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77話 エンシェントドラゴン
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「ありがとうございます、メルヴィン様」
「あっ! ヒュースさん!」
メルヴィンはぱあっと目を輝かせる。
ここは、ヒュースウェル学園の地下シェルターにある制御室。
「兄さんや学園長が放置してるって聞いた時は焦ったけど、間に合って良かったぁ~~!!」
ヒュースは彼が来てからすぐサイコメトリーの完成した後に学園の防衛システムについて話した。長年放置されていて一部機能は駄目になっているが、初代が心血注いだ防御結界はまだ生きている。早急な調整依頼、そして都民を学園内へと避難させるためにヒュースが事前に王都へ戻るようお願いしていた。
追い込まれれば、エミリーは必ずドラゴンを描くと思っていた。彼女は風景画や静物画よりも、ドラゴンのような見た目の格好良いモンスターを描くのが好きだったから。
それを見越して、キングストン家使用人とキングズリー家にも手を貸してもらい、すでに都民を学園内へと避難させている。ドラゴンが王都に迫っているとしか言えなかったが、渋った学園長は強制解雇、理事を勤めていたキングスカラー家の長男もメルヴィンの独断で寮の一角に軟禁させた。
邪魔者はもういない。逃げずに残った学生達も協力して事に当たってくれている。
「収容率はいかほどでしょう」
「約六割。平民は炊き出しもあるって言ったら話を聞いてくれたけど、スラムの人達はやっぱり信用してくれなくてね――貴族連中は子供連れてとっとと逃げたよ。門番達から出て行った貴族達の名前を控えさせてある」
「さすがは、お手が早い」
後は城が破壊されるという視覚的な効果――城という建物が崩れ去る恐怖を与えるしかない。
民を守るのが何よりの優先だとフィーも承諾した。
城の崩壊――それは、悪政を強いてきた国の終焉を告げ、フェオルディーノ王城跡地こそ、国を再生するための象徴となる。
これこそ、エミリー・アマンダの妄執が勝ち取った勝利。
しばらくして城を映していた画面に映り込む。内側から城を崩しながら、白いドラゴンが現れた。この場には聞こえなくても、城を破壊する大きな音がヒュースには聞こえている。
――エンシェントドラゴン。幾万年の時を生きる、全知全能と謳われるドラゴン界最上位種族。
「……出ましたね、ドラゴン」
「行って参ります」
ヒュースは入り口へ向かう。これから逃げてくるはずの都民を避難場所へ移動させるために。
◇◇◇
壊された城の瓦礫が雨のように降ってくる。
落下する度に地面が揺れる。
ドラゴンが巨大な翼を広げ、天へと咆哮を放てばビリビリと空気を震わせ聴力の一切が潰された。
その咆哮が、孤独を嘆いているようにしか聞こえなかった。
城を破壊したドラゴンが絵画の向こうにいるような、そんな感覚で見えた。まるで非現実的な光景だった。
たった今フェオルディーノ城が壊されたのに、崩れる瓦礫を振り払うドラゴンの様子を見るとまるで彼女は悟っていたように――いや、この形で壊されるのがフィーの中で予定調和だったような気がしてしまう。
「神子様!」
ラセツに抱き上げられて降ってくる瓦礫から逃れる。その状態のまま見上げていれば、ドラゴンの口元に光る模様が浮かんだ。
しかし、それを打たせまいと飛び掛かる人影が一つ――マサシゲだ。躊躇わず魔法陣らしいそれを叩き切ると、ドラゴンは小バエを払い落とされてしまった。
次いで王城全域に光が舞い上がる。みるみるうちに武器や防具の亀裂が瞬時に消えた。その柔らかい光の中にマサシゲが落ち、地面へと激突する。どうっ! と砂埃が間欠泉のように噴き上がった。
刀を突き立てて「くそっ!」とマサシゲは立ち上がった。その刀身はぞっとするほど美しいまま、体のヒビ割れも消えてなくなっている。
「助かった、アスクレピオス!」
広範囲の浄化魔法を敷いた彼女がさらに力を込める。ドラゴンの足がうっすらと半透明になるが、すぐに足は色を取り戻す。常時塗り込むこともできるようだ。しかし、この状態で大きくは動けないはず――。
その頭上でまるで空に塗りたくるように飛竜の群れが現れた。おおよそ二十体もの飛竜は今度、一斉にその口元に炎を蓄える。
「飛竜の攻撃は一般的な魔法攻撃です!! 浄化魔法で攻撃は消えません!」
ピアの声が甲高く警告する。
エクスが彼女の前へと踊り出ると、撃ち出された炎弾のうち彼女を狙った炎を切り払う。ケイオンもピアに浄化魔法に専念するよう言って、光線の魔法で打ち落とし、出来るだけ彼女に負担を掛けないように近場の炎弾を光線で消してしまう。
その他で地面へと直撃した炎弾は小さいながらも爆発する。
どかん、どかん、とあちこちで瓦礫を粉砕しながら飛び散らせ、人を吹き飛ばし、置かれていた物達から火の手が上がった。
《クロード様、本体は?!》
《実は、数刻前には既にデスク様と共にハッテルミー様の絨毯に乗せられ王都から遠ざけられております》
《フィー様からそのことを黙っているよう言われていましたね?》
《その通りでございます》
どういうことだとマサシゲの怒鳴り声が念話に響く。
しかし、そんなことに答えている時間はない。再びドラゴンの口元に魔法陣が浮かぶ。今までよりも圧倒的な展開スピードで、かっ! と眩い光が放つ魔法陣から閃光が吐き出される。ひゅっと世界の音を掻き消し、一直線に城下町へと光の速さで伸びていった。
