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40話 マジックバッグの小型化

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「神子様、最後にお一つだけ質問よろしいでしょうか?」
「何でしょうか?」
「何故、我々フェオルディーノ聖王国にご協力下さっているのですか?」
「クリス・フェオルディーノを廃嫡させたいからです」

 間髪入れずにユウは返答した。
 さすがのガブリエルも「はい?」と疑問を投げ掛ける。

「クリス・フェオルディーノを廃嫡させたいからです」

 大事な事なので全く同じ言葉を二度繰り返したユウに、ガブリエルは目のパチパチさせる。
 仕方があるまいとユウはここまでの経緯を語った。もちろん異世界から身勝手で連れてこられたのにステータスを見ておきながらボロ雑巾のように捨てられた被害者面で語る。

「ようは、呼吸してるだけでムカつくので社会的に抹殺したいです」

 ガブリエルは一間置いて声を上げて笑った。
 久々に大笑いしたのか、ゴホッゴホッ! とすぐにむせ返った。

 ◇◇◇

 ガブリエルと別れてから戻ったユウとリートは宿屋に戻って朝食に向かった。今日こそはちゃんとラセツに三食たべさせるという目標を掲げているので今日は無理矢理にでも食べさせる。

 その間、オクタール商会についてザックとリートに情報を頂いた。
 元々オクタール商会はラルフフローから始まった商会で、今は国内外にも支店が多く点在している新進気鋭の商会だ。

《俺達はここの王都からフェオルディーノの王都まで護衛任務を受けたんだよ》 
《あれ? ザックさんはフェオルディーノの人ですよね?》
《あぁ。フェオルディーノにあるオクタール商会の支部に護衛隊として雇われたんだ》

 だが、王都側に人手が足りないからとイアン達はすぐさまラルフフローの王都に向かわされ、ここが拠点となった。
 リート曰く、フェオルディーノの人間が例のマジックバッグの販売や流通をしているように思わせるのが狙いだからだろうという。

《数年前、リジナー工房でマジックバッグの小型化に成功したんです。ポーチや財布といった物ですね。様々な形状のマジックバッグは今では人気商品としてオクタール商会が専門で取り扱っています。ラルフフロー王家もリジナー工房をサポートをしているんですよ》

 掌にサクッと分厚い紙束を出された。おおよそ七冊分。どう見てもそれはこの国の予算が書かれたものだろう。それをラセツに複製してもらってすぐマジックバッグに突っ込む。

 これはガブリエルの提案だ。
 フェオルディーノ聖王国でマジックバッグを作っている工房に製作が無理な個数を提示させる。困ってる工房にラルフフロー側の生産したマジックバッグを売り付ける。それを彼らが買い取って受注した依頼者の希望個数を賄うという仕組みだ。

 食事を終えてからリジナー工房に向かった。まだ仕事が始まる時間でもないため事務所の潜入は簡単だった。
 帳簿を『複製』で持ち出してから確認すると、オクタール商会の他に店に何件も卸しているが直接卸ろしている工房の名前は一つしかなかった。最初のやり取りは一年半ぐらい前からだった。

 ◇◇◇

 急いでホープネスの宿屋に戻ってきた。昼前に到着したなんてすごく頑張ったと思う。
 ザックに複製したスマホと帳簿、更に複製させたマジックバッグに持たせてアジュールまで走ってもらった。
 文字通り走る。生前より走力と持久力が上がっているらしい。

「ユウ様、すごくお似合いです!」
「あ、ありがとうこざいます……」

 ボーイッシュロリータ風の服にリメイクされて戻ってきた昨日の神子衣装。さっきからカシスが興奮冷めやらぬ様子で褒め言葉を早口言葉で繰り出された。
 昨日の仮縫いでは全身がズボンで隠れていたが、コレは白いタイツを履かされてその上に膝丈のカボチャパンツになっていた。どうしてこんな進化を遂げたのか甚だ疑問である。

 ベールは変わってない。だが、わざわざ特殊な布を使ってくれていて、顔はすっぽり覆われ外からは全然見えないのに、布そのものがないように遮られていないのである。布を摘まんで被り直してもやはり布はあるのだ。

「あとはですね……はい!」

 そう声をあげると、服が純白から一瞬のうちに黒を基調とした貴族らしい服に変わった。差し色は赤、ちゃんとボーイッシュロリータ。こっちは半ズボンだ。顔を隠すために帽子が大きくなり、デッコデコに飾り付けられ、大きな赤いリボン垂れ下がっている。口元だけが見える仮面で隠している。

「はわぁああ~~! 可愛いです! 神子様、とっっっても可愛いですぅ~~!」

 会心の出来と言ったカシスがはしゃいでいた。周囲からも似合う似合うと声が上がった。この先この服を着る予定がない事が非常に申し訳ない。

 そんな仕掛けは昨日時点で聞いていなかったが、カシス曰く今日突然インスピレーションが降って来たとか急遽付け足したとのたまう。

「ちなみに全七着にその機能を付けました!」
「え? 付けられる物なのすご過ぎない?」

 思わず本音が吐露する。というか、カシスはちゃんと休んだのか気になるぐらいの仕事量だと思っていたら、ルーナまで情報収集そっちのけで手伝ったらしい。
 
「ユウ様……とても、よく似合っていらっしゃいます……」
「ありがとうございます。ラセツさん」

 ちょっと頬を赤らめているラセツにこれから恋愛イベントでも始まるのかと思考が適当ほざいたところで、

「もしよろしければ、我等の里の服も着てみませんか?」
「和服ですか? 着てみたいです」

 聞いてみると袴や水干などもあるらしい。カシスも興味を持って「どんな構造なんですか?!」とラセツに迫った。

 この後ユウは残り七着、新しく作ったという服をしこたま着せ替え人形にされた。お陰で昼はあっという間に過ぎてしまった。
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