26 / 93
24話 フェオルディーノ聖王国が抱えている問題
しおりを挟む
連絡を終えてフィーは部屋を見回す。呪いを抱えて体調不良の隊員や魔法師達しかいない。
「……うん?」
既に連絡を終えていたデスク達がやって来てキョロキョロしているフィーに「どうしたの?」と声を掛ける。
「アヤツはどうした?」
「ハッテルミー? お城様と一緒に入って行ったわよね?」
「ああ。それなのにおらんのじゃ」
「おい」
黒髪を揺らしながら首を忙しなくあちこちに動かすマサシゲは眉根を寄せた。
「ユウ様はどうした? トイレの灯かり着いてないぞ」
「んん?!」
《神子様、今どこにいるの?》
しかし、あの可愛らしい子供の声は返ってこなかった。ハッテルミーにも呼びかけたが返事はない。
エルメラはニコっと笑う。
「これは逃げられたわね」
「にげ?!」
「え……」
後ろで待っていたエレノアが呆然としたように目をまん丸に見開く。
その様子に、からからと笑いながら「エレノア様のせいじゃないわ」とエルメラはおばさんのように腕をひらりと振った。
「ほら、このまま残っていたらこの事件の捜査に付き合わされるでしょう? 戦争を始めるつもりのクリスを放置する事になるわ。だから、その前にアイツをふんじばるために馬鹿やった証拠を見つけてこようと思ってるのよ。エレノア様のためもあるけど、一番はユウ様が手酷く仕返ししたいの。多分、廃嫡にまで追い込みたいのよ」
エルメラはユウの考えている事をまるっと全てお見通しの上で、近所のおばちゃんのノリで暴露した。
ただ一つ、間違っているとすれば……ーー。
◇◇◇
オン・ザ・絨毯。カッヘルの邸宅へUターン中。
「へ? え?」ユウは目をぱちくり
「え? そのために先行するつもりだったんじゃないのか?」ハッテルミーも目をぱちくり。
ついさっき伸びた腕はハッテルミーのもので、サクッと絨毯に乗せられるとそのままカッヘル邸宅へ発進した。正直言ってメッチャビックリした。
さて、ユウはクリスがそんな大それた事が出来るような人間じゃないと思っていたため戦争を始めるつもりと言い出したのを聞いて「え? マジで?」の状態である。
「マジで赤の他人の力だけで戦争しようと思ってたんですか?」
「え? そうだぞ? エルメラさんも言ってただろう? 『この程度で陣頭指揮を執ろうなんて、返り討ちが目に見えるわね』って」
ユウは無言で顔を覆った。そういえばそんな事を言っていたのを完全に思い出したからである。丁度クリスが馬鹿だとインプットされる直前だったからよく覚えていた。
「平和を守るのは大変なのに……」
「それが分かるほど利口な奴だと思ったか? 残念だったなぁ?」
ハッテルミーの毒舌はユウのおつむの足りなさを指摘しているのではなく、クリスを大層馬鹿にしている言葉だった。
「でも、裏で手を引いているのはラルフフローの連中だから、近々本当に始まるぞ。誰もアイツになんか期待してないし、フレデリカもラルフフローが落としてくれると思ってるしな。まぁ、クリスはただの飾りだ」
「飾り」
「本気で戦争しようと思ってるのはクリスだけだな。もう負けてるような国だし、勝てる見込みはないからなー」
「もう負けてるような国?」
「あぁうん。財政破綻手前なんだよ」
「ざ?!」
フェオルディーノ聖王国のお話。
現在、重税を課している小国である。地図で言えば、上にバルツァール山脈、ランシェルの森と海に押し潰されているような細長い国だ。海の幸陸の幸に恵まれた国だが、エヴァンハルト帝国とラルフフロー王国に挟まれている芋虫のようなちっぽけな国である。
その重税の四割も占めているのが国教・ライネスト教会への寄付金。聖王国は宗教国家だ。ついこの前、その寄付金分が増税された。
何故かと言えば、この国の国防の約八割が教会の聖騎士団が担っていると言って過言ではないからだと、
「偽者のガブリエルがな。ライネスト教会はラルフフローと以前から癒着してるみたいだから、偽者もラルフフローからのお客様って訳だ」
