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80話 君の勝ち
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腕が痛い、体が痺れている気がする、肩の間接が異様に痛い。でも目の前の黄金色にユウが記すは日本語。
異世界系では定番になりつつある三文字――無効化。
ユウは一秒ごとに景色が変わる怒涛の三秒後、縦に割れた瞳孔へ目掛けてデカデカ記した『無効化』の魔法を、握り拳に乗せて叩き込む。
ぬるっとしたプラスチックのような感覚が拳にめり込んでずるりと滑る。
だがその勢いは止まらず、そのまま体もめり込んだ。
ぱぁあああああんっ!
まるで耳元で花火が弾け飛んだような爆音と、無数の黄金色の光が舞った。それは、金色の四尺玉の花火の中にいるようだった。そんな光の中、ユウは勢いの止まらない体に飛行の魔法を掛けて空中で何とか留まる。
だがその黄金色の世界の中、黒い塊がぽつねんと不自然に浮かんでいる。
ユウは急降下する。瞬く間に彼女へと距離が詰まる。ユウとエミリーの距離は一気に縮んでいく。
距離が縮まったところで、エミリーの体に「浮遊」の魔法を使って浮かせ、緩やかに距離を詰めて、その両手を取る。
「君の勝ちだ、エミリーさん!」
思わず喜色満面を浮かべるユウだったが、彼女はただぼんやりとユウを見上げていた。
黄金色の世界は緩やかに光を失っていく。空中でしばらくクルクル回った後、ユウは地上へと降りていく。
ユウはリアムを見つけて、その場所へと降り立った。
エミ! と駆け寄ってきたリアムがエミリーを力強く抱き締める。
「一人にしてごめんね、エミ……私にもっと力があれば、エミを一人にせずに済んだのに……」
「ちがう……ちがう……お父様は、教会の連中に……殺されて……っ」
この人はお父さんなんかじゃない。そう言葉を出そうとしているのに、エミリーの声はどんどん潤んでいく。
リアムはユウのスキルで魂が実体を得ていること。今こうして体を得ているのは教会の地下に張られた結界に閉じ込められて、死んでもなお教会地下に捕らわれていたからだと、ゆっくりゆっくり説明していく。
だから生き返ったわけではない。ただ、生きている人と同じように現世に留まる時間が少し増えているだけなのだと諭すように優しく語り掛けた。
「こうやってエミにまた会えたのも、神子様のお陰なんだ」
言葉を失っている彼女に構わず、リアムは嬉しそうに笑いながらエミリー描いたドラゴンを初めて見たと興奮したように言う。
すると、エミリーは声を震わせながら。
「ほ、本当は……お祖父様に、描いちゃだめって、言われてたから……」
随分幼い頃、空中に描いたモンスターが動き出したのを自慢しに行ったら、血相変えて止められたんだと彼女は言う。それがスキルの効果だとは露とも知らなかった。
ポツポツと語るエミリーに、リアムと一緒になってユウも納得してしまう。効果は折り紙つきだ。国内最強と謳われたヴィンセント・ベルセルクの必殺技凌ぎ切ったのだから。
それを見てからというものリアムの心配はどこぞに吹き飛んでしまったらしい。本来ならあの必殺技はどんな防御力が高く、火耐性があっても、ほとんどのモンスターを焼き払う高火力の魔法攻撃だ。リアムも幾度となくその結末を見届けてきた。
ところがその攻撃を耐え凌いだエミリーのドラゴンを見て、「あれ? うちの娘やたら強くね?」とそっちに頭が行ってしまった。
確かにユウも『怒らせてはいけない人ランキング』二位にエミリーがランクインした瞬間だった。もちろん一位はガブリエルお爺ちゃんである。あの人は敵に回したら一番ヤバイ。
そんな時にようやくと言うべきか、ヴィンセント達が到着する。浮かない顔で彼は少しボロボロになっている大剣を地面へと突き刺した。
「水を差してすまないが、エミリー・アマンダを」
「……」「……」
「どうするの?」
「……国家転覆罪です」
「その言い分を通すなら、まずは陛下の首を僕に差し出すのが道理ですよね」
言ってしまえば国に仕えていた彼らだって同罪だ。明日は我が身だとは微塵も思わなかったのか。命を懸けて戦ってくれた仲間達に退職金も支払われないのに。
それで弱者から税金を強奪していたというのならとんだ傲慢だ。反旗を翻したダレットの方がよほど正しい。
彼らに問う。アジュールの中を見たことが今までに一度でもあったかと。何度もモンスターに強襲されて、負傷していた人が何十人もいた。
誰かのために戦ってくれた人がいた。それなのに、怪我人も病人も放置されたままだった。
「あの状況を見たら、スタンピートが発生した時アジュールの住人を生け贄にするために作った町なんだと思ったよ」
ラルフフロー兵がどうとか関係なく、国を、守るべき民のために、彼らは何かしようと思ったことがあるだろうか。
その問いに、彼らから返事はなかった。
暁を呼んで、ユウは確認する。
「ここから本気でスキル使ったら、半径どこまででしょうか?」
「ユウ様であればアジュール半分入りますね!」
よしよしとユウが地面に両手を付ければ、すぐに地面から黄金色の光が広がっていく。それが瞬く間に王都を飛び出し、アジュールへと至ると、ユラユラと光が天へと立ち昇った。
それはマサシゲ達を顕現させた時のような黄金色のオーロラが揺れ、オーブが舞い上がる世界だ。
異世界系では定番になりつつある三文字――無効化。
ユウは一秒ごとに景色が変わる怒涛の三秒後、縦に割れた瞳孔へ目掛けてデカデカ記した『無効化』の魔法を、握り拳に乗せて叩き込む。
ぬるっとしたプラスチックのような感覚が拳にめり込んでずるりと滑る。
だがその勢いは止まらず、そのまま体もめり込んだ。
ぱぁあああああんっ!
