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76話 スキルの解答編
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「彼女のスキは上書き専用のスキルです! 魔法は消えたように見えているだけで、実際に魔法陣そのものはなくなっていません!」
血涙石も見た目こそ身近な物に擬態していた。だがその効果は残ったままだった。
変わるのはあくまでも見た目だけなのだ。そしてそれが『本物』となる。だが、破壊された物を直筆しても壊れているように見えるだけで、実際にそれそのものは壊れていない、あるいは描いても違和感があるはずだ。
つまり、スキルには絵を描いても全てが本物になるわけではない。矛盾しているようにも感じるが、おそらく物理的な現象にスキル効果は乗らない。だから、『本物』になるモンスター達に最後の一撃を加えて、本物にしたヒビを壊すための工程を踏む必要があるのだ。
そして、彼女がこの場所を選んだのは、事前準備が全て整っていたから。細かく描き込む必要がなくなるように装飾をなくし、調度品も残り全てを外へと出した。
あの場から着色を重ねて、あたかもその場所には何もないように演出する。気を付けるべきはユウ達側から見て違和感がないように色を付けること。
だが、それそのものを失くす効果はない。
魔法陣がなくなったと思ってしまえば魔法師達も魔法の詠唱や魔法陣の維持を止めてしまうから結果的に魔法が発動しないだけ。
ラセツの札は軽い。戦闘で起こった風圧で、紙の位置がズレてしまったのだろう。
「目を閉じて魔法を使ってください! そこに魔法陣が見当たらなくても、魔法陣そのものは残っています! どうか、もう少し援護を!!」
彼等の切り替えは早かった。踵を返していた魔法師達の表情も意思の強いものへと変わる。再び陣形を取って詠唱と魔法陣を敷く。再び、ジグザグと刷毛で色を塗りたくるように魔法陣は消えていったが彼等の詠唱は止まない。フィーにも魔法陣が残っている感覚があると言って彼等の背中を後押しする。
ついに、詠唱の完成した魔法陣がサイクロプスを一体穿った。
「サ、サラ! 何をしておる! とっととアイツラを……」
「ちっ! うるさいわよブタ! 黙ってなさい!!」
「なっ?! お前、父親に――」
「お前達がお父様を殺したんじゃない!!」
目の前に作られたオーガが一瞬ニクソンを見下ろすと、その胸倉を掴み上げて壁へとぶん投げた。本気ではなかったオーガの投擲にゴロゴロと転がったニクソンは床にぶつかった時には伸びていた。
顔を青くしたクリスもようやく危機を察知したようで、怯えたようにサラを呼んだが彼女がギロリと一睨みすると蛇に睨まれた蛙のように大人しくなった。
筆の先が、すっとクリスへ向く。
一瞬のうちにクリスの姿はなくなった。その場に残ったのは、コロンと転がる王冠。
「どいつもこいつも、私の邪魔ばかり!!」
恨みがましく吐き捨てた彼女の姿がドロリと頭から溶け出す。その視線が的確にユウを捉えて、彼女の姿が頭から現れる。
黒いレースのあしらわれたトーク帽から溢れる栗色の髪、やつれたような表情に、両頬に浮かぶそばかす。だがその瞳に浮かぶ濃紺の瞳は、リアム・アマンダと同じ。
若々しさはない。三十代後半に差し掛かった女性の姿が黒衣を纏って立っていた。フォーマルスーツ、手袋、タイツ、靴すら黒――まるで、喪に服していると語らんばかり。
それこそが、彼女の戦闘装束。
自分の大事な人たちを奪ったこの国への復讐。
決して、お前達の罪を忘れない。
今もなお彼女は――エミリーは、弔い合戦の真っ只中。
「もうお父様はいない! お母様も、お祖父様もお祖母様も、もう私には誰もいない!! 誰もいないんだからぁあっ!!」
泣き叫びぶ彼女の姿が、巨大な刷毛で塗りたくられたように白い消える。次は完全に彼女の姿が見えなくなった。
どんどん大きくなっていくのは、黒い大きな爪に白い肌を持つ生物の足。それが下からどんどんと塗り上げられて、上へ上へと白いが登っていく。
「総員一時退却!! これより城が崩壊する! 全力で離れよ!!」
フィーの大声が、次の瞬間には景色がぱっと変わった。
建物の中から外へと突然連れて行かれたあの景色が、また蘇る。
しばらくして家具やその他諸々まで順次外へと放り出される。伸びていたニクソンも遠くで転がり、足元にはクリス。
城から轟音が響いた。瞬く間に城の中から白い何かが建材を押し退けながら隆起する。
それはまだ描かれている途中の白い塊。だが、外側にびっしり生えている鱗から、彼女の完璧な画力が何を描いているか脳が理解する。
