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37話 オクタール商会の護衛

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 ホープネスへ到着直前、メリーからの襲撃を受けた。エレノアの時と同様、ラセツにも念話を一時的に繋げ、ラセツが抑え込んだ隙にマジックバッグで捕縛完了。

 宿屋に到着してからはカシス特製の神子衣装着せ替え会が始まった。どれもレースとフリルがふんだんにあしらわれたフリフリの服だったが七着もあるとはどういう事か。顔が見えないように頼んでいたベ顔が見えないようのベールが例の七着にセットで作られている。「仮縫いだけですから!」と言うが、普通はできないはずだ。

 その中でも渾身の出来だというのがズボンタイプの物だった。十歳児の体躯を見せるにはローブでは隠れすぎてしまうと嬉々として語る。

「私の固有スキルが『裁縫』なんです! ですからレティシア様のお洋服を作ったり……」

 カシスはエルフ達の中でも高位エルフの服を作っている、専属のお針子だったそうだ。 

 思い出に耽る彼女の言葉に頷く。楽しい日々を送ってたんだと思う反面、本当に下らない理由で浚って行きやがってと呆れてしまう。

 ランシェルの森の生活を美しい言葉で語る彼女の教養には憧れる。元の世界について聞かれた時、ユウはきっとこんな楽しそうに語れないだろうなと思ったからだ。

 ラセツにも尋ねてみた。彼らもまたランシェルの森の中に隠れ里を築いていていて、しかもその鬼人族とエルフで不可侵条約もあったそうだ。二人がご近所さんだった事が判明した。

 カシスが話を切り出す形でラセツも答えていき、話は盛り上がっていった。ちょっと覚悟していたがユウの元の世界について尋ねられる事はなかった。

 翌日ーー闇オークション開催まで一週間と一日。
 カシスには引き続き本縫いを頼み、時間があれば撮影の練習をお願いした。ルーナと幽霊だった皆には引き続き情報収集を頼む。ラルフフローの王都まで道案内が出来るという人物を見付けた。
 移動が多いので男性に来てもらった。

「イアンと申します。オクタール商会の専属護衛を勤めてて……」
「もしかして、マジックバッグに入れられていた被害者さん達を運んでいましたか?」

 答えにくそうに、目を逸らして一つ頷いて肯定した。

「護衛隊だったんですね? 呼びつけておいて申し訳ないんですけど、このままアジュールに向かってほしいんです。そこにある……」
「すみません」

 彼はそう答えて、ユウの前に跪く。

「申し開きがございます」
「すみません、懺悔を聞く時間はありません」
「……」

 俯いたまま顔を上げないので、ユウは軽くチョップを食らわせる。

「罪悪感を抱いてくれたのなら、それを少しでも償いたいの思ってくれているのなら、誰かを助けるために走ろうとする君に手を貸してほしい」

 はっとイアンが顔を上げる。
 オリビアは問い質しただけであそこに突っ込まれたのだ。神官達の厚顔さと比べたら、イアンとは信頼度に雲泥の差がある。

 彼らは、神官なのに自分達の神様の名前を使って詐欺を働いているのだ。神の名の元にとほざいて大量殺戮を「許される」と宣ってふんぞり返っている。

「普通に考えて自分の名前を使って犯罪働かれたら腹立ちません? 要は自分の家族の名前を使って犯罪働いてるんですよ。はっ倒したくありません?」
「全くですよ!! ユウ様の仰る通りです!! ライネストはあのような悪い行いを許す子ではありません!!」

 肩の上で、暁がプンプンと怒る。あの子って聞こえたけど聞き流しておく。

「オクタール商会に足元見られて手伝わされたのなら直接伝えて下さい。陛下もいらっしゃいますし、重税強いた挙げ句貴族ばっかり優先しやがってクソ野郎ぐらい言って良いですよ。もう死んでるんですし」
「それをすると、逆に生きている家族が打ち首に……」
「マジただのクソじゃないですか」

 思わず本音が溢れたがイアンを立たせる。それなら偽名使って生まれ故郷もでっちあげてから、事実を告げて激昂するようなら逃げてくれば良い。何なら家族の元に戻って避難でも促してしまえ。

「王太子に一回会いましたけど、脳内お花畑系じゃなくて汚泥と糞尿で出来たドブ沼系のバカでした」
「「ふっ!」」

 ヒュースが言っていた事そのまま言ったらイアンと一緒になってカシスまで吹き出した。近くにいると頭にドブ沼が移ると言ったらラセツも吹き出した。

 ◇◇◇

 イアンが率いる護衛隊メンバーで顕現しているのは三人。ユウの方にはザックという男性に同伴してもらった。

 イアン達はアジュールに向かわせて、ユウはラルフフローへと飛び立った。もちろん、今回のキーパーソンであるラセツは同伴である。

《神子様…》
《出来るだけユウと呼んでほしいんですけど……》
《すみません、神子様。ですが、今だけご容赦下さい》

 体重を感じない飛行の中でザックが神妙な口調で言う。

《お礼を、言わせてほしいのです》
《え?》
《イアンの事です》

 顕現してからもずっと暗い表情だった。それは、あそこに放り込まれる前までずっと浮かべていた暗い表情だった。

 人身売買の人間をマジックバッグで運んでるのを知っていて、それを黙っていたそうだ。ザック達がその事実をイアンから聞いたのは、顕現された昨日が初めてだったという。

《仕事がなかったんでしょう?》
《聞いたんですか?》
《いえ、この国で重税が課せられているのは知っていたので、こんなご時世、だけで働き口を失えなかったんでしょう?》

 たくさんの人が苦しんでいる中、まっすぐ仕事をしている人はいただろう。でも同時に、他国に逃げた人間は山ほどいるはずだ。そしてスラムに行かざる負えない人間も山ほどいただろう。もしかしたら、ラルフフローに奴隷として家族を売りに行った人間もいるかもしれない。

 仲間達に犯罪の片棒を担がせて理不尽に殺されても、結局その選択肢を取らせるような政を強いてきた奴を『悪』だと呼ばないのであれば、彼らを『悪』とは言わせるのは筋違いだ。

《君達が歯を食い縛って必死に生きてた事なんて、絶対知りませんよ。王様》

 しばらくの沈黙の後、彼は並走から少し後ろに下がった。それから乾いた笑い声が念話で聞こえてきた。
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