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36話 『複製』
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闇オークション開催日まであと一週間と二日の朝、イン宿の部屋。
クリス廃嫡作戦は着々と進行中……ーー。
「ひえ」
ラセツの固有スキルに思わず呟いた。「私のスキルは……」とか言い出した彼の両頬を両手でべちんとサンドしてこっちを向かせる。
ユウは半泣きで『掃除』なんてスキルがあるなら『複製』だってありますよねー! と騒いだ。招待状の書き換えと名簿の写しなぞラセツがいれば一瞬で終わった。もう今日のうちに配布だって出来ただろう。
「時間短縮……ーーマジックバッグとかスキルで複製できますかね……」
「え……」
「ユウ様、今は仕方がありません。マジックバッグの複製に挑戦していただきましょう」
「MPとかHP、複製出来ませんかね……」
暁にも沈黙された。
「ただいま戻りました」
ルーナがリアムと共に扉の前に姿を表した。リアム達のような通常の霊魂でも、霊体化は可能だっため、ホープネスを治めている辺境伯の家に教会やラルフフローと繋がっている証拠品になりそうな物はないか探しに行ってもらっていた。極限まで自分達が探した痕跡は残さないように、そして知ったことはこちらの指示があるまで誰にも公開しないよう口止めしておいた。
リアムは元々ここの教会を調査するため潜入していたフェオルディーノ聖王国の騎士だった。鎧を着ていた人達は国王軍側の被害者達だったのだ。だが、バレてしまって血涙石生産地下に仲間達と共に拘束された上で放り込まれたそうだ。最後は体が血涙石になって死亡。
ルーナも彼らが死亡した光景を見ている。次々に体が黒く硬化していく様はまるで、地獄を見ているかのようだった、と。
聖王国側が教会を調査する辺境伯に送っており、協力を要請していたそれをホープネス辺境伯が密告したのだ。ホープネス辺境伯は、教会側からの賄賂を受け取っていたからだ。
しかし、彼らの受けた仕打ちとルーナの目撃情報提供だけでは辺境伯の告発は出来ても教会の暴挙を断罪するまでには至らない。ライネスト教の手によって揉み消され、辺境伯も無罪にされる可能性がある。
だが、ここにいるのはメイドイン異世界の神子である。
「分かりました! ライネスト教の教皇に今回の事件は自分達上層部とは全く関係ないからどうぞお好きにしてくださいって言わせれば良いんですね!」
◇◇◇
ラセツとリアムを連れ、ユウは再び王都に戻ってきた。バッハ達の様子が気になったのだ。するとどうした事か、彼らは招待状の作り直しと名簿の複写にまだ追われていた。
字は知っていてもあまり書かないらしく、書くのは苦手なんだという。きれいに書かなくてはいけない招待状もまだまだだ。
ラセツにまずは顧客名簿を頼んだ。本物に触れ、もう片手はテーブルの上にかざす。多分、無意識だったのだろう。スキルで発動させて現れた時、そっと手を引っ込めた。
それをペラペラ開いたバッハは「すごいです!」と目を輝かせた。
「一文字も間違っていません! しかも、筆跡まで完璧です!」
「すごいですね! これならチラシとか作り放題ですね!」
文字を書き写すのに嫌気が指していた彼らは歓声の雄叫びを上げた。招待状の方もあと三十枚分、名前を書くスペースを空けた状態ですぐに複製されていった。紙の質もそのままらしい。
「あの、一枚だけ実験してもらって良いですか?」
「何でしょうか?」
「招待状の文字だけ、こっちの紙に複製出来ますか?」
「分かりました」
招待状に手を触れ、何も書かれていない紙に手を添える。数十秒後、文字が一瞬で浮かび上がった。
「いかがですか?」
「……すごいね。文字だけもできるんだ。元の字体と完全に同じだよ」
「あっ、そうだ。こっちのアカンサス模様を複製できますか?」
「やってみます」
ぱっと模様が浮かび上がった。繊細な模様も完全に同じだ。
それなら、とポケットに入っていたスマホも頼んでラセツに複製してもらう。それの使い心地は元の物と全く同じだ。
「うんうん、画像もそのままですね!」
目的の画像……苦しげに倒れている人々、さらに霊魂の写真もバッチリ過ぎてマジ胸クソだった。中を覗き見た全員がざあぁっと顔を真っ青にしている。もちろん、幽霊が写っているからである。
更に捲っていくと昔の画像まで完璧だった。ユウが休日に、仕事の帰りがけに撮影した桜の写真が多くある。そして、そういえばそんなの撮ったなという昔の画像まであった。
スマホを十台、置いてあったというマジックバッグも複製してもらう。ユウはマジックバッグの性能を確認がてら一つを受け取る。ポイポイ入れたらスマホがボックスに無事反映されていた。
《神子様。そういえば、歌劇場にやって来た密偵を数人捕縛しました。地下に閉じ込めています》
《それは……急いだ方が良いかもしれませんね。恐らく帰ってこなければ勘づかれたかと思うでしょう》
リアムがそう返答する。幽霊とはいえ霊体であるリアムも付喪神同様、念話が繋がっている。
それならここから別行動だ。リアムは元々聖王国で騎士をしていただけあって、アジュールの場所は知っていた。彼にスマホを七台、二台はここに置き、本体をカシスの写真練習用にユウがもらっていく。
カッヘルの屋敷に向かってユウの名前を言えば通してもらえるだろう。
みんなに使い方を説明して、ラルフフローに向かうと宣言する。案内できる人はいるか尋ねてみると、メリーという女性が買って出てくれた。
