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70話 クリスへ宣戦布告

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 名案じゃ! と駆けて来たフィーが、何かの書状を丸めた物をユウへと手渡した。

「ナイジェル直筆のクリスを廃嫡すると記した書面じゃ」
「うん?」
「神のお告げで神子様から直々に廃嫡宣言されてはのぅ……ようやく腐敗物の処理ができて喜ばしい限りじゃ」

 フィーが涙ぐましい様子で言う。大喜びのようだ。それを受け取って、ユウはマジックバッグに詰め込んだ。

「よし、お城に行ってきます!」

 ◇◇◇

 サラは目を覚ます。
 同時に覚醒した意識の中、夢の内容を反芻する。

 何故、闇オークションの会場だったベラドンナ歌劇場の焼失を知っているのか。被害者達がお礼を言っていたなどと、あの子は言ったの?
 ラルフフローがホープネスのライネスト教会に何かあった時のために、催眠を掛けて自爆する者がいたことまで、何故?

「これじゃ、私の計画が……――」
『たのもぉおおおおおおーーーーーーーーー!!』

 聞こえてきた大音量の子供の声にサラは体をビクッと体を跳ねさせた。
 ネグリジェのまま、サラは部屋の外へ出る。気のせいではない、この声は。

 フェオルディーノ城の入り口に、人が集まっている。
 何かの魔法陣に向かって先頭に立っている少年だ。

『クリスーう! ぶん殴りに来たぞぉー! 首洗って待ってろぉぉおおお!』




 現在、城にはライネスト教会の連中と、幾人のフェオルディーノの貴族達が寝泊まりしている。フレデリカの呼び掛けにより、長年ラルフフローに加担している人間達だ。

 こんな大胆な行動に出ているのはラルフフロー国王が協力者達の保護を確約しいるからだ。彼らもクリスを担ぎ上げてはいるが、もちろん戦争で勝てるとは思っていない。

 長い間戻らなければフレデリカは死んだとみなして協力者達を呼び寄せると聞いていたフィーは、治った騎士達や魔法師達、ナイジェルを帰らせなかったのだ。訓練は室内でさせ続け、缶詰めにしていたのは外部に彼らが回復したという事実が漏れないようにするためだった。

 フレデリカがいなくなっていては不安がる貴族達もいるだろうと、ガブリエルが事前に準備しておいた偽物の指示書をフレデリカの部屋に置いておいた。開戦間近になれば城へ協力者を寄越すという旨を記し、逃走ルートの詳細を書いてある。彼らも彼女が姿を消してからも安心して居座り続けていた。

 息子のクリスはいなくなったフレデリカなど気にしていない。手懐けられていない異世界人達に怒り、ニクソンが呼び寄せたライネスト教会の神官や聖騎士達に八つ当たりのような訓練をつけている。

 異世界召喚された人々の送還はスムーズに進むだろうとフィーは言う。何故ならばクリスを嫌っているのが全員という人徳のなさが輝いているからだ。

「サラが彼らに抵抗するように助言しておったのが大きいじゃろう」

 勇者職の男子を説得し、できるだけ訓練には参加しないようにと言っていた。元の世界に返す方法は簡単には見付け出せそうにないが、クリスが追放を命じれば、すぐにエヴァンハルト帝国へ逃亡できるよう取り計らうと言っていた。

 実際に地図を持ち込み、帝国へのルートを教えている。何かあった時のためにと、彼らが召喚された日から毎日、地下の金庫から少しずつお金をちょろまかしては彼らに持たせているそうだ。目立たない小さなマジックバッグにはそれはもう大金が詰め込まれている。

 そこで、ユウ達が騒ぎを起こせば、クリスなら自分の身の危険を感じる。自分が安全圏に居座るために聖騎士達へユウの排除を命じるはずだ。

 その隙に異世界人だけをエントランスホールにフィーが引き寄せて、彼らの送還を優先する。

 次にフレデリカがフェオルディーノの戦力を削ぐため城内に残した魔法師達の救助。彼らは莫大な魔力を使用する勇者召喚の儀式の手伝いを命じられ、魔力が枯渇して未だに長い眠りについている。最後、別動隊のオークと騎士団、魔法師団の貴族達を捕縛する。

 先発隊はエルメラとオークを除いた付喪神達と、ヒュースが同伴を求めたリアムとレイナード、そして、どうしても個人的な理由で行きたいと申し出たヴィンセントだ。

 暁は、何故か自国から飛んでやって来るエスとオリオス達を対応をしてから城へ向かうことになる。

 何でも、夢の中でラルフフローがやらかしたことをユウが暴露していた内容が気になって直行しているのだとか。昨日の夜に帰って行ったのにとんぼ返りだ。

 正面を開いてもう一度拡声器でクリスを探すフリをしている間に、エントランスホールには召還された若人達がこをフィーに呼び出してもらった。
 見るからに中高生ぐらいの子供達が、一様にきょとんと目を見張っていたが、ユウが追い出された子ださと気付くなり心配してくれる良い子達だった。同伴していた女性教師も涙を浮かべて安心したようにぎゅうっと首から絞めてきた。地味に決まってて苦しかった。

「元の世界に帰る方法が見つかりました」
「本当か?!」
「サラさんが手配してくれていたのは君だったのか!」

 捨てられていた制服はフィーが事前に別の場所で保管していたようで、洗っていないことやシワになっていることを申し訳なさそうに告げるが、もう帰れると思っている彼らは気にしていなかった。

 全員いるか点呼を取ってから、服を返却する。ユウが送還陣を敷いていると、教師がユウへと小さなクラッチバッグを手渡した。大金が入っている例のマジックバッグだ。サラに返しておいてほしいと願い出た。

「君も帰れるん、だよね?」
「はい。やることをやったら帰ります」
「そっか……。体には気を付けてね?」

 どこかで会おうと手を振る彼らを元の世界へと送還する陣が黄金色に輝いて包み込む。
 光が天へ昇るように消えると、もうそこに彼らの姿は残っていなかった。

「これが人徳の違いかぁ」
「感心してしまうのぅ……」
「そうだな。彼女は元から人を誘導するのが上手だったが、今回は傾国へと導いたのだから大したものだ」
「感心してる場合かよ」

 マサシゲの問いにもちろんだとヒュースは続ける。

「気に入った生徒達が学園を離れてからどんな成長をするか、私の数少ない楽しみだ。例え貴方達が敵と見なしていても、私はを見放すことはない」
「サラは今もお前んトコの生徒だろう」

 マサシゲがそう言えば、ヒュースはわざわざユウを一瞥した。
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