「あっ! ヒュースさん!」
メルヴィンはぱあっと目を輝かせる。
ここは、ヒュースウェル学園の地下シェルターにある制御室。
「兄さんや学園長が放置してるって聞いた時は焦ったけど、間に合って良かったぁ~~!!」
ヒュースは彼が来てからすぐサイコメトリーの完成した後に学園の防衛システムについて話した。長年放置されていて一部機能は駄目になっているが、初代が心血注いだ防御結界はまだ生きている。早急な調整依頼、そして都民を学園内へと避難させるためにヒュースが事前に王都へ戻るようお願いしていた。
追い込まれれば、エミリーは必ずドラゴンを描くと思っていた。彼女は風景画や静物画よりも、ドラゴンのような見た目の格好良いモンスターを描くのが好きだったから。
それを見越して、キングストン家使用人とキングズリー家にも手を貸してもらい、すでに都民を学園内へと避難させている。ドラゴンが王都に迫っているとしか言えなかったが、渋った学園長は強制解雇、理事を勤めていたキングスカラー家の長男もメルヴィンの独断で寮の一角に軟禁させた。
邪魔者はもういない。逃げずに残った学生達も協力して事に当たってくれている。
「収容率はいかほどでしょう」
「約六割。平民は炊き出しもあるって言ったら話を聞いてくれたけど、スラムの人達はやっぱり信用してくれなくてね――貴族連中は子供連れてとっとと逃げたよ。門番達から出て行った貴族達の名前を控えさせてある」
「さすがは、お手が早い」
後は城が破壊されるという視覚的な効果――城という建物が崩れ去る恐怖を与えるしかない。
民を守るのが何よりの優先だとフィーも承諾した。
城の崩壊――それは、悪政を強いてきた国の終焉を告げ、フェオルディーノ王城跡地こそ、国を再生するための象徴となる。
これこそ、エミリー・アマンダの妄執が勝ち取った勝利。
しばらくして城を映していた画面に映り込む。内側から城を崩しながら、白いドラゴンが現れた。この場には聞こえなくても、城を破壊する大きな音がヒュースには聞こえている。
――エンシェントドラゴン。幾万年の時を生きる、全知全能と謳われるドラゴン界最上位種族。
「……出ましたね、ドラゴン」
「行って参ります」
ヒュースは入り口へ向かう。これから逃げてくるはずの都民を避難場所へ移動させるために。
◇◇◇
壊された城の瓦礫が雨のように降ってくる。
落下する度に地面が揺れる。
ドラゴンが巨大な翼を広げ、天へと咆哮を放てばビリビリと空気を震わせ聴力の一切が潰された。
その咆哮が、孤独を嘆いているようにしか聞こえなかった。
城を破壊したドラゴンが絵画の向こうにいるような、そんな感覚で見えた。まるで非現実的な光景だった。
たった今フェオルディーノ城が壊されたのに、崩れる瓦礫を振り払うドラゴンの様子を見るとまるで彼女は悟っていたように――いや、この形で壊されるのがフィーの中で予定調和だったような気がしてしまう。
「神子様!」
ラセツに抱き上げられて降ってくる瓦礫から逃れる。その状態のまま見上げていれば、ドラゴンの口元に光る模様が浮かんだ。
しかし、それを打たせまいと飛び掛かる人影が一つ――マサシゲだ。躊躇わず魔法陣らしいそれを叩き切ると、ドラゴンは小バエを払い落とされてしまった。
次いで王城全域に光が舞い上がる。みるみるうちに武器や防具の亀裂が瞬時に消えた。その柔らかい光の中にマサシゲが落ち、地面へと激突する。どうっ! と砂埃が間欠泉のように噴き上がった。
刀を突き立てて「くそっ!」とマサシゲは立ち上がった。その刀身はぞっとするほど美しいまま、体のヒビ割れも消えてなくなっている。
「助かった、アスクレピオス!」
広範囲の浄化魔法を敷いた彼女がさらに力を込める。ドラゴンの足がうっすらと半透明になるが、すぐに足は色を取り戻す。常時塗り込むこともできるようだ。しかし、この状態で大きくは動けないはず――。
その頭上でまるで空に塗りたくるように飛竜の群れが現れた。おおよそ二十体もの飛竜は今度、一斉にその口元に炎を蓄える。
「飛竜の攻撃は一般的な魔法攻撃です!! 浄化魔法で攻撃は消えません!」
ピアの声が甲高く警告する。
エクスが彼女の前へと踊り出ると、撃ち出された炎弾のうち彼女を狙った炎を切り払う。ケイオンもピアに浄化魔法に専念するよう言って、光線の魔法で打ち落とし、出来るだけ彼女に負担を掛けないように近場の炎弾を光線で消してしまう。
その他で地面へと直撃した炎弾は小さいながらも爆発する。
どかん、どかん、とあちこちで瓦礫を粉砕しながら飛び散らせ、人を吹き飛ばし、置かれていた物達から火の手が上がった。
《クロード様、本体は?!》
《実は、数刻前には既にデスク様と共にハッテルミー様の絨毯に乗せられ王都から遠ざけられております》
《フィー様からそのことを黙っているよう言われていましたね?》
《その通りでございます》
どういうことだとマサシゲの怒鳴り声が念話に響く。
しかし、そんなことに答えている時間はない。再びドラゴンの口元に魔法陣が浮かぶ。今までよりも圧倒的な展開スピードで、かっ! と眩い光が放つ魔法陣から閃光が吐き出される。ひゅっと世界の音を掻き消し、一直線に城下町へと光の速さで伸びていった。
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