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50話 奴隷制度とダンジョン攻略
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「ここまで形を変えると、夢のお告げの信憑性が上がる……ラルフフローの奴隷制度が力を発揮しますね」
「そうだね。どれだけ厚遇にしても奴隷は奴隷。生命を見下す制度である以上、上層部がゴミと同列だと掌を返せば一気に神塔攻略の人員が増える」
使えなければ生け餌、戦えるなら戦闘奴隷として酷使される。奴隷制度の改悪が進行するのも間違いない。
そうオークが冷静に返す。
「聖王国への侵略も一気に加速するじゃろうな。いやはや、宣戦布告が早まるのが目に見えるわ……」
「「!?」」
「奴隷確保には他国侵略が手っ取り早いですもんね。捕まえるより断然」
奴隷制度のある国は敗戦国の人間を自由に使い潰してもいいという考えになる。人間が人間を見下すのはよくあることだが、それが命を踏みにじるどころがゴミとして扱っても当然という考えになる。同種の人間すら人間として意識しなくなる。
そうなれば、他人を思いやる気持ちも薄らいでいるだろう。きっとラルフフローの大人達は、子供に「ちゃんと勉強をしないと奴隷になるよ」と教えているはず。そうやって恐怖と蔑みの対象として認識させ、全うな道を歩めるよう努力させるための文言として利用するのだ。
悪者の末路が常に目の端に見える国だ。それを嫌がってこの国にとって正しい行為を意識するようになる。すでに、この国の一般市民はそういう認識が浸透し、疑うこともないだろう。
だがすぐに、オークが「行きましょう!」とユウの手を引いて神塔の方へ降りて行く。
レイナードが説明を求めるように国王へと振り向いた。
老いてやつれた碧眼が、細められる。
「貴方はロイ・キングストン公爵のご友人だったね。前以て言っておこう。我が国の現状を」
滔々とナイジェルは語り始める。
◇◇◇
ユウはラセツの元に降り立つ。空中に出来た足場にぺたぺた触っていると、足場が降りていった。エレノアも別行動だったらしく、ユウ達が降りてくるより後だ。
ユウの存在に気づいて、ぱっ振り返る。
「すごいんですよ、神子様! どばぁあーって!」
「見てました。すごかったですね」
エクスカリバーの伝え方が少々幼児染みていたが、ユウは笑って誤魔化す。彼が「いっぱいライトニング・ロアが出せました!」ときゃっきゃはしゃいでいると、アスクレピオスとマサシゲもやって来る。
そうして最後、降りてきたオークに彼らは再会を喜び合う。いやぁすごかったねぇ、とオークは笑う。
「森の再生は私にお任せ下さい、神子様!」
「え? ああ、お願いします」
ふんす、とちょっと鼻を膨らませてアスクレピオスは杖をトンと地面に突く。
そうすれば巨大な魔法陣が浮かび上がる。緑色それから、オーブがユラユラと立ち上る。
全体を包む夥しい魔力が溢れている。だがされは、優しく暖かい。湿り気もなく、するりと抜ける風のように魔力が肌を抜けていく。
「リザレクション・ネイチャー!」
膨大な魔力が強い風となって吹き荒れる。魔法陣の縁で円を描いていた風がオーブを巻き上げて神塔ーーダンジョンの辺り一帯に広がっていく。
その拍子に巻き上げられた魔力が降り注ぐ。まるで緑色の光がキラキラ煌めきながら、恵みの雨のように降り注ぐ。
生命に蘇れと呼び掛けているーーその願いは、届く。
吹き飛んでいた土がみるみるうちに盛り上がっていく。そして、そこから木が芽を出し伸びていく。
「あらぁ~?」
木の背は伸び、幹が丸々太っていき、四方八方ににょきにょき伸び、無数の葉を繁らせていく。
「おい、でかくなり過ぎてないか? てか、ここ切り開いた道だったよな?」
「加減、間違えちゃったかしらぁ?」
「間違えちゃったどころの騒ぎじゃねぇだろ、これ」
エクスカリバーが作り上げたクレーターと言うべきかそれは跡形もなくなって巨木へと大成長を遂げる。
まるで人が今まで入ったことのない密林の最奥に佇む、神聖な巨木のようであった。あっという間に頭上は葉で覆われ、木漏れ日が優しく降り注ぐ景色に変貌していった。
「……はぁ。木ぃ倒すかー」
「ならライトニング・ロアをーー」
「いや使うな」
まだ出んのかよと呆れたようにマサシゲは言う。二人は、オークからの指示で倒す方向に気を配りながら瞬く間に巨木を倒していく。倒した木はエルメラが持っていたマジックバッグに収めて、神塔への道は切り株だらけになった。
「あの大きさを利用して中をくり貫いた休憩スペースを作っておけば、怪我人の一時搬送先に利用できたかもしれないですね」
「うーん……くり貫くと木に雑菌が入ってしまうからねぇ。森の中なら良いんだけど、人間が利用する所だから長持ちするように家を建てた方が良いと思うよ」
「確かに! 丈夫な建物の休憩スペースはあった方が良いですね!」
キャッキャとはしゃいでいると、上から要人達が降りてくる。後を追って、フィー達フェオルディーノ組もだ。暁はとてとてと彼らの元へと駆けて行った。
「さぁ皆様! 此度は僭越ながら、私が中をご案内いたしましょう! ユウ様はレイナードと共にアジュールの皆様へ説明に向かって下さい!」
「分かりました!」
「えっ? 俺?!」
「もちろんでございます!」
暁に背を押され、ユウはレイナードの手を掴んで引っ張る。見た目十歳児の特権である。
