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51話 アジュールの中
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暁のご指名で、自警団に向かうユウにアスクレピオスとエクスカリバーが同行することになった。
二人共、国内においては国宝のため、エクスカリバーを『エクス』、アスクレピオスは『ピア』と呼ぶことにした。
「スマートフォンはお持ちになっておりませんね、持って参りますので少々お待ちを!」
暁が持ってきてくれたスマートフォンの入ったマジックバッグを持って出発した。
作為的なメンバーチョイスだが、上機嫌な二人に引っ張られて断れない。レイナードも二人の興奮気味なご様子に苦笑いを浮かべていた。
その予感は早くに的中する。
アジュールの町中を歩き始めるとすぐに視線が集中し、子供という名の勇者達に突撃かまされた。アレクサンダーだ! という子供のハイテンションを皮切りに、大人達はアレクサンダーに顔が似ている、あちらは聖女様では……! と驚愕する者まで遠巻きに眺めていた。
最初ここに来た時はアジュールの町中を通らず迂回したが、二人の顔を見ればそういう反応はおかしくないことだ。
エクスはアレクサンダーではないと否定すると、腰に提げていた自分自身を鞘から取り出し、「エクスカリバーです!」と高らかに暴露。
冷や汗が吹き出したが、子供達は逆におおはしゃぎ。目をキラキラさせて、エクスを囲ってしまう。
一方、エクスもやたら嬉しそうだ。構って構ってオーラがどばぁっと溢れている。
そっと離れたユウとレイナード。瞬く間に囲まれる二人を自警団の所へ連れて行くには時間が掛かりそうだ。
巡回中の騎士達は不思議そうに見ていた。一応国宝の代物が出回っているなら何か言いそうなのだが。
「ここにいる騎士って、聖騎士でしたっけ?」
「いや、ラルフフロー国の人間だ」
(うん、そうだ。フィー様も『腕の骨を折ってラルフフローに送り返す』って脅してた)
そう言うレイナードはソワソワしながら辺りを見回す。
ここは王都に近い場所に出現した神塔から守るために作られた防衛の町。
フィーに念話で、自警団はアジュールでしか立ち上がってないのか聞いてみた。すると、彼女はハッとしたように声を荒げた。
《そうじゃ、神子様! 自警団は他にホープネスでも立ち上げられている! 民達が監禁されていた王城跡地は#アジュールの近くにある____#!!》
導き出される答えは一つ。
反乱軍の一つがここの自警団だ。
王都の目と鼻の先。王族を打ち取る反乱軍にとって、最も相応しい前線基地。
そして、ここにいる兵士はみんなラルフフローの人間。
《神子様、妾も――》
同行しようとするフィーの念話をユウはプツンと切った。
離れた所で聖女な訳がねぇと啖呵を切った腕のない男の腕が元通りになった光景に歓声が上がった。ピアもまた、聖女様だと包囲されてしまう。
「聖女様、助けて下さい! うちの旦那が大怪我をしているんです!」
「それは大変です! どこですか?!」
ピアは助けを求めるその人について行ってしまう。囲まれていたエクスにピアと一緒に行くよう念話を飛ばせば、彼も後を負って助けを求める人々の元と共に消えてしまった。
「レイナードさん、自警団の皆さんの所へ行きましょうか」
「あっ、あぁ! 急ごう!」
レイナードに手を差し出すと、その手を引かれてユウはアジュールの町中を進む。
◇◇◇
レイナードに案内された建物は少し離れた小高い丘の上に建てられていて、アジュールが見渡せる場所だった。入り口には一人立っていた。その人はぱっと表情を明るくする。
「帰って来たか、レイナード!」
中には人がたくさんいた。殺伐とした雰囲気、それに現在進行で煙草を吸っている人がいて煙草臭い。
しかし王族やお貴族様の家よりも心地よい気がするのは、ユウが庶民じみているからだろう。一昔前は煙草の匂いが充満している場所なんてそこかしこにあった。
「ただいま」
レイナードがそう言うと、今まで辛気臭かったその場所はレイナードの名を呼ぶ明るい声がわぁっと響き渡った。
無事に帰ってきたことを喜ぶ人達。それだけレイナードという人間が必要としている場所。彼が反乱軍の人間としてどれほど頼りがいのある人間かよく分かる。
ユウにも「この子は?」と気に掛けてくれた。女性の一人がわざわざ視線を合わせてくれる。瞬く間にアットホームな雰囲気にガラリと変わった。
「ボク、名前は?」
「ユウと言います」
自己紹介がてら、ステータスも出す。途端にぎょっと視線が集まった。
あっ! とレイナードが声を上げるが遅い。ユウは全力で叫ぶ。
「愚痴を言いに来ました!」
◇◇◇
暁の言わんとしていることが分かった。スマートフォンを持たせた時点で気付くべきだったかもしれない。
「マジこの国の王族がクズ!!」から始まった。クリスを罵る姿は癇癪を起こしたガキのよう。
しかし、スマートフォンの使い方を教えて写真を見てもらう。いつの間にスマートフォンのデータを全部行き来させたのかは分からないが、全台に同じ物が入っていた。
ホープネスにある教会の地下で行われた血涙石の生産、マジックバッグに入った世界各国の要人達、国を裏切りますの宣誓書を掲げているライネスト教会の錚々たる面々。
さらに教会に行った時の内容を生々しく語り、ラルフフローに操られていたガブリエルの洗脳を解いてきた話もした。ハッスルし過ぎだとガブリエルのトークムービーも見てもらう。偶々ではなかろう、バッグに入っていた人身売買の会場と複製してもらった名簿も見せてやる。