もう五十年以上もラルフフローから多額の支援金を受け取って国を回してる状態だった。日本のように負債が溜まりまくっているのだ。ただし、国内個人ではなく外国の、という。そんな所に教会の寄付金のために増税した。国民の不満が爆発して当たり前というぐらい鬱憤が溜まっているだろう。
「でも、宰相の提案だけで増税したわけではないでしょう? こんな状況で何で増税したんですか?」
「いや、ガブリエルが言ったかららしいぞ? 相手を丸め込む力説付きだったってよ」
「……」
頭が痛くなった気がして顔を覆う。ぴえん、とだけは言っておいた。
前門のラルフフロー、後門のスタンピードに国民の不満爆弾も着火寸前。フィーは抵抗するだろうがナイジェルはもうやる気がないだろうとカラカラと笑っていれば、カッヘルの屋敷が見えてきた。降りるのも嫌になってくる。
「負けたり降伏した場合、クリスって……」
「当然、ラルフフロー現王の娘の息子だから、王太子の座は奪われても生活は保障されてるだろう。少ししか痛くないな」
つまり、ユウには腹が立つ状況でしかないという事である。
降りたくないなぁというユウの考えを機敏に読み取ったハッテルミーはその場所で浮いたままでいてくれたが降りてもらう。
クリスが戦争を起こす事なんて当然頭になかったが、ラルフフローから戦争を挑んでくる事もまるで想定していなかった。
つまり、エレノアが危険になったのだ。
治癒魔法師は数が少ない。浄化が同時行使できる治癒魔法師なんていないと言われるほど難易度だ。
(このままじゃ、クリス廃嫡作戦が……それに……)
そう思いながらユウは明かりの灯った館を見下ろした。
「……うん?」
既に連絡を終えていたデスク達がやって来てキョロキョロしているフィーに「どうしたの?」と声を掛ける。
「アヤツはどうした?」
「ハッテルミー? お城様と一緒に入って行ったわよね?」
「ああ。それなのにおらんのじゃ」
「おい」
黒髪を揺らしながら首を忙しなくあちこちに動かすマサシゲは眉根を寄せた。
「ユウ様はどうした? トイレの灯かり着いてないぞ」
「んん?!」
《神子様、今どこにいるの?》
しかし、あの可愛らしい子供の声は返ってこなかった。ハッテルミーにも呼びかけたが返事はない。
エルメラはニコっと笑う。
「これは逃げられたわね」
「にげ?!」
「え……」
後ろで待っていたエレノアが呆然としたように目をまん丸に見開く。
その様子に、からからと笑いながら「エレノア様のせいじゃないわ」とエルメラはおばさんのように腕をひらりと振った。
「ほら、このまま残っていたらこの事件の捜査に付き合わされるでしょう? 戦争を始めるつもりのクリスを放置する事になるわ。だから、その前にアイツをふんじばるために馬鹿やった証拠を見つけてこようと思ってるのよ。エレノア様のためもあるけど、一番はユウ様が手酷く仕返ししたいの。多分、廃嫡にまで追い込みたいのよ」
エルメラはユウの考えている事をまるっと全てお見通しの上で、近所のおばちゃんのノリで暴露した。
ただ一つ、間違っているとすれば……ーー。
◇◇◇
オン・ザ・絨毯。カッヘルの邸宅へUターン中。
「へ? え?」ユウは目をぱちくり
「え? そのために先行するつもりだったんじゃないのか?」ハッテルミーも目をぱちくり。
ついさっき伸びた腕はハッテルミーのもので、サクッと絨毯に乗せられるとそのままカッヘル邸宅へ発進した。正直言ってメッチャビックリした。
さて、ユウはクリスがそんな大それた事が出来るような人間じゃないと思っていたため戦争を始めるつもりと言い出したのを聞いて「え? マジで?」の状態である。
「マジで赤の他人の力だけで戦争しようと思ってたんですか?」
「え? そうだぞ? エルメラさんも言ってただろう? 『この程度で陣頭指揮を執ろうなんて、返り討ちが目に見えるわね』って」
ユウは無言で顔を覆った。そういえばそんな事を言っていたのを完全に思い出したからである。丁度クリスが馬鹿だとインプットされる直前だったからよく覚えていた。
「平和を守るのは大変なのに……」
「それが分かるほど利口な奴だと思ったか? 残念だったなぁ?」
ハッテルミーの毒舌はユウのおつむの足りなさを指摘しているのではなく、クリスを大層馬鹿にしている言葉だった。