琥珀色の瞳が戸惑ったように見下ろしてくる。
「まずは自警団の皆様の所に行きましょう!」
「そうだね。どれだけ厚遇にしても奴隷は奴隷。生命を見下す制度である以上、上層部がゴミと同列だと掌を返せば一気に神塔攻略の人員が増える」
使えなければ生け餌、戦えるなら戦闘奴隷として酷使される。奴隷制度の改悪が進行するのも間違いない。
そうオークが冷静に返す。
「聖王国への侵略も一気に加速するじゃろうな。いやはや、宣戦布告が早まるのが目に見えるわ……」
「「!?」」
「奴隷確保には他国侵略が手っ取り早いですもんね。捕まえるより断然」
奴隷制度のある国は敗戦国の人間を自由に使い潰してもいいという考えになる。人間が人間を見下すのはよくあることだが、それが命を踏みにじるどころがゴミとして扱っても当然という考えになる。同種の人間すら人間として意識しなくなる。
そうなれば、他人を思いやる気持ちも薄らいでいるだろう。きっとラルフフローの大人達は、子供に「ちゃんと勉強をしないと奴隷になるよ」と教えているはず。そうやって恐怖と蔑みの対象として認識させ、全うな道を歩めるよう努力させるための文言として利用するのだ。
悪者の末路が常に目の端に見える国だ。それを嫌がってこの国にとって正しい行為を意識するようになる。すでに、この国の一般市民はそういう認識が浸透し、疑うこともないだろう。
だがすぐに、オークが「行きましょう!」とユウの手を引いて神塔の方へ降りて行く。
レイナードが説明を求めるように国王へと振り向いた。
老いてやつれた碧眼が、細められる。
「貴方はロイ・キングストン公爵のご友人だったね。前以て言っておこう。我が国の現状を」
滔々とナイジェルは語り始める。
◇◇◇
ユウはラセツの元に降り立つ。空中に出来た足場にぺたぺた触っていると、足場が降りていった。エレノアも別行動だったらしく、ユウ達が降りてくるより後だ。
ユウの存在に気づいて、ぱっ振り返る。
「すごいんですよ、神子様! どばぁあーって!」
「見てました。すごかったですね」
エクスカリバーの伝え方が少々幼児染みていたが、ユウは笑って誤魔化す。彼が「いっぱいライトニング・ロアが出せました!」ときゃっきゃはしゃいでいると、アスクレピオスとマサシゲもやって来る。
そうして最後、降りてきたオークに彼らは再会を喜び合う。いやぁすごかったねぇ、とオークは笑う。
「森の再生は私にお任せ下さい、神子様!」
「え? ああ、お願いします」
ふんす、とちょっと鼻を膨らませてアスクレピオスは杖をトンと地面に突く。
そうすれば巨大な魔法陣が浮かび上がる。緑色それから、オーブがユラユラと立ち上る。
全体を包む夥しい魔力が溢れている。だがされは、優しく暖かい。湿り気もなく、するりと抜ける風のように魔力が肌を抜けていく。
「リザレクション・ネイチャー!」
膨大な魔力が強い風となって吹き荒れる。魔法陣の縁で円を描いていた風がオーブを巻き上げて神塔ーーダンジョンの辺り一帯に広がっていく。
その拍子に巻き上げられた魔力が降り注ぐ。まるで緑色の光がキラキラ煌めきながら、恵みの雨のように降り注ぐ。
生命に蘇れと呼び掛けているーーその願いは、届く。
吹き飛んでいた土がみるみるうちに盛り上がっていく。そして、そこから木が芽を出し伸びていく。
「あらぁ~?」
木の背は伸び、幹が丸々太っていき、四方八方ににょきにょき伸び、無数の葉を繁らせていく。
「おい、でかくなり過ぎてないか? てか、ここ切り開いた道だったよな?」
「加減、間違えちゃったかしらぁ?」
「間違えちゃったどころの騒ぎじゃねぇだろ、これ」
エクスカリバーが作り上げたクレーターと言うべきかそれは跡形もなくなって巨木へと大成長を遂げる。
まるで人が今まで入ったことのない密林の最奥に佇む、神聖な巨木のようであった。あっという間に頭上は葉で覆われ、木漏れ日が優しく降り注ぐ景色に変貌していった。
「……はぁ。木ぃ倒すかー」
「ならライトニング・ロアをーー」
「いや使うな」
まだ出んのかよと呆れたようにマサシゲは言う。二人は、オークからの指示で倒す方向に気を配りながら瞬く間に巨木を倒していく。倒した木はエルメラが持っていたマジックバッグに収めて、神塔への道は切り株だらけになった。
「あの大きさを利用して中をくり貫いた休憩スペースを作っておけば、怪我人の一時搬送先に利用できたかもしれないですね」
「うーん……くり貫くと木に雑菌が入ってしまうからねぇ。森の中なら良いんだけど、人間が利用する所だから長持ちするように家を建てた方が良いと思うよ」
「確かに! 丈夫な建物の休憩スペースはあった方が良いですね!」
キャッキャとはしゃいでいると、上から要人達が降りてくる。後を追って、フィー達フェオルディーノ組もだ。暁はとてとてと彼らの元へと駆けて行った。
「さぁ皆様! 此度は僭越ながら、私が中をご案内いたしましょう! ユウ様はレイナードと共にアジュールの皆様へ説明に向かって下さい!」
「分かりました!」
「えっ? 俺?!」
「もちろんでございます!」
暁に背を押され、ユウはレイナードの手を掴んで引っ張る。見た目十歳児の特権である。
琥珀色の瞳が戸惑ったように見下ろしてくる。
「まずは自警団の皆様の所に行きましょう!」
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