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28話 付属教会へ飛び降りる付喪神

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「仕方がない……十時まで時間でも潰そう……」

 たった今、ユウを起こしに行ったヒュースはショボーンと俯いた。すぐにでもキングスカラー家に行きたいが昼の十時ぐらいまで待たないといけなくなってしまった。

 ヒュースがユウへ「おはよう! 朝だ!」と突撃かましたのが朝の四時。人間はほとんどがおねむの時間である。ユウの言っている事は至極まっとうだが、昼夜ずっと起きてるヒュースにはその時間に行ってはいけないのか分からない。

 何故なら、不正行為を働く人間が夜中やこの時間によく押し掛けてくるからである。緊急事態なのだからもう行って良いはずだと思ったのだ。

 仕方がない、と呟いたヒュースに、元気なハッテルミーが快活に声を掛けた。

「それじゃあ、教会が血涙石を量産してないか探しに行こうぜ!」
「血涙石? どうしたんだ?」

 ハッテルミーは昨日の呪い騒ぎの件を教える。数えてみても十個以上出てきた。まとめ買いだろうが少しずつ買っていようが、そんなに買っていれば足が付いてしまうだろう。

「なら、生き物捕まえてどこかで量産してるんじゃないかって結論になったんだ」

 似顔絵に擬態していた巨大な血涙石は、ハッテルミーにも成人男性の背中に見えた。ナイジェルの持っていた血涙石も遠巻きながら踵らしい丸みを帯びているように見えた。

 そうなると、買うのはリスクが高い。安全性を上げるためには隠れた場所で生物を血涙石に変えて量産するのが効率的で安上がり。事実、過去に人間や動物を利用して血涙石を大量に作り、売り捌いていた事件もあった。

「ライネスト教会の……そういえばこの前、神官の子息が貴族相手に異端審問にかけてやると言っていたな」

 フェオルディーノ聖王国で異端審問は認められていない。それは二人も承知している。フィーも知っていれば教えてくれただろう。

「そんじゃあ、まずは城の敷地内にある付属教会に行ってみるか!」
「そうだ。血涙石の呪力はマジックバッグで防げるんだったな」

 ヒュースが掌を上へ向けると、大きな巾着袋が現れた。
 これはかつて、キングスカラー家初代が試作したマジックバッグの原型プロトタイプだ。

 マジックバッグはキングスカラー家の初代・ミルディンが発明したものだったが、アッサリ利権を売り払った。お陰で世界中で使われるようになったのだ。

 念のため中に何か入ってないか放り出すとバラバラ色々落ちてきた。その中には昔の硬貨も無造作に突っ込まれていたようで、バラバラと落ちて転がる。
 その数秒後には、宝の山が出来上がった。

 ◇◇◇

 少しして、ハッテルミーが下方を指差す。王城敷地内に立つ白い建物。大聖堂や基本的な教会よりも小さいが聖堂があって、地下もある付属教会だ。

 ハッテルミーは絨毯をその真上に付けた。そして、説明しておいた霊体化をしてから屋根目掛けて飛び降りる。視界が一気に真上へ駆け上がっていく。青い屋根に飛び込み、聖堂を付き抜け、更に地下一階の天井から床、地下二階の天井から床、と降りていく。

 最後、ハッテルミー達は薄ぼんやりしている部屋で落下が止まった。これより下は土のようだ。二人は辺りを見回しながら、

「え? あの人魚……」
「ん? あの子は……」

 二人はほぼ同時に、それぞれ別の人物へ名前を呼ぶ。

「セレナーディア・アトランティス第四王女?!」
「リナリー・フェオルディーノ第二王妃、では……?」

 セレナーディアはぱっと音源へ振り向くと、二人は姿を表した。ハッテルミーはセレナーディアの方へ、ヒュースはリナリーの元へ、名前を呼んだ方へと駆けて行き……ーー。

 ◇◇◇

「わあぁ! お空! お空です!! 広ぉーい!」
「だよなぁ!  俺も初めて見た時感動した!」

 セレナーディア、無事保護。

 絨毯の上で、朝日がまだ頭を半分しか出ていないその光景を眺めて、セレナーディアはとてもはしゃいでいた。

 彼女は不可侵海域の外からよく陸を眺めていた所を友人達と共に捕まってしまったそうで、最初は不信人物だと警戒していたセレナーディアも、ハッテルミーの説得に絆された。

 自分が陸を見に行ったりなんかしたから、と嘆いていた彼女は今、憧れの陸の世界に大興奮。
 ハッテルミーも顕現した当初と全く同じ気持ちだったためだろう、すぐに意気投合したのだ。

 その際、宝の山の中にあった変身薬を飲ませてセレナーディアは人間の姿になっており、ついでにヒュースはリナリーが眠っていた氷をマジックバッグに入れて持ち出した。

 そして、ユウは未だに丸くなって眠っている。

「ユウ様! 朝日すっごいきれいだぞ!」
「う……」

 布団に包まれた状態でユウはぼんやりと太陽を眺める。きれいだね、と返答して、またウトウトとする。まだおねむなんだなと頭を撫でれば「あか、つきぃ……」と言い残して寝息を立てた。

「「あかつき?」」
「シンオウ国の言葉で、夜明けの事を指す。博識な方だな」
「そっかぁ。今が丁度、その『あかつき』なんだなぁ」
「きれいね、あかつき!」

 二人は顔を見合わせて笑う。

「よし、次は大聖堂だな!」
「だいせいどう? どんな所なの?」
「神を祭り、祈る場所だ。私も初めて見る」
「祭壇のある場所?」
「あぁ。その認識で間違いないな。大聖堂というのはーー」
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