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38話 偽造文書の作り方
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ラルフフローの王都に到着したのは夜。そのままラルフフロー城の付喪神と少し話をしてから顕現させて連れ出した。
宿屋は夜遅くてもアッサリ見付けられた。しかも部屋まで選べる。
彼は目をぱちくりさせながらベッドに腰を下ろすと、こてんと転んだ。ユウは手を引いて起こす。
それからマジックバッグからメリーを放り出す。その直後にラセツに取り押さえられて転がった彼女を見て、彼は名前とラルフフローの密偵である事、更に彼女のコードネームを告げれば彼女は愕然としたように城の付喪神を見上げた。
彼女にはマジックバッグにお帰りいただく。本当にもう用済みなのだが、放逐したらラルフフロー王城に密告した上で奴隷行きという密偵に厳しい世界だった。
ラルフフロー城の付喪神は少々幼げな顔立ちで、可愛らしい笑顔で言った。何でもないように肯定されるのもまた嫌な感じだ。
まずはガブリエルの現状。彼は城の一室で仕事に缶詰状態らしい。拘束目的もあるだろうが、洗脳されているので使って良いと言われている部屋以外ほとんど使わず、必要な外出以外全くしないという。老体である事もあるのだろう。ちゃんと休日も貰っているという。
「国王より働いてるんです。彼、すごいんですよ」
「あの、ラルフフロー城様……王族に対してさばさばしてませんか?」
「あぁ。僕は元々ラルフフローではなくリートビア国の城だったから、彼らは余所者なんです」
リートビアは二百年前に戦争で負けて滅んだ国だ。ラルフフローの王族が引っ越してきたらしい。なら、彼の名前はリートだ。
彼はリートビアの話を始めた。素敵な国王夫妻だった、政治も品がない奴隷制度もなかったと楽しげに語って、寂しそうにあの頃が懐かしいと言った。
ユウは質問したい事が頭から抜けていきそうだ。もう目がシボシボしている。
「あの、国王直筆の密書を偽造したいんですけど」
「さすがにあの王は書かないですよ」
「いえ、筆跡に関してはラセツさんに文字を複製してもらうので大丈夫です」
ザックがラセツを見てぎょっとする。そしてラセツもぎょっと目を見開く。
招待状の文字だけも見事に複製していたのだ。それなら、最近の物でラルフフロー王の文字が見られる資料があれば、そこから一文字一文字複製していけば文字通り、直筆、になるのではないか。
専用の紙、神子を遣わすからソイツのいう事を聞けという内容の文章、あと他に必要な物はあるか。
「それなら王家紋の印を押す時に使うインクと、封蝋かな」
どらちも王族の書類が偽造されないように作られた王族専用のインクと蝋だ。それだけ王族の書面は偽造されない為に手を尽くされている。各国の王族ならそれらを仕込んでいるはずだ。そして、特注品であるため当然非売品。
「あぁ、そっちも複製できると思います。アカンサス模様が作れたので、例え出来なくても試すだけ……ためしぃ……」
ごとん、と突然意識がまっ暗に。ユウの意識は、またも夢の世界に吹っ飛んで行った。
◇◇◇
闇オークションまで、あと一週間……ーー。
変な枕に頭を預けて全身が温かいもの包まれている……そう気付いて目を覚まして、ユウは昨日の自分を呪った。リートがいるからベッドが一つ足りなくなったのだ。ソファーもないのでユウと同じベッドにラセツが入っている。しかも腕枕だ。
そういえば、この人イケメンだった。
抜け出ようにも狭いベッドに入るためにユウは抱き枕ポジだった。しかし、身じろぎしたせいでラセツも目を覚ましてしまった。
「おはようございま……ーー」ぐぅう。
「あっ」
そういえば昨日、昼も夜も食べていない。自分があまりお腹が減らないせいで頭を掠めもしなかった。
「いえ、その……今のは、聞かなかった事に」
「しませんよ」
何を言い出すんだコイツはと思っていると、ラセツが「それよりも!」とユウを軽々抱き上げて部屋の一角にあるこじんまりしたテーブルに連れて行った。
「文字を一文字ずつ複製できました! 文章もできているんです!」
ラセツの嬉しそうな声は二人を目覚めさせるアラームにもなった。ザックが眠たげに体を起こすが、リートはパチッと目を覚ますとバタバタとやって来る。
「すごいんですよ! 彼、国王の筆跡を紙に複写したんです! しかも、こっちの王家紋に使用されているインクも完全に再現されています! こんなに完璧な贋作は初めて見ました!!」
リートはこんなレベルの偽造書類を作った人にはお目に掛かった事がないという。
あの時、自分のスキルなんてと言っていたラセツが誇らしそうにしている所を見ると、どうしても「よかったね」と思ってしまう。
それに『複製』なら戦闘にも活用できるだろう。
「そうだ。ガブリエル様の食事ってそろそろでしょうか? 洗脳を解きに行きたいんです」
「まだ、四時だから、今はまだ寝ています!」
城で働いている人間はもう朝食の準備を始めており、ガブリエル自身、寝坊もしないし着替えも自分でするから起こしに行く女中もいない。
行くならお供するというラセツには休んでもらう。ユウの腹時計は壊れているみたいだし、ラセツに合わせた方が良い。
煙と共に現れた暁を連れて、ユウは宿の窓から飛び出した。見張りの目が届かない場所から場内に入り込み、リートに連れて行ってもらう。
そこは豪奢な部屋だった。カッヘルの屋敷にあった部屋など比べ物にならないほどの高級感。赤いフェルトの絨毯、そして品のある調度品。
