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78話 塗り直し
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どぉおおおおおん!
光が空気中で爆ぜる。光の道筋を途中で何かに阻まれたように堰き止められ、その場で湖の水面のように広がった。
やがて凶悪な光線は弾けて消える。何事もなかったように。
そこには別の巨大な魔法が浮かんでいるのが遠目に見えた。
《ごめんなさいね、ユウ様。もうちょっと早く来れば良かったわね》
《エルメラ様!》
《すごいです! エルメラさんは転移魔法の他にも古代魔法が使えるんですね?!》
《あれっ? リート様??》
《話は後にするわね、ユウ様。で、ラセツ。これぐらい止めないとあなた何もできないわよ》
念話から飛んで来たエルメラのスパルタ発言にそんな馬鹿なと驚愕するユウだが、ラセツは怯えきった様子で「はい……!」と返事してしまう。パワハラ上司とその部下の現場みたいだ。
ユウはそっと降ろされた。さっきはぼうっとしていたがちゃんと自分の身は自分で守れるから大丈夫だとしっかり伝える。そうじゃないと来てしまいそうだ。
再び飛竜の炎弾が再びユウ達を狙って各所へと砲撃してくる。飛んでくる炎弾をマサシゲと、ピアを守るのに専念するエクスが切り捨て、ラセツも再び札を握って走り出す。ユウに向かって飛んで来た炎弾は「消去」の二文字で雲散霧消させる。
少し離れた場所では飛竜の初弾で負傷した仲間達を治療、炎弾の攻撃を防御魔法で守る班で集まっているそこで、レイナードが防御魔法の前に立っていた。
普通は内側ではないのかと思ったが、向かって来ている炎弾をタイミング合わせて横凪ぎに剣を振るうと、炎弾が弾き返されて飛竜の群れの中へと戻って行った。飛竜達はそれをヒラリとかわす。
「……弾いてる」
《ただいま~! 騎士達の方加勢するかい?》
《お願いします!》
飛竜たちの攻撃頻度が増えてきた。そんな中、飛行魔法で飛び上がる魔法師達数名と、空飛ぶ絨毯に立つヴィンセントが上空へと舞い上がった。
ヴィンセントが赤い髪を靡かせ、絨毯からはみ出るほど大きい赤々とした魔法陣を展開する。格好の的だと飛んで来る飛竜だが、飛行魔法の魔法師達で守り、間に合わないものはハッテルミーが当たらないよう飛んでかわす。
大剣を握り、ざっと絨毯上に足を開いて踏ん張る。
その大剣に赤く燃え盛る炎が逆巻く。
後方退避! とヴィンセントの雄叫びに、魔法師達が一斉にその場から彼の後ろ側へと回っていく。
「燃やし尽くせ、『ケルマ・アルバ』!!」
炎の剣が横に凪がれる。その剣の軌道に合わせて、巨大な炎が空中に炎の海を燃え上がらせる。その熱量は下にいるユウ達にまで喉を焼くような熱風を叩き付けてくる。
業火のような炎に次々と巻き込まれた飛竜達をの影は炎の中で燃え尽き、ドラゴンの頭部へ迫る――その直前、クロードが肩の上に出現した。
「「「「クロード?!」」」」
掌底を叩き込んだ瞬間、ドラゴンの頭がガクン!! と大きく横に傾いた。その姿はすぐに消えたが、その直後にヴィンセントの炎がドラゴンの首から頭を飲み込んだ。
《クロード、お前大丈夫か?!》《なっ?! ななな何やってるんですかぁ!?》
《鱗を伝って登りました》
《いや登った方法じゃねぇ! どうしてそこにいたんだって話だよ!!》
《鱗を砕ければ皆さんも攻撃が通じやすいと思ったのですが》
《くっそ!! 会話が成立しているのに何か通じてる気がしねぇっ!!》
炎の天蓋に照らされる中、オークから念話が入る。
都民達の避難状況について殆どがすでにヒュースウェル学園へ避難し、貴族達は王都から逃げていること、現在はドラゴンが出ると知らせに行っても信じてくれなかったスラムの人々も続々と避難してきているため、オークは引き続き住民避難を優先すると念話が切れた。
この予定調和感の答えが出る。
フィーがわざとこの事実を伏せて、城が壊れるように見せた理由も。
そして、この火の海に場違いなファンシーな煙が弾ける。
「お待たせいたしました! アカツキ、ただいま参じましたよ!」
「アカツキ、来てくれてありがとう」
グォオオオオオオオオオオオオ!!
