まるで耳元で花火が弾け飛んだような爆音と、無数の黄金色の光が舞った。それは、金色の四尺玉の花火の中にいるようだった。そんな光の中、ユウは勢いの止まらない体に飛行の魔法を掛けて空中で何とか留まる。

 だがその黄金色の世界の中、黒い塊がぽつねんと不自然に浮かんでいる。
 ユウは急降下する。瞬く間に彼女へと距離が詰まる。ユウとエミリーの距離は一気に縮んでいく。

 距離が縮まったところで、エミリーの体に「浮遊」の魔法を使って浮かせ、緩やかに距離を詰めて、その両手を取る。


「君の勝ちだ、エミリーさん!」


 思わず喜色満面を浮かべるユウだったが、彼女はただぼんやりとユウを見上げていた。
 黄金色の世界は緩やかに光を失っていく。空中でしばらくクルクル回った後、ユウは地上へと降りていく。

 ユウはリアムを見つけて、その場所へと降り立った。
 エミ! と駆け寄ってきたリアムがエミリーを力強く抱き締める。

「一人にしてごめんね、エミ……私にもっと力があれば、エミを一人にせずに済んだのに……」
「ちがう……ちがう……お父様は、教会の連中に……殺されて……っ」

 この人はお父さんなんかじゃない。そう言葉を出そうとしているのに、エミリーの声はどんどん潤んでいく。

 リアムはユウのスキルで魂が実体を得ていること。今こうして体を得ているのは教会の地下に張られた結界に閉じ込められて、死んでもなお教会地下に捕らわれていたからだと、ゆっくりゆっくり説明していく。
 だから生き返ったわけではない。ただ、生きている人と同じように現世に留まる時間が少し増えているだけなのだと諭すように優しく語り掛けた。

「こうやってエミにまた会えたのも、神子様のお陰なんだ」

 言葉を失っている彼女に構わず、リアムは嬉しそうに笑いながらエミリー描いたドラゴンを初めて見たと興奮したように言う。
 すると、エミリーは声を震わせながら。

「ほ、本当は……お祖父様に、描いちゃだめって、言われてたから……」

 随分幼い頃、空中に描いたモンスターが動き出したのを自慢しに行ったら、血相変えて止められたんだと彼女は言う。それがスキルの効果だとは露とも知らなかった。

 ポツポツと語るエミリーに、リアムと一緒になってユウも納得してしまう。効果は折り紙つきだ。国内最強と謳われたヴィンセント・ベルセルクの必殺技凌ぎ切ったのだから。

 それを見てからというものリアムの心配はどこぞに吹き飛んでしまったらしい。本来ならあの必殺技はどんな防御力が高く、火耐性があっても、ほとんどのモンスターを焼き払う高火力の魔法攻撃だ。リアムも幾度となくその結末を見届けてきた。

 ところがその攻撃を耐え凌いだエミリーのドラゴンを見て、「あれ? うちの娘やたら強くね?」とそっちに頭が行ってしまった。

 確かにユウも『怒らせてはいけない人ランキング』二位にエミリーがランクインした瞬間だった。もちろん一位はガブリエルお爺ちゃんである。あの人は敵に回したら一番ヤバイ。

 そんな時にようやくと言うべきか、ヴィンセント達が到着する。浮かない顔で彼は少しボロボロになっている大剣を地面へと突き刺した。

「水を差してすまないが、エミリー・アマンダを」
「……」「……」
「どうするの?」
「……国家転覆罪です」
「その言い分を通すなら、まずは陛下の首を僕に差し出すのが道理ですよね」

 言ってしまえば国に仕えていた彼らだって同罪だ。明日は我が身だとは微塵も思わなかったのか。命を懸けて戦ってくれた仲間達に退職金も支払われないのに。

 それで弱者から税金を強奪していたというのならとんだ傲慢だ。反旗を翻したダレットの方がよほど正しい。

 彼らに問う。アジュールの中を見たことが今までに一度でもあったかと。何度もモンスターに強襲されて、負傷していた人が何十人もいた。
 誰かのために戦ってくれた人がいた。それなのに、怪我人も病人も放置されたままだった。

「あの状況を見たら、スタンピートが発生した時アジュールの住人を生け贄にするために作った町なんだと思ったよ」

 ラルフフロー兵がどうとか関係なく、国を、守るべき民のために、彼らは何かしようと思ったことがあるだろうか。

 その問いに、彼らから返事はなかった。

 暁を呼んで、ユウは確認する。

「ここから本気でスキル使ったら、半径どこまででしょうか?」
「ユウ様であればアジュール半分入りますね!」

 よしよしとユウが地面に両手を付ければ、すぐに地面から黄金色の光が広がっていく。それが瞬く間に王都を飛び出し、アジュールへと至ると、ユラユラと光が天へと立ち昇った。

 それはマサシゲ達を顕現させた時のような黄金色のオーロラが揺れ、オーブが舞い上がる世界だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手

Outlook!
ファンタジー
経緯は朝活動始まる一分前、それは突然起こった。床が突如、眩い光が輝き始め、輝きが膨大になった瞬間、俺を含めて30人のクラスメイト達がどこか知らない所に寝かされていた。 俺達はその後、いかにも王様っぽいひとに出会い、「七つの剣を探してほしい」と言われた。皆最初は否定してたが、俺はこの世界に残りたいがために今まで閉じていた口を開いた。 そしてステータスを確認するときに、俺は驚愕する他なかった。 理由は簡単、皆の授かった固有スキルには強スキルがあるのに対して、俺が授かったのはバットスキルにも程がある、状態異常倍加だったからだ。 ※不定期更新です。ゆっくりと投稿していこうと思いますので、どうかよろしくお願いします。 カクヨム、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...