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60話 空へ還る時
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自分達を苦しめて、無惨に殺した憎悪の対象。教会が存在する限り、この教会は邪悪の根元だと、体が透けたザックは言った。
そこへ同様に体が透けているイアンもやって来る。彼も少々申し訳なさそうな表情で、お礼を言ってくる。彼もルーナは悪くはないがホッとしたと言う。
ユウは、目頭に帯びた熱からじわりと一粒膨れた涙を拭う。
「僕の方こそ手伝ってくれてありがとうございます。それに、建物がなくなって安心したんじゃなくて、教会には血涙石を隠れて製造できる場所がなくなって、自分達の他に被害者が出ないと確信したからです」
『ははっ。確かに、あれじゃあな』
そうザックが笑う。今までヴィンセント達の元で話あっていた騎士達もユウの元に集まってくる。敬礼をして、一様に彼らも礼を言う。彼らの声が、どこかぼやけて聞こえたてきた。
「……絶対に、良い国にするよ。約束する」
『それなら安心です』
イアンから、これが終ったらロコという村にいる彼の両親達の様子を見に行ってほしいと頼まれた。それを皮切りに、みんながどこどこの町にいるこの人に伝言をと頼んできた。
時間の許す限り伝言を聞き終えてから、ユウもみんなにお願いがあると伝える。
「もしあっちでルーナを見掛けたら、君のお陰でみんな助かったよって伝えて下さい」
十人十色の言い方で了承した彼らの姿は、ついに消えて光の玉になった。それぞれ光の玉は緩やかに弧を描きながら空へと昇っていった。
彼らの他にも、魂らしい黄金色の輝きが複数昇っていく。
教会に囚われていた魂もルーナが逃がしてくれたのだろうか――あの勇敢な友は、誰よりもあの場所で苦しめられた人達を救ってくれたのだ。
足元に見えた物にはっと目を見開く。
このライネスト教会がラルフフローと結んだ密約書がコロンと転がっていた。
◇◇◇
ホープネスのことは一部の騎士と反乱軍の人達に任せてアジュールに帰還する。
軽い怪我でのたうち回っていたエヴァンズが教会に入れと命令してきた次の瞬間にアッパーを決めて意識を吹き飛ばす。
ホープネスの辺境伯からも自供が取れ、聖騎士の進行も、交渉すら聞く耳を持たず交戦が早々に始まってしまい、ブチ切れたケイオンの暴行で終った。
帰ってきていたマサシゲは行く必要なかったじゃんとぶつぶつ呟いていた。
エレノアはホープネスの辺境伯がいなくなってから、教会からの保護した人々を運び入れ治療に当たっていた。そこにピア、エクス、クロードとケイオンが応援へ行く。彼らの事情聴取と家が遠方で帰る場所のない人達を守るためだ。
二日後に開かれる闇オークションは特に被害者の多いユグドラシルの獣人や人魚、エルフ、そこにガンブルグが助力してくれることになった。
被害者達にこそボコらせるべきと提案したら、二国代表とラプソディアナは大層ご満悦だった――レティシアは苦笑いだったが。
こんなことに他国の力を借りたらとフィーもナイジェルも滅茶苦茶顔を青くしていたが、そんなの今更だ。
それに顧客名簿の連中が闇オークションと知って来るなら各国でも奴らを逮捕する理由ができる。むしろ膿出しの手伝いをしているようなものだ。
他国では奴隷制度を認めている国は多いが、闇オークションは認めていない。
奴隷は奴隷商から買うもので、奴隷商は国の定めた法律に乗っ取り身売りならきちんとお金を払っている。奴隷商は契約と法律の下に保護を行い、職場に就きやすくするため勉強や実習もする。
一方でこういった闇オークションにはまず奴隷商は絡んでいない。誰かを無理矢理捕まえ、当人の意志が混ざっていないのが奴隷商との違いだと法律でも明確に別けられている。
ラセツの住んでいた村にも足を運んでもらっている。もちろん、彼らにも今回の闇オークションの被害者達だ。運び役はハッテルミー、交渉に向けて急遽ヒュースが鬼の里へ向かうことになった。
随分昔に鬼族の里から人間に化けて通っていた鬼人がいたらしく、ヒュースから名前を聞くと現在村長の補佐をしている人だと判明。彼らの説得に向かってもらったのだ。あわよくば人手も欲しいとユウも行こうとしたが、暁の指示でアジュールに残ることになった。
フレデリカの捕縛はヒュースの代わりにガブリエルが同行する。一日働き詰めだったが、彼からの申し出だった。無理はしないようにとだけ言って、ガブリエルを向かってもらった。
フィー達は無事に帰還する。フレデリカが逃走指示書を受け取ったところを賊と共に捕らえることに成功。
ユウはその日の夜、久々にどっと襲ってきた疲れに、ベッドの上でぼーっとする。
あの世へ行った光景を見届けて以降、涙は引っ込んでしまった。
それよりもこの件が終わった後のことだ。
財政の立て直しはもちろん、食料事情、政治体制、財政、働き口、国交などなど問題は山積み。それに神塔対策も同時に進行していかなければならない。
フェオルディーノ国の目の前には、財政破綻という四文字の壁が立ちはだかっている。
それだけではない。弱りに弱っているこの国を再生をするのにまで他国に頼り切りではラルフフローの時と同じままだ。