まるで耳元で花火が弾け飛んだような爆音と、無数の黄金色の光が舞った。それは、金色の四尺玉の花火の中にいるようだった。そんな光の中、ユウは勢いの止まらない体に飛行の魔法を掛けて空中で何とか留まる。
だがその黄金色の世界の中、黒い塊がぽつねんと不自然に浮かんでいる。
ユウは急降下する。瞬く間に彼女へと距離が詰まる。ユウとエミリーの距離は一気に縮んでいく。
距離が縮まったところで、エミリーの体に「浮遊」の魔法を使って浮かせ、緩やかに距離を詰めて、その両手を取る。
「君の勝ちだ、エミリーさん!」
思わず喜色満面を浮かべるユウだったが、彼女はただぼんやりとユウを見上げていた。
黄金色の世界は緩やかに光を失っていく。空中でしばらくクルクル回った後、ユウは地上へと降りていく。
ユウはリアムを見つけて、その場所へと降り立った。
エミ! と駆け寄ってきたリアムがエミリーを力強く抱き締める。
「一人にしてごめんね、エミ……私にもっと力があれば、エミを一人にせずに済んだのに……」
「ちがう……ちがう……お父様は、教会の連中に……殺されて……っ」
この人はお父さんなんかじゃない。そう言葉を出そうとしているのに、エミリーの声はどんどん潤んでいく。
リアムはユウのスキルで魂が実体を得ていること。今こうして体を得ているのは教会の地下に張られた結界に閉じ込められて、死んでもなお教会地下に捕らわれていたからだと、ゆっくりゆっくり説明していく。
だから生き返ったわけではない。ただ、生きている人と同じように現世に留まる時間が少し増えているだけなのだと諭すように優しく語り掛けた。
「こうやってエミにまた会えたのも、神子様のお陰なんだ」
言葉を失っている彼女に構わず、リアムは嬉しそうに笑いながらエミリー描いたドラゴンを初めて見たと興奮したように言う。
すると、エミリーは声を震わせながら。
「ほ、本当は……お祖父様に、描いちゃだめって、言われてたから……」
随分幼い頃、空中に描いたモンスターが動き出したのを自慢しに行ったら、血相変えて止められたんだと彼女は言う。それがスキルの効果だとは露とも知らなかった。
ポツポツと語るエミリーに、リアムと一緒になってユウも納得してしまう。効果は折り紙つきだ。国内最強と謳われたヴィンセント・ベルセルクの必殺技凌ぎ切ったのだから。
それを見てからというものリアムの心配はどこぞに吹き飛んでしまったらしい。本来ならあの必殺技はどんな防御力が高く、火耐性があっても、ほとんどのモンスターを焼き払う高火力の魔法攻撃だ。リアムも幾度となくその結末を見届けてきた。
ところがその攻撃を耐え凌いだエミリーのドラゴンを見て、「あれ? うちの娘やたら強くね?」とそっちに頭が行ってしまった。
確かにユウも『怒らせてはいけない人ランキング』二位にエミリーがランクインした瞬間だった。もちろん一位はガブリエルお爺ちゃんである。あの人は敵に回したら一番ヤバイ。
そんな時にようやくと言うべきか、ヴィンセント達が到着する。浮かない顔で彼は少しボロボロになっている大剣を地面へと突き刺した。
「水を差してすまないが、エミリー・アマンダを」
「……」「……」
「どうするの?」
「……国家転覆罪です」
「その言い分を通すなら、まずは陛下の首を僕に差し出すのが道理ですよね」
言ってしまえば国に仕えていた彼らだって同罪だ。明日は我が身だとは微塵も思わなかったのか。命を懸けて戦ってくれた仲間達に退職金も支払われないのに。
それで弱者から税金を強奪していたというのならとんだ傲慢だ。反旗を翻したダレットの方がよほど正しい。
彼らに問う。アジュールの中を見たことが今までに一度でもあったかと。何度もモンスターに強襲されて、負傷していた人が何十人もいた。
誰かのために戦ってくれた人がいた。それなのに、怪我人も病人も放置されたままだった。
「あの状況を見たら、スタンピートが発生した時アジュールの住人を生け贄にするために作った町なんだと思ったよ」
ラルフフロー兵がどうとか関係なく、国を、守るべき民のために、彼らは何かしようと思ったことがあるだろうか。
その問いに、彼らから返事はなかった。
暁を呼んで、ユウは確認する。
「ここから本気でスキル使ったら、半径どこまででしょうか?」
「ユウ様であればアジュール半分入りますね!」
よしよしとユウが地面に両手を付ければ、すぐに地面から黄金色の光が広がっていく。それが瞬く間に王都を飛び出し、アジュールへと至ると、ユラユラと光が天へと立ち昇った。
それはマサシゲ達を顕現させた時のような黄金色のオーロラが揺れ、オーブが舞い上がる世界だ。
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