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53話 本物にする能力
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ダレットさん! と大慌てで扉を開け放つ人が一人。
「アンナさんが回復した! 聖女様が来てくださったんだ!」
(……ピア様か)
怪我人が多いならと少しは力になれると立ち上がったユウも案内してもらった。ここから少し離れた場所、不思議な薄い魔法の幕が張っているその中は、怪我人達を収容している場所だった。
まるで津波被害から町の人達が避難してきたような数だ。
その建物にはモンスター避けの結界が張ってあった。本来必要な素材では作られていないため、気休め程度のものだとダレットは言う。
中では人々が床の上で寝ていた。野戦病院さながらの場所に、ピアとエクスの姿があった。
ダレットが姿を表すと、ピアのお陰で怪我が治ったと歓喜する人々。
これだけ助けを求めている人がいるのを、この国は無視してきたのだ。
ユウも怪我人の治癒を手伝った。怪我しか直せなかったが、二時間ほどかけて全員の処置が完了。その頃、レイナードの先導で神塔見学に行かせていた反乱軍の人達が帰って来た。
神にしか成せない技だと悔しげに言いながらも、
「果物が実ってたぞ! 採れるだけ採ってきたんだ!」
「中もすげぇきれいだった!!」
実食済みらしい彼らは、案内役から借りたというマジックバッグに手当たり次第食べ物を詰め込んできたとダレットに現物を渡して報告。
ダレットは、怪我人達の所へもって行くよう指示を出せば、男は拠点を飛び出した。
「ダレットさん、俺達食糧を確保しに行ってくる!」
「……そうだな。動ける者は――いや、戦える者を集めてきてくれ」
薄暗い雰囲気が、活気のある騒がしさに塗り変わっていく。
腹では不満だろうが、腹が減っては戦はできない。
ダレットはレイナードを伴い、ユウ、ピアとエクスを別室へ案内した。
「私達には先導者がいる。クリスが戦争を始めるよう仕向けるため、単身城に身を置いてくれている方だ――名は、サラ・イーグルという。ライネスト教会の司祭の養女だ」
「えっ?」
ダレットは、今まで装着していた腕輪を外し、ポケットから取り出した緑色の薬液が入った瓶から一滴垂らすと腕輪は片手剣へと姿を変えた。
「!」
「彼女のスキルだ。彼女の描いた物は、全てが本物になり、姿形すら変わる」
そう言ったダレットは次に、右足のズボンを捲ると緑色の液体を掛けた。そうすれば、一瞬で足がなくなってしまった。それだけではない、右腕にも薬を掛ければなくなってしまった。
この国の騎士団に勤めていたダレットは、モンスター討伐時に足や腕を食いちぎられても国を守るために戦った。
しかしこんなご時世では命を懸けて戦ってもろくな退職金が出ない。重税も加わり、一番安い値段の義足でさえ家計の負担となり、腕はないままの生活。
自分は武器を持つことでしか生きられない人間だった。それなのに、今まで懸命に支えてくれていた大事な妻さえ病に伏し、助けるために働くことさえ出来なかった。
苦しんでいるのはダレットだけではなかった。働く場所さえままならず、働ける場所ではろくな賃金も支払われない。訴えてもゴミのように人を殺す貴族達。それすら王は知らぬ存ぜぬと税を重くするばかりだった。
虫ケラのように平民達は命をむしり取られ、教会すら助けてはくれない。
「でも、かつては俺もその一味だった」
騎士団として働く以上王の命には背けない。そうやって騎士として働いていた。支払えない者を捕まえてきた。暴力に物を言わせてきた。
これは自分への報いなのだ――そこに、サラが現れた。
ダレットの足と腕は彼女のスキルによって戻ってきた。本物の腕と足ではないが、それでもあの頃のように歩き、武器を振るうことが、再びできるようになった。
そしてサラは言った。国王を討ち取り、この国を取り戻すために力を貸してほしいと。
この未来のない国で、立ち向かう勇気と希望、そしてダレットに再び剣を取る理由を与えてくれた。
反逆の旗を掲げる時が来た。今まで騎士として人々を苦しめてきた自分ができる贖罪――この国を変えるために命を懸けること。
そしてサラは様々な策を講じ、一番厄介な騎士――ヴィンセントを城外へと引き離した。そこにナイジェルも含まれていたのだ。
「サラさんは反乱軍の中で最も王族を憎んでいる。多くを語らない方だが、あの笑顔の下には今も煮えたぎるような憎悪抱えている。そんな人間の危うさを持っている――だからこそ、この国に変革をもたらしてくれる、私が支えるに相応しいと思ったが……」
ダレットはピアに体を直してもらうと、引き出しから薄い冊子を持ってきた。べっとりと赤黒く変色した血液が染み込んでいる。
「私は、この国がどうしても捨てきれないらしい」
「この国が好じゃなきゃ、反乱軍は組織されないですよ」
ダレットは、そうだなと首肯する。
「神子様、此度は非礼の数々お詫び申し上げ――」
「気にしないで。僕の方が皆の覚悟や思いを否定してしまっているんだ。こっちこそ、今すぐにでも国王をぶった切りたい気持ちを少しでも収めてくれて、ありがとう」
ダレットもついに表情を緩ませて、冊子を差し出す。
「旧王国時代の王城跡地にあった物だ」
中には商品の搬送ルートや他にも指示内容まで記入されていた。