ドラゴンの咆哮が上がる。炎の中から現れたドラゴンの白かった鱗は割れた部分から黒く焼け焦げ、全体が焼け焦げたように色が変色していた。
いけると思ったヴィンセントが、再び攻撃魔法を放とうと魔法陣を展開した。
しかし、ドラゴンに頭部に異変が始まる。
たった今まで焼けていた鱗も、焦げてきた鱗も、みるみるうちに
元通りの高潔な白へと戻っていくのだ。
(いや、塗り直してる)
未だピアの浄化魔法で足を透けさせても、再び塗り直して元に戻しているように。
そういえばとユウは自分で言った言葉を思い出す。
エミリーのスキルは上書きに特化している、と。
これから何度傷を付けても、焼いても答えは同じなのだ。何度でも上書きできてしまう。
ヒュースが以前、クリスに模様が浮かんだ時、魔力も呪力も感じなかった、と言っていた。そしてエレノアは回復魔法にスキル効果を上乗せした時もこう言っていた。
『浄化の方はみこ――ユウ様から助言を頂いてスキルでやっています。だから、ほとんどが治癒魔法に……』
この世界では、スキルに魔力消費が伴わないものなんだ。
いやにはっきりと、頭に絶望的な現状が導き出された。
光が空気中で爆ぜる。光の道筋を途中で何かに阻まれたように堰き止められ、その場で湖の水面のように広がった。
やがて凶悪な光線は弾けて消える。何事もなかったように。
そこには別の巨大な魔法が浮かんでいるのが遠目に見えた。
《ごめんなさいね、ユウ様。もうちょっと早く来れば良かったわね》
《エルメラ様!》
《すごいです! エルメラさんは転移魔法の他にも古代魔法が使えるんですね?!》
《あれっ? リート様??》
《話は後にするわね、ユウ様。で、ラセツ。これぐらい止めないとあなた何もできないわよ》
念話から飛んで来たエルメラのスパルタ発言にそんな馬鹿なと驚愕するユウだが、ラセツは怯えきった様子で「はい……!」と返事してしまう。パワハラ上司とその部下の現場みたいだ。
ユウはそっと降ろされた。さっきはぼうっとしていたがちゃんと自分の身は自分で守れるから大丈夫だとしっかり伝える。そうじゃないと来てしまいそうだ。
再び飛竜の炎弾が再びユウ達を狙って各所へと砲撃してくる。飛んでくる炎弾をマサシゲと、ピアを守るのに専念するエクスが切り捨て、ラセツも再び札を握って走り出す。ユウに向かって飛んで来た炎弾は「消去」の二文字で雲散霧消させる。
少し離れた場所では飛竜の初弾で負傷した仲間達を治療、炎弾の攻撃を防御魔法で守る班で集まっているそこで、レイナードが防御魔法の前に立っていた。
普通は内側ではないのかと思ったが、向かって来ている炎弾をタイミング合わせて横凪ぎに剣を振るうと、炎弾が弾き返されて飛竜の群れの中へと戻って行った。飛竜達はそれをヒラリとかわす。
「……弾いてる」
《ただいま~! 騎士達の方加勢するかい?》
《お願いします!》
飛竜たちの攻撃頻度が増えてきた。そんな中、飛行魔法で飛び上がる魔法師達数名と、空飛ぶ絨毯に立つヴィンセントが上空へと舞い上がった。
ヴィンセントが赤い髪を靡かせ、絨毯からはみ出るほど大きい赤々とした魔法陣を展開する。格好の的だと飛んで来る飛竜だが、飛行魔法の魔法師達で守り、間に合わないものはハッテルミーが当たらないよう飛んでかわす。
大剣を握り、ざっと絨毯上に足を開いて踏ん張る。
その大剣に赤く燃え盛る炎が逆巻く。
後方退避! とヴィンセントの雄叫びに、魔法師達が一斉にその場から彼の後ろ側へと回っていく。
「燃やし尽くせ、『ケルマ・アルバ』!!」
炎の剣が横に凪がれる。その剣の軌道に合わせて、巨大な炎が空中に炎の海を燃え上がらせる。その熱量は下にいるユウ達にまで喉を焼くような熱風を叩き付けてくる。
業火のような炎に次々と巻き込まれた飛竜達をの影は炎の中で燃え尽き、ドラゴンの頭部へ迫る――その直前、クロードが肩の上に出現した。
「「「「クロード?!」」」」
掌底を叩き込んだ瞬間、ドラゴンの頭がガクン!! と大きく横に傾いた。その姿はすぐに消えたが、その直後にヴィンセントの炎がドラゴンの首から頭を飲み込んだ。
《クロード、お前大丈夫か?!》《なっ?! ななな何やってるんですかぁ!?》
《鱗を伝って登りました》
《いや登った方法じゃねぇ! どうしてそこにいたんだって話だよ!!》
《鱗を砕ければ皆さんも攻撃が通じやすいと思ったのですが》
《くっそ!! 会話が成立しているのに何か通じてる気がしねぇっ!!》
炎の天蓋に照らされる中、オークから念話が入る。
都民達の避難状況について殆どがすでにヒュースウェル学園へ避難し、貴族達は王都から逃げていること、現在はドラゴンが出ると知らせに行っても信じてくれなかったスラムの人々も続々と避難してきているため、オークは引き続き住民避難を優先すると念話が切れた。
この予定調和感の答えが出る。
フィーがわざとこの事実を伏せて、城が壊れるように見せた理由も。
そして、この火の海に場違いなファンシーな煙が弾ける。
「お待たせいたしました! アカツキ、ただいま参じましたよ!」
「アカツキ、来てくれてありがとう」
グォオオオオオオオオオオオオ!!
ドラゴンの咆哮が上がる。炎の中から現れたドラゴンの白かった鱗は割れた部分から黒く焼け焦げ、全体が焼け焦げたように色が変色していた。
いけると思ったヴィンセントが、再び攻撃魔法を放とうと魔法陣を展開した。
しかし、ドラゴンに頭部に異変が始まる。
たった今まで焼けていた鱗も、焦げてきた鱗も、みるみるうちに
元通りの高潔な白へと戻っていくのだ。
(いや、塗り直してる)
未だピアの浄化魔法で足を透けさせても、再び塗り直して元に戻しているように。
そういえばとユウは自分で言った言葉を思い出す。
エミリーのスキルは上書きに特化している、と。
これから何度傷を付けても、焼いても答えは同じなのだ。何度でも上書きできてしまう。
ヒュースが以前、クリスに模様が浮かんだ時、魔力も呪力も感じなかった、と言っていた。そしてエレノアは回復魔法にスキル効果を上乗せした時もこう言っていた。
『浄化の方はみこ――ユウ様から助言を頂いてスキルでやっています。だから、ほとんどが治癒魔法に……』
この世界では、スキルに魔力消費が伴わないものなんだ。
いやにはっきりと、頭に絶望的な現状が導き出された。
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