《彼女、ラルフフロー側の人間かと。被害者なのに家に帰りたくなさそです。僕達の行動に肯定的ではないのに、いちいち行動をチェックしています》
《分かりました。隙見て捕縛しますね》
クリス廃嫡作戦は着々と進行中……ーー。
「ひえ」
ラセツの固有スキルに思わず呟いた。「私のスキルは……」とか言い出した彼の両頬を両手でべちんとサンドしてこっちを向かせる。
ユウは半泣きで『掃除』なんてスキルがあるなら『複製』だってありますよねー! と騒いだ。招待状の書き換えと名簿の写しなぞラセツがいれば一瞬で終わった。もう今日のうちに配布だって出来ただろう。
「時間短縮……ーーマジックバッグとかスキルで複製できますかね……」
「え……」
「ユウ様、今は仕方がありません。マジックバッグの複製に挑戦していただきましょう」
「MPとかHP、複製出来ませんかね……」
暁にも沈黙された。
「ただいま戻りました」
ルーナがリアムと共に扉の前に姿を表した。リアム達のような通常の霊魂でも、霊体化は可能だっため、ホープネスを治めている辺境伯の家に教会やラルフフローと繋がっている証拠品になりそうな物はないか探しに行ってもらっていた。極限まで自分達が探した痕跡は残さないように、そして知ったことはこちらの指示があるまで誰にも公開しないよう口止めしておいた。
リアムは元々ここの教会を調査するため潜入していたフェオルディーノ聖王国の騎士だった。鎧を着ていた人達は国王軍側の被害者達だったのだ。だが、バレてしまって血涙石生産地下に仲間達と共に拘束された上で放り込まれたそうだ。最後は体が血涙石になって死亡。
ルーナも彼らが死亡した光景を見ている。次々に体が黒く硬化していく様はまるで、地獄を見ているかのようだった、と。
聖王国側が教会を調査する辺境伯に送っており、協力を要請していたそれをホープネス辺境伯が密告したのだ。ホープネス辺境伯は、教会側からの賄賂を受け取っていたからだ。
しかし、彼らの受けた仕打ちとルーナの目撃情報提供だけでは辺境伯の告発は出来ても教会の暴挙を断罪するまでには至らない。ライネスト教の手によって揉み消され、辺境伯も無罪にされる可能性がある。
だが、ここにいるのはメイドイン異世界の神子である。
「分かりました! ライネスト教の教皇に今回の事件は自分達上層部とは全く関係ないからどうぞお好きにしてくださいって言わせれば良いんですね!」
◇◇◇
ラセツとリアムを連れ、ユウは再び王都に戻ってきた。バッハ達の様子が気になったのだ。するとどうした事か、彼らは招待状の作り直しと名簿の複写にまだ追われていた。
字は知っていてもあまり書かないらしく、書くのは苦手なんだという。きれいに書かなくてはいけない招待状もまだまだだ。
ラセツにまずは顧客名簿を頼んだ。本物に触れ、もう片手はテーブルの上にかざす。多分、無意識だったのだろう。スキルで発動させて現れた時、そっと手を引っ込めた。
それをペラペラ開いたバッハは「すごいです!」と目を輝かせた。
「一文字も間違っていません! しかも、筆跡まで完璧です!」
「すごいですね! これならチラシとか作り放題ですね!」
文字を書き写すのに嫌気が指していた彼らは歓声の雄叫びを上げた。招待状の方もあと三十枚分、名前を書くスペースを空けた状態ですぐに複製されていった。紙の質もそのままらしい。
「あの、一枚だけ実験してもらって良いですか?」
「何でしょうか?」
「招待状の文字だけ、こっちの紙に複製出来ますか?」
「分かりました」
招待状に手を触れ、何も書かれていない紙に手を添える。数十秒後、文字が一瞬で浮かび上がった。
「いかがですか?」
「……すごいね。文字だけもできるんだ。元の字体と完全に同じだよ」
「あっ、そうだ。こっちのアカンサス模様を複製できますか?」
「やってみます」
ぱっと模様が浮かび上がった。繊細な模様も完全に同じだ。
それなら、とポケットに入っていたスマホも頼んでラセツに複製してもらう。それの使い心地は元の物と全く同じだ。
「うんうん、画像もそのままですね!」
目的の画像……苦しげに倒れている人々、さらに霊魂の写真もバッチリ過ぎてマジ胸クソだった。中を覗き見た全員がざあぁっと顔を真っ青にしている。もちろん、幽霊が写っているからである。
更に捲っていくと昔の画像まで完璧だった。ユウが休日に、仕事の帰りがけに撮影した桜の写真が多くある。そして、そういえばそんなの撮ったなという昔の画像まであった。
スマホを十台、置いてあったというマジックバッグも複製してもらう。ユウはマジックバッグの性能を確認がてら一つを受け取る。ポイポイ入れたらスマホがボックスに無事反映されていた。
《神子様。そういえば、歌劇場にやって来た密偵を数人捕縛しました。地下に閉じ込めています》
《それは……急いだ方が良いかもしれませんね。恐らく帰ってこなければ勘づかれたかと思うでしょう》
リアムがそう返答する。幽霊とはいえ霊体であるリアムも付喪神同様、念話が繋がっている。
それならここから別行動だ。リアムは元々聖王国で騎士をしていただけあって、アジュールの場所は知っていた。彼にスマホを七台、二台はここに置き、本体をカシスの写真練習用にユウがもらっていく。
カッヘルの屋敷に向かってユウの名前を言えば通してもらえるだろう。
みんなに使い方を説明して、ラルフフローに向かうと宣言する。案内できる人はいるか尋ねてみると、メリーという女性が買って出てくれた。
《彼女、ラルフフロー側の人間かと。被害者なのに家に帰りたくなさそです。僕達の行動に肯定的ではないのに、いちいち行動をチェックしています》
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