最後のページには、フェオルディーノ王家の紋章のシーリングスタンプが捺印されていた。
「アンナさんが回復した! 聖女様が来てくださったんだ!」
(……ピア様か)
怪我人が多いならと少しは力になれると立ち上がったユウも案内してもらった。ここから少し離れた場所、不思議な薄い魔法の幕が張っているその中は、怪我人達を収容している場所だった。
まるで津波被害から町の人達が避難してきたような数だ。
その建物にはモンスター避けの結界が張ってあった。本来必要な素材では作られていないため、気休め程度のものだとダレットは言う。
中では人々が床の上で寝ていた。野戦病院さながらの場所に、ピアとエクスの姿があった。
ダレットが姿を表すと、ピアのお陰で怪我が治ったと歓喜する人々。
これだけ助けを求めている人がいるのを、この国は無視してきたのだ。
ユウも怪我人の治癒を手伝った。怪我しか直せなかったが、二時間ほどかけて全員の処置が完了。その頃、レイナードの先導で神塔見学に行かせていた反乱軍の人達が帰って来た。
神にしか成せない技だと悔しげに言いながらも、
「果物が実ってたぞ! 採れるだけ採ってきたんだ!」
「中もすげぇきれいだった!!」
実食済みらしい彼らは、案内役から借りたというマジックバッグに手当たり次第食べ物を詰め込んできたとダレットに現物を渡して報告。
ダレットは、怪我人達の所へもって行くよう指示を出せば、男は拠点を飛び出した。
「ダレットさん、俺達食糧を確保しに行ってくる!」
「……そうだな。動ける者は――いや、戦える者を集めてきてくれ」
薄暗い雰囲気が、活気のある騒がしさに塗り変わっていく。
腹では不満だろうが、腹が減っては戦はできない。
ダレットはレイナードを伴い、ユウ、ピアとエクスを別室へ案内した。
「私達には先導者がいる。クリスが戦争を始めるよう仕向けるため、単身城に身を置いてくれている方だ――名は、サラ・イーグルという。ライネスト教会の司祭の養女だ」
「えっ?」
ダレットは、今まで装着していた腕輪を外し、ポケットから取り出した緑色の薬液が入った瓶から一滴垂らすと腕輪は片手剣へと姿を変えた。
「!」
「彼女のスキルだ。彼女の描いた物は、全てが本物になり、姿形すら変わる」
そう言ったダレットは次に、右足のズボンを捲ると緑色の液体を掛けた。そうすれば、一瞬で足がなくなってしまった。それだけではない、右腕にも薬を掛ければなくなってしまった。
この国の騎士団に勤めていたダレットは、モンスター討伐時に足や腕を食いちぎられても国を守るために戦った。
しかしこんなご時世では命を懸けて戦ってもろくな退職金が出ない。重税も加わり、一番安い値段の義足でさえ家計の負担となり、腕はないままの生活。
自分は武器を持つことでしか生きられない人間だった。それなのに、今まで懸命に支えてくれていた大事な妻さえ病に伏し、助けるために働くことさえ出来なかった。
苦しんでいるのはダレットだけではなかった。働く場所さえままならず、働ける場所ではろくな賃金も支払われない。訴えてもゴミのように人を殺す貴族達。それすら王は知らぬ存ぜぬと税を重くするばかりだった。
虫ケラのように平民達は命をむしり取られ、教会すら助けてはくれない。
「でも、かつては俺もその一味だった」
騎士団として働く以上王の命には背けない。そうやって騎士として働いていた。支払えない者を捕まえてきた。暴力に物を言わせてきた。
これは自分への報いなのだ――そこに、サラが現れた。
ダレットの足と腕は彼女のスキルによって戻ってきた。本物の腕と足ではないが、それでもあの頃のように歩き、武器を振るうことが、再びできるようになった。
そしてサラは言った。国王を討ち取り、この国を取り戻すために力を貸してほしいと。
この未来のない国で、立ち向かう勇気と希望、そしてダレットに再び剣を取る理由を与えてくれた。
反逆の旗を掲げる時が来た。今まで騎士として人々を苦しめてきた自分ができる贖罪――この国を変えるために命を懸けること。
そしてサラは様々な策を講じ、一番厄介な騎士――ヴィンセントを城外へと引き離した。そこにナイジェルも含まれていたのだ。
「サラさんは反乱軍の中で最も王族を憎んでいる。多くを語らない方だが、あの笑顔の下には今も煮えたぎるような憎悪抱えている。そんな人間の危うさを持っている――だからこそ、この国に変革をもたらしてくれる、私が支えるに相応しいと思ったが……」
ダレットはピアに体を直してもらうと、引き出しから薄い冊子を持ってきた。べっとりと赤黒く変色した血液が染み込んでいる。
「私は、この国がどうしても捨てきれないらしい」
「この国が好じゃなきゃ、反乱軍は組織されないですよ」
ダレットは、そうだなと首肯する。
「神子様、此度は非礼の数々お詫び申し上げ――」
「気にしないで。僕の方が皆の覚悟や思いを否定してしまっているんだ。こっちこそ、今すぐにでも国王をぶった切りたい気持ちを少しでも収めてくれて、ありがとう」
ダレットもついに表情を緩ませて、冊子を差し出す。
「旧王国時代の王城跡地にあった物だ」
中には商品の搬送ルートや他にも指示内容まで記入されていた。
最後のページには、フェオルディーノ王家の紋章のシーリングスタンプが捺印されていた。
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