上 下
27 / 93

25話 人魚姫

しおりを挟む
 ここに来た目的は一つ。人身売買の人達が入った写真を撮影し、証拠として抑えておきたかった。このままだとクリスの廃嫡もままならないが、この戦争が発生したら敗退濃厚。人身売買される彼等が更に劣悪な環境に入るのではないかと懸念したのだ。

 扉を固めていた騎士の内一人の案内でロイに引き合わせてもらう。
 応接間にいたロイが「ユウ様!」と駆けて来ればすぐに入れてもらえた。

 魔法とスキルを親和させて浄化機能付きの回復魔法を使った事は控えて、血涙石の回収を終えた事、エレノアが回復と浄化を全てやってくれた事を連絡しに来た、という事にする。

「あの、例のマジックバッグはありますか?」
「はい。まだ屋敷で保管してありますが……」

 一度王都に戻るつもりだと話せば夜も遅いしこの屋敷に泊まってからの方が良いんじゃないかという、当然のように善良なご配慮を頂いた。それをハッテルミーが上手く断ってくれた。

 ユウはスマホを取り出し、画像が残せるという説明をフォルダーに残っていた写真を見せながら説明すれば、ロイがマジックバッグを取りに行ってくれた。

 彼はすぐに戻って来るとマーサを伴って戻っていた。ユウ達が出る前に、どうしてもまたお礼が言いたかったという。彼女はユウ達に夜食を作ってくれるためすぐ退出した。本当にそれだけが目的だったようだ。

 ユウはマジックバッグの全体像、バッグを開いて魔素粒子の画面そ撮影していく。魔力が撮れるのか心配ではあったが、ちゃんと画像として保存されたので今度は全員分の長押し説明を一つ一つ撮っていく。

 最後に青い髪の女性を長押しする。
 表示された中身は人魚族。セレナーディア・アトランティス第四王女と書いてあった。

 つまり、人魚族のお姫様である。

「「「!!!」」」

 ユウは口をぎゅっとすぼめて硬直。真っ青な顔になりながら画面の表示を食い入るように確認するロイとハッテルミーの顔は、この世の終わりを見ているようだった。

「す、すみませ……これは私の確認ミスです……!」ロイ。
「ご、ゴタゴタしてたし、仕方ない仕方ない。てか、お城様も五人見て全部見るの止めたし!」ハッテルミー。
(全部見たって、言ってたのに!)
「ま、ままま、まずいですよね? お姫様だけは海に帰して来た方が良いですよね?」

 人魚族は海洋生物を同じ生態だ。時々海面に顔を出して酸素を吸いにくることはあるが、長時間水中に漬けない状態でいると衰弱してしまう。

 ロイは彼女の耳を指す。人魚の耳は本来、魚のヒレのような形状になっている。これは変身薬を使われて人間の姿にされているからだ。水の中は彼女達人魚の領分。入りさえすれば逃げ切れる。つまり、逃げられないよう一時的に人間の姿にされているのだ。

 人魚としての価値を出すためには人魚に戻す必要がある。だが、ブレンディの運んでいた積荷の中には変身を解くような解除薬の類はなかった。つまり、

「会場が王都にある……!」ロイは呟く。
《いやそうだろうよ》
《口に出さなくて偉いぞ!》

 その変身はエレノアのスキルや浄化の類であれば元に戻せるそうだが、犯人側がどんな情報網を敷いているか分からない。事前に伝えられているのにセレナーディアだけ助けてしまうと犯人達に逃げられてしまうかもしれない。

「ですが、人魚族の姫が捕らえられている事実が彼等に知られたら、海に面しているこの国はどうなりますか?」

 海を領分としている彼等は津波を起こせる。つまり、港町のような国であるフェオルディーノ聖王国が怒りを買えば海に飲まれて終わる。日本は地震大国。津波は超怖い。

 前門のラルフフロー、後門のスタンピードどころではない。左門に人魚族、右門には国民の四方完全封鎖状態である。

 大昔から人魚達を無理矢理連れて行った歴史があるため、王が土下座で謝罪しただけでは済まないのは目に見えている。

 非人道的な行いに奮起した人魚達は領海戦争を起こし激しい攻撃の末に海域を人魚達の領土として認めさせた。地図ではラルフフローの領海(概念があるかは分からないが)のほぼ全域が人魚達の不可侵海域になっている。範囲外はあるが、フェオルディーノ聖王国に比べたらずっと小さい。

 例え漁師達に悪意がなくとも、これまでの歴史の中で警戒させるだけの仕打ちをして来た証である。その余波も受けて仕方がないという事だ。

 そういった経緯で、ラルフフローは内陸ではないにも関わらず海産物が採れない国となっていた。

 突然、「あっ!」とハッテルミーが腕を組む。

「なぁ。人魚の姫様わざわざ拐ったの、今回の戦争関連じゃないか?」

 フェオルディーノは海岸沿いを伸びている国だ。ラルフフローにとって海戦に強い人魚族との同盟ほど心強いものはない。報復と称して戦争に参加させるつもりではないかーー。

「戦争?! なっ、どういう事ですか?!」

 ロイは声をひっくり返した。
 驚くのも無理はない話である。何せ、その首謀者はクリスというこの国の糞王太子である。

「その戦争をするためだけに異世界人を召喚したんですよ。何も隠しません、私が被害者です」

 瞬間、ロイのこめかみにビキィッ! と青筋が浮かんだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:3,335

先読み神子の嫁入り

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:293

【完】男装暗殺者は神子様を落としたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:7

猫被り姫は今日も臣民達からの信頼を集める

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:77

【完結】一途な恋? いえ、婚約破棄待ちです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:333pt お気に入り:5,251

【完結】王太子の側妃となりました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:589pt お気に入り:6,030

【完結】婚約破棄で私は自由になる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:553pt お気に入り:234

処理中です...