大きなベッドに静かに眠るガブリエル。あの日、アジュールで初めて会った顔、そのままだ。
宿屋は夜遅くてもアッサリ見付けられた。しかも部屋まで選べる。
彼は目をぱちくりさせながらベッドに腰を下ろすと、こてんと転んだ。ユウは手を引いて起こす。
それからマジックバッグからメリーを放り出す。その直後にラセツに取り押さえられて転がった彼女を見て、彼は名前とラルフフローの密偵である事、更に彼女のコードネームを告げれば彼女は愕然としたように城の付喪神を見上げた。
彼女にはマジックバッグにお帰りいただく。本当にもう用済みなのだが、放逐したらラルフフロー王城に密告した上で奴隷行きという密偵に厳しい世界だった。
ラルフフロー城の付喪神は少々幼げな顔立ちで、可愛らしい笑顔で言った。何でもないように肯定されるのもまた嫌な感じだ。
まずはガブリエルの現状。彼は城の一室で仕事に缶詰状態らしい。拘束目的もあるだろうが、洗脳されているので使って良いと言われている部屋以外ほとんど使わず、必要な外出以外全くしないという。老体である事もあるのだろう。ちゃんと休日も貰っているという。
「国王より働いてるんです。彼、すごいんですよ」
「あの、ラルフフロー城様……王族に対してさばさばしてませんか?」
「あぁ。僕は元々ラルフフローではなくリートビア国の城だったから、彼らは余所者なんです」
リートビアは二百年前に戦争で負けて滅んだ国だ。ラルフフローの王族が引っ越してきたらしい。なら、彼の名前はリートだ。
彼はリートビアの話を始めた。素敵な国王夫妻だった、政治も品がない奴隷制度もなかったと楽しげに語って、寂しそうにあの頃が懐かしいと言った。
ユウは質問したい事が頭から抜けていきそうだ。もう目がシボシボしている。
「あの、国王直筆の密書を偽造したいんですけど」
「さすがにあの王は書かないですよ」
「いえ、筆跡に関してはラセツさんに文字を複製してもらうので大丈夫です」
ザックがラセツを見てぎょっとする。そしてラセツもぎょっと目を見開く。
招待状の文字だけも見事に複製していたのだ。それなら、最近の物でラルフフロー王の文字が見られる資料があれば、そこから一文字一文字複製していけば文字通り、直筆、になるのではないか。
専用の紙、神子を遣わすからソイツのいう事を聞けという内容の文章、あと他に必要な物はあるか。
「それなら王家紋の印を押す時に使うインクと、封蝋かな」
どらちも王族の書類が偽造されないように作られた王族専用のインクと蝋だ。それだけ王族の書面は偽造されない為に手を尽くされている。各国の王族ならそれらを仕込んでいるはずだ。そして、特注品であるため当然非売品。
「あぁ、そっちも複製できると思います。アカンサス模様が作れたので、例え出来なくても試すだけ……ためしぃ……」
ごとん、と突然意識がまっ暗に。ユウの意識は、またも夢の世界に吹っ飛んで行った。
◇◇◇
闇オークションまで、あと一週間……ーー。
変な枕に頭を預けて全身が温かいもの包まれている……そう気付いて目を覚まして、ユウは昨日の自分を呪った。リートがいるからベッドが一つ足りなくなったのだ。ソファーもないのでユウと同じベッドにラセツが入っている。しかも腕枕だ。
そういえば、この人イケメンだった。
抜け出ようにも狭いベッドに入るためにユウは抱き枕ポジだった。しかし、身じろぎしたせいでラセツも目を覚ましてしまった。
「おはようございま……ーー」ぐぅう。
「あっ」
そういえば昨日、昼も夜も食べていない。自分があまりお腹が減らないせいで頭を掠めもしなかった。
「いえ、その……今のは、聞かなかった事に」
「しませんよ」
何を言い出すんだコイツはと思っていると、ラセツが「それよりも!」とユウを軽々抱き上げて部屋の一角にあるこじんまりしたテーブルに連れて行った。
「文字を一文字ずつ複製できました! 文章もできているんです!」
ラセツの嬉しそうな声は二人を目覚めさせるアラームにもなった。ザックが眠たげに体を起こすが、リートはパチッと目を覚ますとバタバタとやって来る。
「すごいんですよ! 彼、国王の筆跡を紙に複写したんです! しかも、こっちの王家紋に使用されているインクも完全に再現されています! こんなに完璧な贋作は初めて見ました!!」
リートはこんなレベルの偽造書類を作った人にはお目に掛かった事がないという。
あの時、自分のスキルなんてと言っていたラセツが誇らしそうにしている所を見ると、どうしても「よかったね」と思ってしまう。
それに『複製』なら戦闘にも活用できるだろう。
「そうだ。ガブリエル様の食事ってそろそろでしょうか? 洗脳を解きに行きたいんです」
「まだ、四時だから、今はまだ寝ています!」
城で働いている人間はもう朝食の準備を始めており、ガブリエル自身、寝坊もしないし着替えも自分でするから起こしに行く女中もいない。
行くならお供するというラセツには休んでもらう。ユウの腹時計は壊れているみたいだし、ラセツに合わせた方が良い。
煙と共に現れた暁を連れて、ユウは宿の窓から飛び出した。見張りの目が届かない場所から場内に入り込み、リートに連れて行ってもらう。
そこは豪奢な部屋だった。カッヘルの屋敷にあった部屋など比べ物にならないほどの高級感。赤いフェルトの絨毯、そして品のある調度品。
大きなベッドに静かに眠るガブリエル。あの日、アジュールで初めて会った顔、そのままだ。
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