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63話 宴

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 翌日。

 チョコレートムースとチョコレートタルト作りにはアジュールの町の人達にご助力願った。ダンジョンでしかチョコレートや生クリームが採れないため採取をマサシゲ達にも手伝ってもらう。風祈の塔と呼ばれるから、てっきり風属性だけかと思ったら全属性のモンスターが出てきた。
 作り作業は宮廷料理人の一人に一般市民に扮して町人達に作るのを手伝ってもらった。

 そこにはエレノアも手伝いたいと志願して混ざっている。マサシゲがおいしいと言ったからだろう。

 そしてユウがどうしても作ってほしい物がある――柔らかいパンだ。布教第一弾はピザ。ユウが前日のうちに魔法で果物製の発酵液を作っておいた。
 ピザは一次発酵で済むし、焼き上がりもだいたい耳を見れば分かる。上に野菜やお肉も乗せられるから少しは栄養補給もできるはず。ほんの少しだが。

 そして夜。

 会場には予想以上に人が集まった。あっちこっちに大小様々なテーブルが置かれ、至るところに料理を作ってる人がいる。肉が採れるから、串焼きやステーキなどの料理が多い。

 視界の端には説法を説いているケイオンと、傍らにいるピア。救出された神官やピアのガチ信者人達がケイオンの話を熱心に聞いている。
 料理は作れないし、肉体労働の手伝いだけではと考えたケイオンが「そうだ、説法だな!」と言い出したのが始まりだ。宴というよりイベントに出し物をしているような自由さだ。
 
 チョコレートの追加分の採取を終え、夕方からユウと手伝い。
 誰が宣伝したのか、すでに長蛇の列。護衛に来ていたマサシゲが並ばせている。特に子供達がきゃっきゃとはしゃいでいる。

 宴だと大はしゃぎのフィー達が現れたのを尻目に、ユウはムースと生クリームの泡立て専念。
 初めてメレンゲや生クリームを泡立てて筋肉に来ていたのだろう、ユウの高速回転する泡立て器に感謝感激の嵐が吹き荒れた。お陰で六本の泡立て器がフル稼働している。

 それにユウはムースの冷やしも兼ねている。エレノアも返却された器をスキルできれいになったそばからムースやタルトが盛られていく。

 フィーはあれがほしい、これがほしいと、露店と化している料理台をクロードを連れて回っていたが、ついにユウの屋台を見つけると駆けて来た。
 しかし目の前には人集り。並んで待つのも醍醐味じゃな! と楽しそうだ。

 そんな時、ムースやピザを受け取ってその場を離れた人達の次に現れた客にユウ達はぎょっとする。
 ルーファスにレオニードが並んでいたからだ。全然気づかなかった。いつの間にご来訪くださったのか、二人はピザを大量注文、ムースとタルトは四人分頼んできた。

「ユウ様、後程お時間頂けますかな?」
「え? えぇ、分かりました」

 やっとフィー達もやって来て、昨日宣言した通り一人でムースとタルト四つ分も注文していった。

 菓子類が大人気のまま在庫が底を尽き、ピザを求める人で賑わい始めるとユウは後を任せてルーファス達を探しに会場内へ向かうと、ラセツが迎えに来てくれた。ルーファスに案内を頼まれたと、オークション被害者達で集まっている場所まで連れて行ってくれた。

 共に殴り合ったお陰か鬼人、エルフ、人魚達、それにドワーフまで多種族が集まっている。
 その中には見たことのない姿もあった。明らかに纏うオーラが違うその二人を、ルーファスは紹介するという。

「現竜王『エル』王と、幻獣王『オリオス』王でございます」
「?!?!?!」

 市民の服を着用していらっしゃる竜王と幻獣
王。お二方共、国を代表してお礼を言いに来たと末代までの名誉なお言葉を頂戴し、ユウは大変恐縮するしかない。

 竜王はエンシェントドラゴンで、幻獣王は麒麟の獣人。某ビールのラベルでお姿をとは違い、一角の生えた鹿。二人共、特徴的な角や尻尾が付いている。
 ルーファス達が持っていった三品とも美味しかったと感想まで頂いた。

「仕様変更のあった神塔に行ってみたいのだが、良いだろうか?」
「ど、どうぞ」

 エルとオリオスの目がキラッと煌めく。お二人とも神塔目当てで来たと察したユウはハッテルミーに絨毯のご用意願って来てもらう。
 ハッテルミーのハイスペックな社交性がとても羨ましい。王様二人と同行者の神塔の見学には暁が同伴すると名乗り出て、彼らは楽しげに夜の空へと飛んで行った。

 王様達のフットワークの軽さにビビり散らしていたが、他の人もびっくりしたよとワラワラと集まってきた。

 元々、幻獣国家は密猟が多い貴重種モンスターの保護や、奴隷被害が多い獣人族、エルフ達のような人間族以外の種族が共に助け合うために建国された。
 今回の被害にあった種族達に勧誘も兼ねていらしていたそうだ。エルフやドワーフの集落もあるほか、鬼人族のようなの各種族の里もあるという。

 ユウが落ち着いた頃、再び彼らは今回の闇オークションから助けてくれたことに対してお礼の嵐が押し寄せてきた。寧ろ全部彼らがどうにかしてくれた方なのだが、その隣で何故かラセツが自慢気に褒めちぎってくる。

 が、闇オークションの件はバッハの方が仕事をしてくれていたはずだ。
 何人かが様子を確認しに来たのを追い払ったり、リアムの懸念通り異変に気付いた持ち主が私兵を伴って来ても全員地下に閉じ込めていたり、他にも買い出しや諸々甲斐甲斐しく被害者達の世話を焼いてくれていたのだ。
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