何でかマジックバッグが二つも入っているのを目撃したが、スルーしよう。
二人共、国内においては国宝のため、エクスカリバーを『エクス』、アスクレピオスは『ピア』と呼ぶことにした。
「スマートフォンはお持ちになっておりませんね、持って参りますので少々お待ちを!」
暁が持ってきてくれたスマートフォンの入ったマジックバッグを持って出発した。
作為的なメンバーチョイスだが、上機嫌な二人に引っ張られて断れない。レイナードも二人の興奮気味なご様子に苦笑いを浮かべていた。
その予感は早くに的中する。
アジュールの町中を歩き始めるとすぐに視線が集中し、子供という名の勇者達に突撃かまされた。アレクサンダーだ! という子供のハイテンションを皮切りに、大人達はアレクサンダーに顔が似ている、あちらは聖女様では……! と驚愕する者まで遠巻きに眺めていた。
最初ここに来た時はアジュールの町中を通らず迂回したが、二人の顔を見ればそういう反応はおかしくないことだ。
エクスはアレクサンダーではないと否定すると、腰に提げていた自分自身を鞘から取り出し、「エクスカリバーです!」と高らかに暴露。
冷や汗が吹き出したが、子供達は逆におおはしゃぎ。目をキラキラさせて、エクスを囲ってしまう。
一方、エクスもやたら嬉しそうだ。構って構ってオーラがどばぁっと溢れている。
そっと離れたユウとレイナード。瞬く間に囲まれる二人を自警団の所へ連れて行くには時間が掛かりそうだ。
巡回中の騎士達は不思議そうに見ていた。一応国宝の代物が出回っているなら何か言いそうなのだが。
「ここにいる騎士って、聖騎士でしたっけ?」
「いや、ラルフフロー国の人間だ」
(うん、そうだ。フィー様も『腕の骨を折ってラルフフローに送り返す』って脅してた)
そう言うレイナードはソワソワしながら辺りを見回す。
ここは王都に近い場所に出現した神塔から守るために作られた防衛の町。
フィーに念話で、自警団はアジュールでしか立ち上がってないのか聞いてみた。すると、彼女はハッとしたように声を荒げた。
《そうじゃ、神子様! 自警団は他にホープネスでも立ち上げられている! 民達が監禁されていた王城跡地は#アジュールの近くにある____#!!》
導き出される答えは一つ。
反乱軍の一つがここの自警団だ。
王都の目と鼻の先。王族を打ち取る反乱軍にとって、最も相応しい前線基地。
そして、ここにいる兵士はみんなラルフフローの人間。
《神子様、妾も――》
同行しようとするフィーの念話をユウはプツンと切った。
離れた所で聖女な訳がねぇと啖呵を切った腕のない男の腕が元通りになった光景に歓声が上がった。ピアもまた、聖女様だと包囲されてしまう。
「聖女様、助けて下さい! うちの旦那が大怪我をしているんです!」
「それは大変です! どこですか?!」
ピアは助けを求めるその人について行ってしまう。囲まれていたエクスにピアと一緒に行くよう念話を飛ばせば、彼も後を負って助けを求める人々の元と共に消えてしまった。
「レイナードさん、自警団の皆さんの所へ行きましょうか」
「あっ、あぁ! 急ごう!」
レイナードに手を差し出すと、その手を引かれてユウはアジュールの町中を進む。
◇◇◇
レイナードに案内された建物は少し離れた小高い丘の上に建てられていて、アジュールが見渡せる場所だった。入り口には一人立っていた。その人はぱっと表情を明るくする。
「帰って来たか、レイナード!」
中には人がたくさんいた。殺伐とした雰囲気、それに現在進行で煙草を吸っている人がいて煙草臭い。
しかし王族やお貴族様の家よりも心地よい気がするのは、ユウが庶民じみているからだろう。一昔前は煙草の匂いが充満している場所なんてそこかしこにあった。
「ただいま」
レイナードがそう言うと、今まで辛気臭かったその場所はレイナードの名を呼ぶ明るい声がわぁっと響き渡った。
無事に帰ってきたことを喜ぶ人達。それだけレイナードという人間が必要としている場所。彼が反乱軍の人間としてどれほど頼りがいのある人間かよく分かる。
ユウにも「この子は?」と気に掛けてくれた。女性の一人がわざわざ視線を合わせてくれる。瞬く間にアットホームな雰囲気にガラリと変わった。
「ボク、名前は?」
「ユウと言います」
自己紹介がてら、ステータスも出す。途端にぎょっと視線が集まった。
あっ! とレイナードが声を上げるが遅い。ユウは全力で叫ぶ。
「愚痴を言いに来ました!」
◇◇◇
暁の言わんとしていることが分かった。スマートフォンを持たせた時点で気付くべきだったかもしれない。
「マジこの国の王族がクズ!!」から始まった。クリスを罵る姿は癇癪を起こしたガキのよう。
しかし、スマートフォンの使い方を教えて写真を見てもらう。いつの間にスマートフォンのデータを全部行き来させたのかは分からないが、全台に同じ物が入っていた。
ホープネスにある教会の地下で行われた血涙石の生産、マジックバッグに入った世界各国の要人達、国を裏切りますの宣誓書を掲げているライネスト教会の錚々たる面々。
さらに教会に行った時の内容を生々しく語り、ラルフフローに操られていたガブリエルの洗脳を解いてきた話もした。ハッスルし過ぎだとガブリエルのトークムービーも見てもらう。偶々ではなかろう、バッグに入っていた人身売買の会場と複製してもらった名簿も見せてやる。
何でかマジックバッグが二つも入っているのを目撃したが、スルーしよう。
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