無能と追放された神子様は顕現師!~スキルで顕現した付喪神達の方がチートでした~

星見肴

文字の大きさ
上 下
67 / 93

61話 闇オークション

しおりを挟む
 闇オークション当日――。

 戻ってきたラセツ達が他に数人の鬼族の人を連れて来てくれた。
 最初はラセツが侵入者を手引きしたんだと殴りかかってきたが、返り討ちにして事情を説明すると何人もの鬼人が連中を嬲りに行けると志願してくれた。

 ヒュースウェル学園に通っていた件の鬼は『イバラ』と言って、変身能力を持っていた。彼女には捕縛済みのベラドンナ歌劇場のオーナーに化けてもらった。

 そして、その夜――。

 昼と夜の二部構成を夜の一部だけにして、一カ所に客達を集めた。
 人に気づかれることがないよう、開場を終えると共にエルフ達の幻影魔法と人避けの魔法が敷かれる。

 ザマァがどんな風になるか楽しみだったが、ユウは外待機だ。
 理由は、ユウみたいな子供がいる前で本気を出すなど躊躇ってしまうからである。

 顧客名簿が九割埋まった会場で、復讐の幕が上がった。
 彼らの手によって開かれた演目は悲鳴と怒号、そして彼らの憎悪が奏でる阿鼻叫喚の地獄だった。

 テーブルは倒され、用意されていた料理もぶちまけられて、あっちこっちに割れた皿やグラスが散乱している。
 リザードマンと獣人、それに鬼も混ざって大乱闘。逃げんなおらぁ! と怒りの声が舞う。逃げようとすればエルフと人魚族の魔法攻撃が舞う。美しいドレスを纏う女性から、品のあるタキシードからも血肉が舞う。

 暴力と断罪の嵐の中に場違いな歌が響いた。ラプソディアナの力強い歌声だ。
 女性特有の伸びやかな高音域のアカペラは地獄絵図と化した建物の中で彼等の報復を後押しするように響く。
 人魚達が秘蔵している歌にはバフ効果が乗る。今回はラプソディアナ直々に、彼らの力を引き出すための歌を歌っているのだ。

 彼女の口から紡がれる歌は、これからどんな困難があろうとも前へと進むことを止めないという希望の歌だった。

 そしてそれ以上に場違いな青年がいた。

 バッハである。絶望しかないスプラッターな光景の中で、現状と絶妙にチグハグな歌をうっとりと聞いているのだ。

 ラプソディアナに歌ってもらっているのはバッハがまたステージに響く歌が聞きたい――そんな彼の願いを、ラプソディアナは首肯してくれた。

 かくして、闇オークションは各国の被害者とお偉いさん達のお陰で、報復開始から数分で終了した。

 そして、レイリーンバッハの最終公演も。

 ◇◇◇

 各国の客達は転移魔法で各王城の地下牢まで直送され、フェオルディーノ国内の客は王城跡地にある地下牢に詰め込まれた。
 外で待っていたユウにその報告を終えると、バッハは微笑んで。

「ありがとう、神子様。ようやく憂いも晴れた。これで、安心してノーマン様の所にいけるよ」
「え?」
「ボク、近々取り壊される予定だったんだ」

 老朽化が進んでいて、オーナーは奴隷を売るための新しい歌劇場を建設に着手していた。

 彼は語る。
 レイリーンバッハよりも立派な歌劇場ができると皆そちらへ流れていった。三十年という短い間でこの歌劇場は幕を降ろした。

 買い手がついたのはノーマンが亡くなってからずっと後。
 奴隷の見世物小屋となり、歌など響かない、悲しみと憎しみだけが渦巻いて、それを嘲笑するだけの人々しか来なくなった。

 皮肉なことに、闇オークションとして再興したこの歌劇場はあの頃よりも人々で賑わっていた。 

 目を閉じれば今も人々の不幸な姿が、そしてその姿を見て優越感に浸る下卑た人々が鮮やかに蘇る。
 付喪神は喋れても誰にも聞こえず、実体もなく、何もしてあげられない。そんな思いを新築物件にさせるのはあんまりにも可哀想だ。

「ボクだって、素敵な建物でいたかったんだ」

 例え持ち主がやったことでも、自分まで手伝いをしているような気がした。
 だからこそ、最後の最後に被害者達を助けるチャンスが巡ってきた。

 これでノーマンに顔向けできる――新しい希望に向かって歩き出すような、そんな表情でバッハは言う。

レイリーンバッハここが、悪い場所のままで終わらずに済んだよ。それは神子様が来てくれたお陰だ――ここに来てくれてありがとう、神子様」

 ◇◇◇

 レイリーンバッハから火の手が上がった。ここのオーナーが地下に仕掛ていた魔法陣。
 これはレイリーンバッハに仕込まれているがゆえに、バッハの意思で強制起動が可能だった。

 それに連動するようにバッハの足元から火が燃え上がった。

 建物の右が半壊するのと同時に右肩からガラガラと崩れて落ちた。実体を持っているバッハの肩からは、木の梁のような物が何本も突き出した。まるで木製の人形のように。そんな彼の服も、黒い炭になっていく。

 まるで歌劇場から逃げようと窓や隙間から炎が外へと手を伸ばす。そうして瞬く間に炎は燃え広がっていく。

 大丈夫かと救出作戦に出てくれた人達が心配そうにバッハへと駆け寄ろうとしたが、彼の姿は忽然と消えた。

 いつの間にか建物の前に黒く焼ける彼の姿がある。敷地内を移動する能力も使えなくなっていた。

 きっと今の姿をユウ以外の人間が視ることはできない。

『そろそろ行くね』
「……君がいなくなると、寂しいです」
『そう言ってくれるだけでとっても嬉しいよ』

 彼はまだ残っている左腕を大きく大きく、何度も振った。まるでさようならとずっと言い続けているみたいに。

 建物が燃えて崩れ、頭が失くなっても、まだ残っているバッハの左腕が大きく左右に揺れていた。
 それもボロボロと崩れて落ちた。

「神子様、最後に一曲よろしいかしら」
「……うん」

 燃え盛るレイリーンバッハ歌劇場へ、ラプソディアナの独唱が贈られる。
 それは人魚達の葬式で使われる鎮魂歌。そして旅立つ我が同胞への餞。

 燃える炎の中から一筋の金色の光が昇る。それは流れ星のように闇夜を駆け抜けて、星空へと昇っていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

処理中です...