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31話 そして、その親玉は神子

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 買い物と着替えを丁度終えた頃、ハッテルミー達から念話が飛んで来た。
 ユウの傍でグルグルに丸まったまま立っていた絨毯が広がった。それにセレナーディアと一緒に乗って例の歌劇場の屋根へ連れて行かれた。

 前髪で目元を隠している付喪神を顕現させると、中に連れて行かれた。
 そうすれば、驚きの中に「セレナーディア様ぁ!」と数個の絶叫が上がった。彼女はぱっと嬉しそうにしたかとう思うと、泣きながらリヴァイの方へと駆けて行った。久々の再会に彼自身も感涙する。

 それで、ユウはと言うと突然こんな所に連れていかれて仏顔になった。よくもまぁこんなに老若男女差別せず連れて来たものだと呆れ果てた。ただ、やはり女子が多い。

 そして、明らかに和装らしい角の生えた鬼人族を見つけた瞬間に土下座した。ついでにステータスも開いて潔く全員に見せた。

「この度は我ら人間共が申し訳ありませんでしたぁあああーーーー!!」
「「「「「神子様ぁあああ?!」」」」」

 ◇◇◇

 そのあとポツポツ尋ねられたが、すでにクリスの醜聞は広がっていて、とても心配された。今度はこっちが泣きそうになった。こんなに心優しい人達を無下にするから世の中悪くなるのだと強く思う。
 しかし、ユウに一つの疑問が残る。

「巫女様って一体何なんですか?」
「「「「「そこから?!」」」」」

 信じられないものを見るようにヒュースが見つめて肩を掴み、ハッテルミーへ熱い視線を送った。

「あぁ、そういえば。異世界人だから知らないよな」
「異世界人?」
「そう。異世界から勇者召喚で召喚されて、クリス王太子とニクソン大司祭に追放されたんだよ。使えないってさ」
「「「「「大司祭まで!?」」」」」

 そっと敷かれた絨毯の上にユウは乗せられた。突然何があったのかと目を瞬かせる。
 巫女改め、神子の話が始まった。

 ◇◇◇

 神子みこーー聖人とは違い、神が自らの御子みことして定めた存在を指す。彼らは一騎当千の力を誇り、弱小国すら大国を返り討ちにする。その能力は神子と定めた神によって違うが、神は自らのお力をスキル化させて神子に与えるのだ。

 神子と聖人の役割の違いは明確だ。
 聖人は神子を守る役を担い、神子が現れた際には付き従わなくてはならない。

 聖人達の力はあくまでも神の『加護』であるため、相応しくないと判断されればサクッと聖人をクビになる。一方、神子はその地位から外される事がほとんどない。

 そして、神子に何かあれば国が滅ぶ。神子の存在を認知した他国の王が神子を誘拐すると、城が基礎から瓦解して城は崩壊。更に一国だけに局地的な天変地異に見舞われ、人間どころかその他の生物まで生息できない土地になった……。

 ◇◇◇

「え? 何それ、クリスに仕返しする前に国が滅ぶの? 天罰とかお断りなんだけど」

 誰も言わなかったがクリスなんぞに仕返しする事を活動目的としている神子にとても驚きだった。神子の伝説が本当ならもうクリスの方が終わっている。

「ぶん殴った後ならいくらでもどうぞって感じだけど」

 フェオルディーノ聖王国終了のファンファーレが盛大に鳴り響いた瞬間である。

「まぁ、クリスが王太子じゃ無理もないなー」
「召喚されたという事なら、世界の外に溜まっている瘴気も大量に降りてきているだろう。スタンピードの時期が早まるな……」
「今回大規模災害級なんだってさぁ。ラルフフローとの戦争前だしなぁ」
「あっ」

 そこでユウもつい昨日思った事を放り出す。

「思ったんですけど、あのマジックバッグって亜人さん達が入るなら魔物やモンスターも入るのでは?」
「そうですね」
「魔物をマジックバッグに詰めて敵兵団に放牧したら、戦況を引っ掻き回せるのでは?」

 前門のラルフフローと後門のスタンピード問題が解決して一石二鳥。ひっくり返すとまでは行かなくてもギャン騒ぎにはなるだろう。対人間と対魔物では戦闘方法が全く異なる。何なら持ってきている装備品も違うだろう。

 そもそもクリスは手柄を立てて自分の立場を揺るぎないものにしようとラルフフローに戦争ふっかけようと考えている。ユウは戦争とか諸々について何も知らない。「家に帰るまでが遠足」みたいなノリで、戦争の準備を始めているのなら、それはもう戦争の一部だと思っている。

「つまり、戦争をなかった事にすれば王太子サマの面目丸潰れってことですよね? 全力で邪魔してやりましょう!」

 パワハラ上司と同類のクリスには面影が重なって仕方がないユウは今更、死んだ以上奴に何も見返してやれなかった事が悔しいと思った。
 だが、そこにクリス代わりがいる。身勝手に呼び寄せて、身勝手に城から追い出した社長息子の上司と似たパワハラ野郎が。

「なら、こっちも神子特典神様の権力振りかざせば対等ですよね!」

 権力の差に雲泥の差、クズ石と宝石ぐらいの差がある。気付いているが誰も言わない。現在、神子がどんな人なのか見極めているからだった。

「歌劇場様、ここで買った人達は持ち帰る際にマジックバック使ってますよね?」
「えぇ、そうですね」
「なら、そいつらからマジックバッグぶん取れば新しく調達する必要もないですよね。魔物もたっくさん放牧できますね! きっと災害級スタンピードなら敵軍をいっぱい負傷させられますね!」

 もうその事しかこの神子は考えていなかった。何なら邪魔するには名案だと思っている。それは敵軍が悲惨な末路を辿るとは毛ほども思っていないユウは、ふんすと小さな鼻息を漏らして自慢気である。

 大規模災害級のスタンピードはどれだけ兵を集めて準備を万全に整え応戦しても国が半壊するが大規模災害級なのだが、ユウは自分がどれほどのえげつない提案を、あるいはゲスな提案をしているかなぞ知らない。

 それに気づいた彼等も、にこっ!! と微笑んだ。
 自分の仲間達を捕まえて日々を奪い、ペットのように鎖で繋ぐこの凌辱。恨み晴らさずいられるか。ここに非常識な神子を咎める者もまた誰もがいないのである。

 室内に「そりゃ名案だ!」と笑い声が響き渡るまでにそう時間はかからなかった。
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