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56話 ラルフフロー王城
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お偉方を強制送還させた翌朝。闇オークションまで残り五日。ラルフフロー王城、一室。
同行したマサシゲの姿にガブリエルはしばらくポカンとしていたが、他国に協力を取り付けてラルフフローを窮地に追いやれるところまできたと報告を受けた彼は笑い出した。
「いやまさか……はははっ! ここまでしてやられるとは!」
一頻り笑うと、老いたものだなぁとしみじみ言うガブリエル。
「しかし、国王が急遽、ライネスト教に軍を借りると言い出しましてな。その進軍については?」
「聞きました。アスクレピオスの杖を奪うため、すでに七百の聖騎士達がラルフフローへ向けて出発していると」
これはケイオンからもたらされた情報だ。
拷問部屋にいた神官達は、教皇がアスクレピオスの杖を奪還するという名目に戦争に加担しようとするのを止めようとした一部の反対者達だ。
ライネスト教は「アスクレピオスの杖は元々ライネスト神が授けたものだ」という主張だ。
だが実際は違う。ケイオンはライネスト神からレーニンというライネスト教会創始者に、アスクレピオスはライネスト神の妻・ヒーリア神がアリアンロッドに授けた物だ。
彼女はヒーリアの教会に属するシスターだったが後にヒーリア神から聖女として認められ、ライネスト教会を立ち上げた頃にはフェオルディーノの王妃となっている。ヒーリア教会も、それはアリアンロッドが持っているべきと、フェオルディーノ聖王国に奉納してくれている。
昔はライネスト神を主神として妻のヒーリアも祀っていたライネスト教会だったが、途中からヒーリア神を蔑ろにし、ライネスト神だけを祀るようになった。ヒーリア神を見下すようになり、ヒーリア教会とは衝突を繰り返している。
今回はアスクレピオスの杖を手中に収めることで、自分達がヒーリア教会を取り込もうと考えている。こじつけも良いところだ。
「老け込んでいる場合ではありませんよ――エヴァンズ・ベールモローに、きっちり借を返しに参りましょう」
マサシゲはそんな丁寧口調で無言のガブリエルに計画を説明する。
ホープネス教会の人々奪還は反乱軍との共同作業になった。反乱軍の人達が協力してくれることになったのだ。
伯爵邸に第一騎士団、教会突入組には魔法師団と残りの騎士団、それに反乱軍で包囲網を敷き、被害者達を救助する。教会に設置された抜け道も封鎖するのだ。教会内の地図もルーナに作ってもらった。
ルーナが言うには、人の移動ができる能力を安易には使えないと言う。
地図には監視用の魔道具の配置場所まで書かれていた。エヴァンズは常に教会内に裏切り者がいないか監視しているのだ。
しかし地下や教会の食糧倉庫などは設置されていない。彼が逃げ出そうとした時に使うのだ。
「エヴァンズ達含む神官達には、ラルフフローに騙されて自爆魔法陣を教え込まれています」
使用すれば人間の魔力を使って爆破を引き起こす自爆用の魔法陣。世界的に使用を禁止されている代物だ。魔力量によってはホープネスを吹き飛ばすぐらい容易い魔法である。
彼らは見た目を見事に改変された自爆用の魔法陣を、召喚主に服従する悪魔を呼び出せるものだと思っている。窮地に立たされた時知らずに使う可能性が高い。
ただ、以前から戦争に備えて教会全体を覆えるほどの超強力な防御障壁を張れる魔道具を設置している。無駄に良いものだとルーナは言っていた。
それを聞いたガブリエルはそういう男だなと首肯した。
だからこそ、こちらが劣勢であるように見せ、彼らを油断させてから自爆魔法を使われる前に捕縛する――ようはフェオルディーノ側の体裁を保つためだ。教会の悪事を放置しないという意思表示もある。
「何より、エヴァンズにとってガブリエル様の存在こそ脅威。貴方が苦戦していれば、エヴァンズも優越感から油断を招き入れることでしょう」
「……了承しました。今夜いらしてください。ようやく、フレデリカに宛てる指示書が完成したのです」
ラルフフロー国王直々に書いた戦争準備の報告書、彼女とクリスの逃走経路を記した指示書だ。
それは彼女も国を傾けた一味であるという証拠品。今日担当者に出せば三日後の夜にはフレデリカの元へ届けられるだろう。闇オークション開催二日前だ。
ユウは夜に城へと戻ると約束して一度別れた。
そしてその夜、静けさに包まれた城で大規模な魔法展開があった。それは茨姫さながらの眠りの魔法。城の敷地内にいた城関係者全ての人々は深い眠りについた。