(ドラゴンだ)
エミリーの得意な絵は、ドラゴン。
ヒュースはそう言っていた。
血涙石も見た目こそ身近な物に擬態していた。だがその効果は残ったままだった。
変わるのはあくまでも見た目だけなのだ。そしてそれが『本物』となる。だが、破壊された物を直筆しても壊れているように見えるだけで、実際にそれそのものは壊れていない、あるいは描いても違和感があるはずだ。
つまり、スキルには絵を描いても全てが本物になるわけではない。矛盾しているようにも感じるが、おそらく物理的な現象にスキル効果は乗らない。だから、『本物』になるモンスター達に最後の一撃を加えて、本物にしたヒビを壊すための工程を踏む必要があるのだ。
そして、彼女がこの場所を選んだのは、事前準備が全て整っていたから。細かく描き込む必要がなくなるように装飾をなくし、調度品も残り全てを外へと出した。
あの場から着色を重ねて、あたかもその場所には何もないように演出する。気を付けるべきはユウ達側から見て違和感がないように色を付けること。
だが、それそのものを失くす効果はない。
魔法陣がなくなったと思ってしまえば魔法師達も魔法の詠唱や魔法陣の維持を止めてしまうから結果的に魔法が発動しないだけ。
ラセツの札は軽い。戦闘で起こった風圧で、紙の位置がズレてしまったのだろう。
「目を閉じて魔法を使ってください! そこに魔法陣が見当たらなくても、魔法陣そのものは残っています! どうか、もう少し援護を!!」
彼等の切り替えは早かった。踵を返していた魔法師達の表情も意思の強いものへと変わる。再び陣形を取って詠唱と魔法陣を敷く。再び、ジグザグと刷毛で色を塗りたくるように魔法陣は消えていったが彼等の詠唱は止まない。フィーにも魔法陣が残っている感覚があると言って彼等の背中を後押しする。
ついに、詠唱の完成した魔法陣がサイクロプスを一体穿った。
「サ、サラ! 何をしておる! とっととアイツラを……」
「ちっ! うるさいわよブタ! 黙ってなさい!!」
「なっ?! お前、父親に――」
「お前達がお父様を殺したんじゃない!!」
目の前に作られたオーガが一瞬ニクソンを見下ろすと、その胸倉を掴み上げて壁へとぶん投げた。本気ではなかったオーガの投擲にゴロゴロと転がったニクソンは床にぶつかった時には伸びていた。
顔を青くしたクリスもようやく危機を察知したようで、怯えたようにサラを呼んだが彼女がギロリと一睨みすると蛇に睨まれた蛙のように大人しくなった。
筆の先が、すっとクリスへ向く。
一瞬のうちにクリスの姿はなくなった。その場に残ったのは、コロンと転がる王冠。
「どいつもこいつも、私の邪魔ばかり!!」
恨みがましく吐き捨てた彼女の姿がドロリと頭から溶け出す。その視線が的確にユウを捉えて、彼女の姿が頭から現れる。
黒いレースのあしらわれたトーク帽から溢れる栗色の髪、やつれたような表情に、両頬に浮かぶそばかす。だがその瞳に浮かぶ濃紺の瞳は、リアム・アマンダと同じ。
若々しさはない。三十代後半に差し掛かった女性の姿が黒衣を纏って立っていた。フォーマルスーツ、手袋、タイツ、靴すら黒――まるで、喪に服していると語らんばかり。
それこそが、彼女の戦闘装束。
自分の大事な人たちを奪ったこの国への復讐。
決して、お前達の罪を忘れない。
今もなお彼女は――エミリーは、弔い合戦の真っ只中。
「もうお父様はいない! お母様も、お祖父様もお祖母様も、もう私には誰もいない!! 誰もいないんだからぁあっ!!」
泣き叫びぶ彼女の姿が、巨大な刷毛で塗りたくられたように白い消える。次は完全に彼女の姿が見えなくなった。
どんどん大きくなっていくのは、黒い大きな爪に白い肌を持つ生物の足。それが下からどんどんと塗り上げられて、上へ上へと白いが登っていく。
「総員一時退却!! これより城が崩壊する! 全力で離れよ!!」
フィーの大声が、次の瞬間には景色がぱっと変わった。
建物の中から外へと突然連れて行かれたあの景色が、また蘇る。
しばらくして家具やその他諸々まで順次外へと放り出される。伸びていたニクソンも遠くで転がり、足元にはクリス。
城から轟音が響いた。瞬く間に城の中から白い何かが建材を押し退けながら隆起する。
それはまだ描かれている途中の白い塊。だが、外側にびっしり生えている鱗から、彼女の完璧な画力が何を描いているか脳が理解する。
(ドラゴンだ)
エミリーの得意な絵は、ドラゴン。
ヒュースはそう言っていた。
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