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44話 天界から戻ってきた暁

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 レジナルドをソファーで休ませたフィーが「報告じゃな?」と彼がいる前で問う。
 ロイは一瞬顔をしかめたがすぐに意を決したように開口する。

「犯人グループは殺害されていました。モンスターのような爪痕はありましたが、奴等はフェオルディーノ聖王国騎士団の鎧を着用していました」

 まずいな、とヒュースは呟く。

反乱軍レジスタンスが彼らが助け出した可能性が高いという事か……これはガブリエルも予想外だろうな」
「暴動が先か闇オークションが先か……」

 そうフィーは指を組んで俯いた。

「ところでヒュース。さっきの本はどうやって出したのじゃ」
「あれか?」

 建物の付喪神は自分の敷地内であれば自由に行き来出来るように、物の出し入れも自由という奴である。

 次の瞬間、フィーの隣に現れたのは白く美しい杖。純白の蛇がくるくると杖に巻き付いて、赤ん坊の頭ほどある大きな青い珠を固定しているようだ。
 そこに、フィーと全く同じ顔の女性がきょとんと目を瞬かせていた。

 その白い杖をユウにぽんと渡すと、あの黄金色の輝きが彼女を包んでこの世に顕現させる。体が具現した次の瞬間、顔の全く同じ彼女にフィーは飛び付く。

「あら? あら、お城様ではありませんか。お久し振りですわね?」
「アスクレピオスぅうううううーーーーっ!!」

 フィーは、うわーん! とわざとらい声を上げてアスクレピオスと呼んだ彼女をぎゅうううっと抱き締めながら「もう疲れたよぉおおー!!」「いやだぁーー!」とギャン騒ぎ。

 アスクレピオスはフィーの頭を撫でながら優しい言葉を掛ける。圧倒的な光属性とのんびりな口調は、快活なフィーとは声が違って大人びていた。
 いやいやとごねると「アリアンロッド様に会いたいよぉおおーー!!」と子供のように泣きわめくフィーをそれでも宥め続ける。彼女を聖母と言わずして何と表現が正しいだろうか。

 フィーが大騒ぎしていると、青いパステルカラーの煙がモクモクと現れてユウの元に飛び降りると、にぱっと笑う。

「アカツキ、ただいま戻りました!」
「お帰りなさ……ーーえっ? 戻りました? 今までどこ行ってたんですか?」
「みゅ? 天界です!」

 そんな発言を聞けば、向かおうとしたエルメラとラセツも足を止め、大騒ぎしていたフィーも振り返る。

「てんかい……か、神様の世界? え? 何時から行ってたんですか?」
「みゅ? もう五日、でしょうか? ずっと行ったり来たりしていました!」

 暁が現れる時、青い煙が上がって姿を表している。あれは天界への道を隠すための煙らしい。
 それはユウがアヴァンデルグに召喚されて目を覚ましてからずっとやっていた事である。ずっと空間的な物から現れてるんだと思っていた。

 それでですね、と暁は空中で行ったり来たり。

「ユウ様、ようやく神塔のシステム変更作業が完了しました! これからは私、全力でユウ様のサポートに当たりますよ!」
「神塔のシステム変更?」

 暁はソファーに掛けてあったマジックバッグを浮かせると、エルメラに渡す。

「これから神塔の魔物を倒しに行くのですよね? 倒した際に落ちてきた物を拾い、こちらに入れて来て下さい!」
「倒した際に、落ちてきた物?」
「もしかして、ドロップ品ですか?!」

「はい!」と暁は楽しそうに戻ってくる。
 どうやら長年、神塔が引き起こすスタンピードに悩んでいた神々はも魔物を特殊な部屋に閉じ込めたり、強い魔物を作って魔物の数を減らしてもらおうとも工夫してきたがどれも上手くいかなかったそうだ。

 時々バグが発生して、その魔物を閉じ込めた空間への入口が発露してしまったり、逆に強くなりすぎた個体が現れ、奥に閉じ込めるしかなくなった。
 それが駄目ならば塔にを仕掛けを施すも、魔物達はその罠を避けるように学習してしまい……と、全てが裏目に出る結果になってしまったそうだ。

 ユウからすればダンジョンにお約束といえるボス部屋やダメージを与えるための罠だなーとずっと聞いていた。ただ、そのモンスターがいっぱい出てくるトラップ部屋は死亡不可避の鬼畜仕様だ。

「それでですね! ダンジョンに付き物という『お宝』も出るように設置してきました!」

 強い固体を閉じ込めているお部屋……いわゆる『ボス部屋』では、そのボスを倒すと必ず宝箱が出現するようになった。世にあまり出回っていない武器や防具などの装備品や、特殊な魔道具などのレアアイテムだそうだ。

「それに、排出倍率はとぉ~~っても低いですが、我々神々からもですね! プレゼントを入れました! 種類はこちらも装備品や魔道具などですが、転移魔法に関する魔道具もこっそり入れちゃいました!」

 こっそり入れたものをここで暴露して良いのかな~。
 ユウは何の話を聞かされてるんだろうかと思いつつ、「それは、すごく楽しい事になりそうですね」と頷きながら返答しておいた。
 暁は、嬉しそうにパタパタと尾を振った。

 ◇◇◇

 この時、その話を直に、魔法で集音して、素の聴覚などで聞いていた各国の要人達は耳を疑った。

 世界各地、彼らにとってもある種の悩みの種であった『神塔のシステムを変更した』という言葉に。

 時々魔石を内包している事はあるが、神塔の魔物 から『ドロップ品』が落ちる事はなかった。何故ならば、瘴気がモンスターになっているだけで、血肉があるわけではない。ウインドウルフが霧になって消えていたのはそのせいだ。

 神塔の中で弱肉強食は結局瘴気を補給しているだけなので、倒したとしても血肉から作られる毛皮や爪などのドロップ品は本来ない。

 ただ、親玉になっていたフェンリルはランシェルの森の中でモンスターを倒して進化した際に血肉を得たため、倒しても肉体が残っていた。神塔のモンスターに限りよくある話なので大した事ではないのだが、ユウは当然知らない事である。

 ユウは神塔のような場所だけでなく、モンスターを倒すとドロップ品は必ず出ると思っているが、アジュールへ向かう道中で事を失念している。

 だが、それらを知っていた彼らには衝撃が走る。

 しかも転移魔法に関する魔道具ーーこれは各国で公にされておらずとも、こぞって研究されている魔法だ。
 そんな情報がこんな片田舎でポッと出て来て良い話ではなかった。

 ◇◇◇

「ですからユウ様」と暁はユウの顔を見上げて言う。

「冒険者ギルドを創りましょう!」
(ん?!)

 ユウは笑顔のまま固まった。
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