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24話 フェオルディーノ聖王国が抱えている問題

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 連絡を終えてフィーは部屋を見回す。呪いを抱えて体調不良の隊員や魔法師達しかいない。

「……うん?」

 既に連絡を終えていたデスク達がやって来てキョロキョロしているフィーに「どうしたの?」と声を掛ける。

「アヤツはどうした?」
「ハッテルミー? お城様と一緒に入って行ったわよね?」
「ああ。それなのにおらんのじゃ」
「おい」

 黒髪を揺らしながら首を忙しなくあちこちに動かすマサシゲは眉根を寄せた。

「ユウ様はどうした? トイレの灯かり着いてないぞ」
「んん?!」
《神子様、今どこにいるの?》

 しかし、あの可愛らしい子供の声は返ってこなかった。ハッテルミーにも呼びかけたが返事はない。
 エルメラはニコっと笑う。

「これは逃げられたわね」
「にげ?!」
「え……」

 後ろで待っていたエレノアが呆然としたように目をまん丸に見開く。
 その様子に、からからと笑いながら「エレノア様のせいじゃないわ」とエルメラはおばさんのように腕をひらりと振った。

「ほら、このまま残っていたらこの事件の捜査に付き合わされるでしょう? 戦争を始めるつもりのクリスを放置する事になるわ。だから、その前にアイツをふんじばるために馬鹿やった証拠を見つけてこようと思ってるのよ。エレノア様のためもあるけど、一番はユウ様が手酷く仕返ししたいの。多分、廃嫡にまで追い込みたいのよ」

 エルメラはユウの考えている事をまるっと全てお見通しの上で、近所のおばちゃんのノリで暴露した。
 ただ一つ、間違っているとすれば……ーー。

 ◇◇◇

 オン・ザ・絨毯。カッヘルの邸宅へUターン中。

「へ? え?」ユウは目をぱちくり
「え? そのために先行するつもりだったんじゃないのか?」ハッテルミーも目をぱちくり。

 ついさっき伸びた腕はハッテルミーのもので、サクッと絨毯に乗せられるとそのままカッヘル邸宅へ発進した。正直言ってメッチャビックリした。

 さて、ユウはクリスがそんな大それた事が出来るような人間じゃないと思っていたため戦争を始めるつもりと言い出したのを聞いて「え? マジで?」の状態である。

「マジで赤の他人異世界人の力だけで戦争しようと思ってたんですか?」
「え? そうだぞ? エルメラさんも言ってただろう? 『この程度で陣頭指揮を執ろうなんて、返り討ちが目に見えるわね』って」

 ユウは無言で顔を覆った。そういえばそんな事を言っていたのを完全に思い出したからである。丁度クリスが馬鹿だとインプットされる直前だったからよく覚えていた。

「平和を守るのは大変なのに……」
「それが分かるほど利口な奴だと思ったか? 残念だったなぁ?」

 ハッテルミーの毒舌はユウのおつむの足りなさを指摘しているのではなく、クリスを大層馬鹿にしている言葉だった。

「でも、裏で手を引いているのはラルフフローの連中だから、近々本当に始まるぞ。誰もアイツになんか期待してないし、フレデリカもラルフフローが落としてくれると思ってるしな。まぁ、クリスはただの飾りだ」
「飾り」
「本気で戦争しようと思ってるのはクリスだけだな。もう負けてるような国だし、勝てる見込みはないからなー」
「もう負けてるような国?」
「あぁうん。財政破綻手前なんだよ」
「ざ?!」

 フェオルディーノ聖王国のお話。
 現在、重税を課している小国である。地図で言えば、上にバルツァール山脈、ランシェルの森と海に押し潰されているような細長い国だ。海の幸陸の幸に恵まれた国だが、エヴァンハルト帝国とラルフフロー王国に挟まれている芋虫のようなちっぽけな国である。

 その重税の四割も占めているのが国教・ライネスト教会への寄付金。聖王国は宗教国家だ。ついこの前、その寄付金分が増税された。
 何故なにゆえかと言えば、この国の国防の約八割が教会の聖騎士団が担っていると言って過言ではないからだと、

「偽者のガブリエルがな。ライネスト教会はラルフフローと以前から癒着してるみたいだから、偽者もラルフフローからのお客様って訳だ」

 もう五十年以上もラルフフローから多額の支援金を受け取って国を回してる状態だった。日本のように負債が溜まりまくっているのだ。ただし、国内個人ではなく外国の、という。そんな所に教会の寄付金のために増税した。国民の不満が爆発して当たり前というぐらい鬱憤が溜まっているだろう。

「でも、宰相の提案だけで増税したわけではないでしょう? こんな状況で何で増税したんですか?」
「いや、ガブリエルが言ったかららしいぞ? 相手を丸め込む力説付きだったってよ」
「……」

 頭が痛くなった気がして顔を覆う。ぴえん、とだけは言っておいた。

 前門のラルフフロー、後門のスタンピードに国民の不満爆弾も着火寸前。フィーは抵抗するだろうがナイジェルはもうやる気がないだろうとカラカラと笑っていれば、カッヘルの屋敷が見えてきた。降りるのも嫌になってくる。

「負けたり降伏した場合、クリスって……」
「当然、ラルフフロー現王の娘の息子だから、王太子の座は奪われても生活は保障されてるだろう。少ししか痛くないな」

 つまり、ユウには腹が立つ状況でしかないという事である。
 降りたくないなぁというユウの考えを機敏に読み取ったハッテルミーはその場所で浮いたままでいてくれたが降りてもらう。

 クリスが戦争を起こす事なんて当然頭になかったが、ラルフフローから戦争を挑んでくる事もまるで想定していなかった。

 つまり、エレノアが危険になったのだ。
 治癒魔法師は数が少ない。浄化が同時行使できる治癒魔法師なんていないと言われるほど難易度だ。

(このままじゃ、クリス廃嫡作戦が……それに……)

 そう思いながらユウは明かりの灯った館を見下ろした。
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