それでは国が良くなったと言えないだろう。
(この国から、諸外国へ何を発信するか……)
そこへ同様に体が透けているイアンもやって来る。彼も少々申し訳なさそうな表情で、お礼を言ってくる。彼もルーナは悪くはないがホッとしたと言う。
ユウは、目頭に帯びた熱からじわりと一粒膨れた涙を拭う。
「僕の方こそ手伝ってくれてありがとうございます。それに、建物がなくなって安心したんじゃなくて、教会には血涙石を隠れて製造できる場所がなくなって、自分達の他に被害者が出ないと確信したからです」
『ははっ。確かに、あれじゃあな』
そうザックが笑う。今までヴィンセント達の元で話あっていた騎士達もユウの元に集まってくる。敬礼をして、一様に彼らも礼を言う。彼らの声が、どこかぼやけて聞こえたてきた。
「……絶対に、良い国にするよ。約束する」
『それなら安心です』
イアンから、これが終ったらロコという村にいる彼の両親達の様子を見に行ってほしいと頼まれた。それを皮切りに、みんながどこどこの町にいるこの人に伝言をと頼んできた。
時間の許す限り伝言を聞き終えてから、ユウもみんなにお願いがあると伝える。
「もしあっちでルーナを見掛けたら、君のお陰でみんな助かったよって伝えて下さい」
十人十色の言い方で了承した彼らの姿は、ついに消えて光の玉になった。それぞれ光の玉は緩やかに弧を描きながら空へと昇っていった。
彼らの他にも、魂らしい黄金色の輝きが複数昇っていく。
教会に囚われていた魂もルーナが逃がしてくれたのだろうか――あの勇敢な友は、誰よりもあの場所で苦しめられた人達を救ってくれたのだ。
足元に見えた物にはっと目を見開く。
このライネスト教会がラルフフローと結んだ密約書がコロンと転がっていた。
◇◇◇
ホープネスのことは一部の騎士と反乱軍の人達に任せてアジュールに帰還する。
軽い怪我でのたうち回っていたエヴァンズが教会に入れと命令してきた次の瞬間にアッパーを決めて意識を吹き飛ばす。
ホープネスの辺境伯からも自供が取れ、聖騎士の進行も、交渉すら聞く耳を持たず交戦が早々に始まってしまい、ブチ切れたケイオンの暴行で終った。
帰ってきていたマサシゲは行く必要なかったじゃんとぶつぶつ呟いていた。
エレノアはホープネスの辺境伯がいなくなってから、教会からの保護した人々を運び入れ治療に当たっていた。そこにピア、エクス、クロードとケイオンが応援へ行く。彼らの事情聴取と家が遠方で帰る場所のない人達を守るためだ。
二日後に開かれる闇オークションは特に被害者の多いユグドラシルの獣人や人魚、エルフ、そこにガンブルグが助力してくれることになった。
被害者達にこそボコらせるべきと提案したら、二国代表とラプソディアナは大層ご満悦だった――レティシアは苦笑いだったが。
こんなことに他国の力を借りたらとフィーもナイジェルも滅茶苦茶顔を青くしていたが、そんなの今更だ。
それに顧客名簿の連中が闇オークションと知って来るなら各国でも奴らを逮捕する理由ができる。むしろ膿出しの手伝いをしているようなものだ。
他国では奴隷制度を認めている国は多いが、闇オークションは認めていない。
奴隷は奴隷商から買うもので、奴隷商は国の定めた法律に乗っ取り身売りならきちんとお金を払っている。奴隷商は契約と法律の下に保護を行い、職場に就きやすくするため勉強や実習もする。
一方でこういった闇オークションにはまず奴隷商は絡んでいない。誰かを無理矢理捕まえ、当人の意志が混ざっていないのが奴隷商との違いだと法律でも明確に別けられている。
ラセツの住んでいた村にも足を運んでもらっている。もちろん、彼らにも今回の闇オークションの被害者達だ。運び役はハッテルミー、交渉に向けて急遽ヒュースが鬼の里へ向かうことになった。
随分昔に鬼族の里から人間に化けて通っていた鬼人がいたらしく、ヒュースから名前を聞くと現在村長の補佐をしている人だと判明。彼らの説得に向かってもらったのだ。あわよくば人手も欲しいとユウも行こうとしたが、暁の指示でアジュールに残ることになった。
フレデリカの捕縛はヒュースの代わりにガブリエルが同行する。一日働き詰めだったが、彼からの申し出だった。無理はしないようにとだけ言って、ガブリエルを向かってもらった。
フィー達は無事に帰還する。フレデリカが逃走指示書を受け取ったところを賊と共に捕らえることに成功。
ユウはその日の夜、久々にどっと襲ってきた疲れに、ベッドの上でぼーっとする。
あの世へ行った光景を見届けて以降、涙は引っ込んでしまった。
それよりもこの件が終わった後のことだ。
財政の立て直しはもちろん、食料事情、政治体制、財政、働き口、国交などなど問題は山積み。それに神塔対策も同時に進行していかなければならない。
フェオルディーノ国の目の前には、財政破綻という四文字の壁が立ちはだかっている。
それだけではない。弱りに弱っているこの国を再生をするのにまで他国に頼り切りではラルフフローの時と同じままだ。
それでは国が良くなったと言えないだろう。
(この国から、諸外国へ何を発信するか……)
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