「でも、裏で手を引いているのはラルフフローの連中だから、近々本当に始まるぞ。誰もアイツになんか期待してないし、フレデリカもラルフフローが落としてくれると思ってるしな。まぁ、クリスはただの飾りだ」
「飾り」
「本気で戦争しようと思ってるのはクリスだけだな。もう負けてるような国だし、勝てる見込みはないからなー」
「もう負けてるような国?」
「あぁうん。財政破綻手前なんだよ」
「ざ?!」
フェオルディーノ聖王国のお話。
現在、重税を課している小国である。地図で言えば、上にバルツァール山脈、ランシェルの森と海に押し潰されているような細長い国だ。海の幸陸の幸に恵まれた国だが、エヴァンハルト帝国とラルフフロー王国に挟まれている芋虫のようなちっぽけな国である。
その重税の四割も占めているのが国教・ライネスト教会への寄付金。聖王国は宗教国家だ。ついこの前、その寄付金分が増税された。
何故かと言えば、この国の国防の約八割が教会の聖騎士団が担っていると言って過言ではないからだと、
「偽者のガブリエルがな。ライネスト教会はラルフフローと以前から癒着してるみたいだから、偽者もラルフフローからのお客様って訳だ」
もう五十年以上もラルフフローから多額の支援金を受け取って国を回してる状態だった。日本のように負債が溜まりまくっているのだ。ただし、国内個人ではなく外国の、という。そんな所に教会の寄付金のために増税した。国民の不満が爆発して当たり前というぐらい鬱憤が溜まっているだろう。
「でも、宰相の提案だけで増税したわけではないでしょう? こんな状況で何で増税したんですか?」
「いや、ガブリエルが言ったかららしいぞ? 相手を丸め込む力説付きだったってよ」
「……」
頭が痛くなった気がして顔を覆う。ぴえん、とだけは言っておいた。
前門のラルフフロー、後門のスタンピードに国民の不満爆弾も着火寸前。フィーは抵抗するだろうがナイジェルはもうやる気がないだろうとカラカラと笑っていれば、カッヘルの屋敷が見えてきた。降りるのも嫌になってくる。
「負けたり降伏した場合、クリスって……」
「当然、ラルフフロー現王の娘の息子だから、王太子の座は奪われても生活は保障されてるだろう。少ししか痛くないな」
つまり、ユウには腹が立つ状況でしかないという事である。
降りたくないなぁというユウの考えを機敏に読み取ったハッテルミーはその場所で浮いたままでいてくれたが降りてもらう。
クリスが戦争を起こす事なんて当然頭になかったが、ラルフフローから戦争を挑んでくる事もまるで想定していなかった。
つまり、エレノアが危険になったのだ。
治癒魔法師は数が少ない。浄化が同時行使できる治癒魔法師なんていないと言われるほど難易度だ。
(このままじゃ、クリス廃嫡作戦が……それに……)
そう思いながらユウは明かりの灯った館を見下ろした。
10
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)
朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】
バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。
それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。
ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。
ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――!
天下無敵の色事師ジャスミン。
新米神官パーム。
傭兵ヒース。
ダリア傭兵団団長シュダ。
銀の死神ゼラ。
復讐者アザレア。
…………
様々な人物が、徐々に絡まり、収束する……
壮大(?)なハイファンタジー!
*表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます!
・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる