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閑話 王太子の悩み
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夕刻・フェオルディーノ王城ーー。
「まったく、あの家畜共め、何が不満だと言うんだ!」
クリスは今はナイジェルがいないのを良いことに、執務机に拳を振り下ろした。
召喚した者達が昼食を取った後に言う事を聞かなくなったのだ。元の世界に帰せと訴える勇者職業の青年はそれはもう殴るわ蹴るわで教団の聖騎士達も手が付けられず返り討ちにされる始末。それからは王城の部屋の一角に閉じ篭って、今日の訓練に出てこなかったのだ。
クリスの傍らには見目麗しいその女性が心配そうに彼を見下ろしていた。一本一本が黒曜石で出来たような黒髪を長く伸ばし、鳶色の瞳を伏せた。
「何か、理由があるのかもしれません。モンスターも出ないような国で生きていた人間や、戦ったことなどないという者もいました。私が理由を伺って参りますわ。クリス様はどうぞ、お休みください」
「しかし、連中の訓練は急務だ。あいつらが何もしないままでは……!」
ナイジェルはニクソンが準備した呪いで城を離れている。母のフレデリカは突然現れたドラゴンの討伐に騎士団と数人の魔法師達だけを向かわせ、宮廷魔法師達をほとんどを残してくれた。そのお陰で、国王達には内密に勇者召喚を成功させることができた。
「そう言えば、あの方はまだお目覚めにはなっていないのですか?」
「あの方? どいつの事だ?」
「召喚時、瀕死状態で召喚された方です」
「……何だ、あの無能か」
「無能?」
クリスはステータスを出現させた情景がありありと伝わるように詳しく語って聞かせた。アホ面だった男のこと、説明をしたらころっと騙されたこと。
「しかし、アイツのステータスには何も書いてなくてなぁ! 職業はあったがそれ以外は何も記載されていなかったのだ!」
「珍しいですわね。ステータス画面は何色だったのですか?」
「金色だ! 何の属性も持っていなかったのさ!」
自慢気に語るクリスに彼女は顔をそっと両手で覆った。だが、それも一瞬だった。彼女はきれいな顔をうっすらと笑ませていた。
「まぁ! ハズレが召喚されることなんてあったのですね?」
「ははっ! 全くもってその通りだ! サラの魔力を無駄に使わせてしまった。本当にすまない」
「……構いませんわ、クリス様。私はこのようなことしかできません。それで一人の命が救われたのですから」
「あぁ、サラ。お前は本当に優しいことは美徳だが、それでは甘い。有能な者は無能を切り捨てる非情さも必要になってくる……ーー」
クリスは語って聞かせる。
今まだ周りにいた人間はクリスの話を認めようとしなかった。高貴な人間にはそれなりの矜持や持論がある。しかし、聞けば皆は嗜め、そんな考えは改めるよう言って話を聞かない奴ばかり。
クリスは父親は現国王、母は大国の王女だ。しかし、二番目は庶子の女。他は皆、クリスの格下。クリスとは高貴さが違う。全ての国民は王族の言う事をを聞かなければならないのは当然の事だった。
「それなのに、ガブリエルを含めた『キングス』の連中は特にそうだ! エレノアなんて自分が目立つ事しか考えていない! 私がいちいち言わなくては男を立てるという事も出来ない本っっ当に無能な女だ!」
「……大変だったのですね、クリス様」
サラは目を細めて、愛おしそうにクリスを見つめた。話の合間、コクリ、コクリと頷いて相槌を打った。
「まったく、あの家畜共め、何が不満だと言うんだ!」
クリスは今はナイジェルがいないのを良いことに、執務机に拳を振り下ろした。
召喚した者達が昼食を取った後に言う事を聞かなくなったのだ。元の世界に帰せと訴える勇者職業の青年はそれはもう殴るわ蹴るわで教団の聖騎士達も手が付けられず返り討ちにされる始末。それからは王城の部屋の一角に閉じ篭って、今日の訓練に出てこなかったのだ。
クリスの傍らには見目麗しいその女性が心配そうに彼を見下ろしていた。一本一本が黒曜石で出来たような黒髪を長く伸ばし、鳶色の瞳を伏せた。
「何か、理由があるのかもしれません。モンスターも出ないような国で生きていた人間や、戦ったことなどないという者もいました。私が理由を伺って参りますわ。クリス様はどうぞ、お休みください」
「しかし、連中の訓練は急務だ。あいつらが何もしないままでは……!」
ナイジェルはニクソンが準備した呪いで城を離れている。母のフレデリカは突然現れたドラゴンの討伐に騎士団と数人の魔法師達だけを向かわせ、宮廷魔法師達をほとんどを残してくれた。そのお陰で、国王達には内密に勇者召喚を成功させることができた。
「そう言えば、あの方はまだお目覚めにはなっていないのですか?」
「あの方? どいつの事だ?」
「召喚時、瀕死状態で召喚された方です」
「……何だ、あの無能か」
「無能?」
クリスはステータスを出現させた情景がありありと伝わるように詳しく語って聞かせた。アホ面だった男のこと、説明をしたらころっと騙されたこと。
「しかし、アイツのステータスには何も書いてなくてなぁ! 職業はあったがそれ以外は何も記載されていなかったのだ!」
「珍しいですわね。ステータス画面は何色だったのですか?」
「金色だ! 何の属性も持っていなかったのさ!」
自慢気に語るクリスに彼女は顔をそっと両手で覆った。だが、それも一瞬だった。彼女はきれいな顔をうっすらと笑ませていた。
「まぁ! ハズレが召喚されることなんてあったのですね?」
「ははっ! 全くもってその通りだ! サラの魔力を無駄に使わせてしまった。本当にすまない」
「……構いませんわ、クリス様。私はこのようなことしかできません。それで一人の命が救われたのですから」
「あぁ、サラ。お前は本当に優しいことは美徳だが、それでは甘い。有能な者は無能を切り捨てる非情さも必要になってくる……ーー」
クリスは語って聞かせる。
今まだ周りにいた人間はクリスの話を認めようとしなかった。高貴な人間にはそれなりの矜持や持論がある。しかし、聞けば皆は嗜め、そんな考えは改めるよう言って話を聞かない奴ばかり。
クリスは父親は現国王、母は大国の王女だ。しかし、二番目は庶子の女。他は皆、クリスの格下。クリスとは高貴さが違う。全ての国民は王族の言う事をを聞かなければならないのは当然の事だった。
「それなのに、ガブリエルを含めた『キングス』の連中は特にそうだ! エレノアなんて自分が目立つ事しか考えていない! 私がいちいち言わなくては男を立てるという事も出来ない本っっ当に無能な女だ!」
「……大変だったのですね、クリス様」
サラは目を細めて、愛おしそうにクリスを見つめた。話の合間、コクリ、コクリと頷いて相槌を打った。
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