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32話 キングスカラー家

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「現在、バッハを主導に犯人一味に成り変わり、急ぎ招待状を書き換えております。配布時間を考えても開催を短縮できても、一週間と三日でしょう」

 キングスカラー家当主、ジェイク・キングスカラーはヒュースの話に目を見開いたまま硬直した。まず第一に我らが初代と全く同じ顔である、肩に小さな黒狐を乗せていた。第二に神子が勇者召喚の儀式で召喚されたが追放。ちなみに黄金色のステータスを見ておきながらクリスがそう言い放ったのだ。そして第三に、彼がもたらした闇オークションの話だ。

「こちらが顧客名簿の一ページ目を写した物です」

 ベラドンナ歌劇場ーー名を『バッハ』と名乗る事にした。レイリーンバッハから取ったものだ。

 渡された顧客名簿の一ページ目に並ぶ各国重鎮の名前、更には彼も知る有名貴族の名前が羅列されてジェイクは目を疑いそうになった。

 バッハが言うには、最初のページにあるのは各国重鎮とオークションの商品を特に大金叩いて落札してくれる貴族の名前だ。名簿には当然、招待状を送るために住所も書かれ、落札する人種もご丁寧に記載されていた。

 激昂する暇はない。クリスのお馬鹿行為にニクソンも加わって戦争おっ始める気の満々。異世界人を召喚したせいでスタンピードが早まり、そしてラルフフローも戦争は国を攻め滅ぼすつもりである。この闇オークションはその戦争を始めるためのトリガーだ。

 開催が二週間後の予定だったということは、各国の各国の王族達に知られるまでに一週間もない。ガブリエルならばもう知らせているだろう。

「ラルフフローは既にガブリエル・キングストンを手中に納め、戦争の準備に取り掛かっております」
「……ガブリエル、様が? どういう事ですか?」
「ガブリエルの偽者は三年前から入れ替わり、今回も教会の増税に王へ提言したのです」

 ジェイクは訝しげに目を細めた。彼もまたガブリエルがそれを申し出す人間ではないと知っていたし、ガブリエル自身も「国王が増税すると聞き入れてもらえなかった」と答えていたからだ。

 ガブリエルは以前から教会に対する税率を下げるよう国王に提言し続けていた。

「何があっても教会側に彼が肩入れしない姿勢なのは、彼の本来の婚約者だったハリエット様をトヴァイアス・べールモロー枢機卿の子息、エヴァンズ・ベールモローに殺害されたからだ」

 それはジェイクも知らない。ヒュースもまた、ジェイク達の若い世代は知らないだろうと断言した。教会側が結託してその証拠を揉み消し。ハリエットの両親や貴族が何家も手を貸してその証拠まで見つけた。

 だが教会の権力にその証拠品は押収され、更には王族からも圧力が掛けられた。
 それからガブリエルは学園に併設されている教会にも通わなくなり、穏やかな瞳の奥に憎悪を燃え上がらせるようになった。

 宰相の地位に就いてからは顕著になった。教会を減らし、抱える聖騎士達の人数を制限するといった様々な施策だ。一時はその政策により経済の動きが良くなった。

 教会側は直訴も却下され、金回りがどんどん悪くなる教会側もガブリエルの存在をはさぞ邪魔だったろう。教会が今回の偽者事件について手を貸した可能性は高い。

「ガブリエルの抱くライネスト教に対する嫌悪感には貴方も気付いていたはずだ。そして、税率の引き下げだけには手を出さない現国王のナイジェル陛下に嫌気が差していた事も」

 だから当初はクリスとの婚約者にエレノアを指名された時に再三断った。しっかりしている子女を選ぶ前にアレの躾に力を入れてくれれば良かったが、クリスを育てているのがラルフフローの王女相手では物も申せない。大国の王族の不興を買えばこの小国がどうなるか。世話係も咎められず、クリスの素行は悪童の一途を辿った。

 歴代王族専門家庭教師を担ってきたキングスカラー家の教育を拒み、話が分かりづらいなどと家庭教師の任を無理矢理解かせた。他の家庭教師が来てもそうやって追い返し、仕舞いにはこんな無意味な事はエレノアがやっていれば良いと言い出す始末。

 学園に通うようになっても勉学に勤しむ事はなく、エレノアの努力の結果である成績の良さに対し「お前が目立ちたがりなんだ」と吐き捨て、キングストン家の虚言を吹聴して回った。最早、名誉毀損で訴えられるレベルである。ガブリエルの偽者もエレノアに成績をわざと下げるよう言ったのだろう。

 エレノアも従わざるおえなかった。授業は受けてもテストの点数も、クリスの成績に合わせて問題を選んだり、授業科目では彼より下の成績になるよう調整しなくてはならなくなった。彼女にとってヒュースウェルでの学園生活は苦痛でしかなくなっただろう。結局、クリスの存在がエレノアを貶めるようになったのだ。

 身分しかないようなクリスでも権力だけはピカ一で、ついに夏期休業に入るその日に集会を開かせ、自分が今まででっち上げていた虚偽発言と真実ですらない戯れ言でエレノアを断罪したのだ。

 それを信じてエレノアを責め立てた生徒も生徒。これを程度が低いと言わずして何と言おうか。これも金にすがり付き、貴族主体の学園カリキュラムなぞ組み上げた学園長にも問題はある。

「もちろん学園長のやっている事を認知しながら放置してきた貴方にも言いたい事は山程あるが、今は神子様が率先して教会とラルフフローが繋がっている証拠を抑えるために邁進して下さっている」

 全ては、とヒュースは言葉を切る。
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