その日、ラルフフローの城内の人間達は使用人、罪人含めて忽然と姿を消した。
同行したマサシゲの姿にガブリエルはしばらくポカンとしていたが、他国に協力を取り付けてラルフフローを窮地に追いやれるところまできたと報告を受けた彼は笑い出した。
「いやまさか……はははっ! ここまでしてやられるとは!」
一頻り笑うと、老いたものだなぁとしみじみ言うガブリエル。
「しかし、国王が急遽、ライネスト教に軍を借りると言い出しましてな。その進軍については?」
「聞きました。アスクレピオスの杖を奪うため、すでに七百の聖騎士達がラルフフローへ向けて出発していると」
これはケイオンからもたらされた情報だ。
拷問部屋にいた神官達は、教皇がアスクレピオスの杖を奪還するという名目に戦争に加担しようとするのを止めようとした一部の反対者達だ。
ライネスト教は「アスクレピオスの杖は元々ライネスト神が授けたものだ」という主張だ。
だが実際は違う。ケイオンはライネスト神からレーニンというライネスト教会創始者に、アスクレピオスはライネスト神の妻・ヒーリア神がアリアンロッドに授けた物だ。
彼女はヒーリアの教会に属するシスターだったが後にヒーリア神から聖女として認められ、ライネスト教会を立ち上げた頃にはフェオルディーノの王妃となっている。ヒーリア教会も、それはアリアンロッドが持っているべきと、フェオルディーノ聖王国に奉納してくれている。
昔はライネスト神を主神として妻のヒーリアも祀っていたライネスト教会だったが、途中からヒーリア神を蔑ろにし、ライネスト神だけを祀るようになった。ヒーリア神を見下すようになり、ヒーリア教会とは衝突を繰り返している。
今回はアスクレピオスの杖を手中に収めることで、自分達がヒーリア教会を取り込もうと考えている。こじつけも良いところだ。
「老け込んでいる場合ではありませんよ――エヴァンズ・ベールモローに、きっちり借を返しに参りましょう」
マサシゲはそんな丁寧口調で無言のガブリエルに計画を説明する。
ホープネス教会の人々奪還は反乱軍との共同作業になった。反乱軍の人達が協力してくれることになったのだ。
伯爵邸に第一騎士団、教会突入組には魔法師団と残りの騎士団、それに反乱軍で包囲網を敷き、被害者達を救助する。教会に設置された抜け道も封鎖するのだ。教会内の地図もルーナに作ってもらった。
ルーナが言うには、人の移動ができる能力を安易には使えないと言う。
地図には監視用の魔道具の配置場所まで書かれていた。エヴァンズは常に教会内に裏切り者がいないか監視しているのだ。
しかし地下や教会の食糧倉庫などは設置されていない。彼が逃げ出そうとした時に使うのだ。
「エヴァンズ達含む神官達には、ラルフフローに騙されて自爆魔法陣を教え込まれています」
使用すれば人間の魔力を使って爆破を引き起こす自爆用の魔法陣。世界的に使用を禁止されている代物だ。魔力量によってはホープネスを吹き飛ばすぐらい容易い魔法である。
彼らは見た目を見事に改変された自爆用の魔法陣を、召喚主に服従する悪魔を呼び出せるものだと思っている。窮地に立たされた時知らずに使う可能性が高い。
ただ、以前から戦争に備えて教会全体を覆えるほどの超強力な防御障壁を張れる魔道具を設置している。無駄に良いものだとルーナは言っていた。
それを聞いたガブリエルはそういう男だなと首肯した。
だからこそ、こちらが劣勢であるように見せ、彼らを油断させてから自爆魔法を使われる前に捕縛する――ようはフェオルディーノ側の体裁を保つためだ。教会の悪事を放置しないという意思表示もある。
「何より、エヴァンズにとってガブリエル様の存在こそ脅威。貴方が苦戦していれば、エヴァンズも優越感から油断を招き入れることでしょう」
「……了承しました。今夜いらしてください。ようやく、フレデリカに宛てる指示書が完成したのです」
ラルフフロー国王直々に書いた戦争準備の報告書、彼女とクリスの逃走経路を記した指示書だ。
それは彼女も国を傾けた一味であるという証拠品。今日担当者に出せば三日後の夜にはフレデリカの元へ届けられるだろう。闇オークション開催二日前だ。
ユウは夜に城へと戻ると約束して一度別れた。
そしてその夜、静けさに包まれた城で大規模な魔法展開があった。それは茨姫さながらの眠りの魔法。城の敷地内にいた城関係者全ての人々は深い眠りについた。
その日、ラルフフローの城内の人間達は使用人、罪人含めて忽然と姿を消した。
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