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23話 スキルと魔法の親和
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「やります!」
間髪入れず公爵令嬢は先程と同様の言葉を答えた。
肩を掴んだままのマサシゲの手をそっと包んで引き剥がす。
「確かに私は経験が浅く、でしゃばっているような状況です。心配しかかけられません。それでも今、私にやれる事が出来たんです! だからどうか、最後まで、出来るところまでやらせて下さい! お願いします!!」
応接間にいつの間にか入ってきていたガブリエルが、後ろからエレノアに青いポーションを差し出す。
「ご心配をお掛けして申し訳ありません、マサシゲ様。ですが孫のわがままを叶えて頂けませんか? ーーようやく、前に進めそうなのです」
マサシゲは、眉根を寄せて目を伏せる。
《危険な局面で倒れてもおかしくないほど重症を負ったオウカが一度でも足を止めたか? アリアンロッド様は魔力が枯渇しても立ち上がったぞ》
何事も無理をして越えているのではいくら命があっても足りないが、しかし今は無理をしてでも越えねばならない時だとフィーは言う。
《エレノア様の敵は不良品の大型粗大ゴミとはいえ次期国王の王太子じゃ。ラルフフローの第一王女にして第一王妃の息子という血統書付きじゃ。この程度ではあの女がエレノア様の功績を揉み消す。何ならよりを戻させて、クリスの功績と言い始めるぞ》
エレノアとは念話を一時的に遮断しているそう。黒狐は超優秀だった。血統書付きのお馬鹿様には出来ない芸当である。
フィーは次いでエルメラに尋ねる。
《人間の氷結状態は状態異常に入るか?》
《氷結? 肉体が完全に凍ってるなら入るわよ》
《ならば、やはりエレノア様にはこのまま頑張ってもらわねばならぬ。マサシゲ、ナイジェルに期待はするな。あれはこの国の王ではない。ラルフフローに尻尾を振っているアホ犬じゃ。フレデリカがクリスの功績にしろと騒げば「そういう事にしてくれ」と頼んでくるカスじゃぞ》
《いやホントただのカスじゃん》
《二代揃って駄犬。クリスが穏和になっただけなのがナイジェルじゃ》
それは確かにカスだと脳内に強く刷り込まれるようにインプット出来る絶妙な例えである。オブラートに包んでいるように見せかけてクソ野郎という情報を確実に落としている。
「分かりました」
「……! ありがとうございます、マサシゲ様!」
「さぁ、エレノア。もうひと踏ん張りだ」
エレノアにMP回復ポーションを渡して、ガブリエルは心配層ながら笑って見せた。何気に上級の回復ポーションである。
「大丈夫、エレノアなら出来るよ。お前は昔から、優しくて強い子だったからね」
優しくそう語りかけてガブリエルが頭を撫でる。仲睦まじい家族そのものだ。
(……そうか。別に、記憶は同じなんだもんなぁ)
《ガブリエルの事ですか? それは、どうかされましたか?》
こっちの話、とユウはしまっていたスマホを取り出して、ポーションを飲み干したエレノアにマジックバッグを差し出す。
「私からもお願いします、エレノア様」
「……ありがとうございます、ユウ様」
マジックバッグを血涙石が入っている受け取って彼女は微笑んだ。
◇◇◇
動けそうな人は応接間に集まってもらった大半が騎士だが、ローブを纏っている魔法師の姿も伺えた。彼等には一カ所に集まってもらってもらう。
エレノアは全員がその入るよう、脳内に刷り込まれた範囲回復の魔法陣を思い浮かべる。
彼らの足元から、青色をした癒しの光が溢れ出す。ユラユラと無数のオーブが舞う。
「ここでスキルを使います」
スキルを魔法に溶かして広げていくようにーースキルを溶かすという意味すらユウにはさっぱりだった。
だが、エレノアは違ったようだ。青い魔法陣はすぅっと白く色を変わったのだ。
「上手くスキルと魔法が親和すると、こうやって色が変わります。治癒魔法系は白ですね。さぁ、試してみてください!」
黒狐はぴょんとユウの頭の上に着地して、肩へ降りてくる。
フェニックスも、エレノアの後ろ姿をじっと見つめていた。
エレノアは「皆様、いきます」と一声掛けてから、魔力の光が溢れた。光が応接間を満たしていく。エレノアに使ってもらう浄化とはまた違い、清浄さの中に温かさがあった。
「ヒーリング・サークル!」
エレノアの銀髪がキラキラきらめきながら揺れる。
魔法陣から光が立ち昇った。ユウが顕現させた時とは違って真っ直ぐ上へ伸びた。
中に立ち、魔法陣を見回していた彼らは、おぉ、と驚いたように声を上げた。黒い模様は溶けるように消えていく。
白い魔法陣が消えれば、彼らの体内に残っていた呪力が放つ嫌な感じも消えていた。
彼らは互いに、模様が消えている事を確認しあい、何かしらの体調不良も驚きながらも喜び合った。
「大成功ですね」
「はい! できました!」
エレノアはすぐ後ろに待機していたマサシゲへと振り向く。
「……えぇ。さすがでございます、エレノア様」
マサシゲの赤い瞳がゆるりと笑んだ。
すぐにエレノアは囲まれていく。近くにいたマサシゲも纏めてだ。ガヤガヤとすげぇすげぇ! と大騒ぎ。中には「あの王太子を助けたっていう聖女様よりすごいですよ!」と、はしゃぐ隊員までいる。
「……何か安心したらおトイレ行きたくなりました。行ってきますね」
「あぁ、妾達は他の部屋の者達に言って回って来ようかのう!」
エレノアとマサシゲを残して部屋を出ていく。
ユウは別れて真っ暗なトイレに。
すっかり夜になってしまったトイレは薄明かるい。真正面の小さな窓か、ら外の灯りが入り込んでいるようだ。
ユウはそっと飛行の文字を使って窓まで飛び上がると鍵を開ける。
「何をなさっているんですか?」
「ん? 逃げるんだよ」
「うにゅ? 何故ですか?」
「何でってそりゃあ、あれだけじゃあクリスには仕返しできないんでしょう?」窓を開け放つ。
この呪い騒ぎの調査や人身売買の件もあるし、国王陛下はフィーも認めるカス野郎だと言っている。婚約破棄の件はクリスが横暴を働いた結果だと確信している。だがそれもカス野郎が上では有耶無耶にされてしまうかもしれない。
それではユウの腹の虫がおさまらないのである。
小さな窓も十歳児の体はするっと抜けられた。足音を立てずゆっくり着地する。
「さぁ、行きましょう。クリスが王太子として相応しくない証拠を集めにーー」
次の瞬間、ユウは伸びてきた手に口を塞がれた。
間髪入れず公爵令嬢は先程と同様の言葉を答えた。
肩を掴んだままのマサシゲの手をそっと包んで引き剥がす。
「確かに私は経験が浅く、でしゃばっているような状況です。心配しかかけられません。それでも今、私にやれる事が出来たんです! だからどうか、最後まで、出来るところまでやらせて下さい! お願いします!!」
応接間にいつの間にか入ってきていたガブリエルが、後ろからエレノアに青いポーションを差し出す。
「ご心配をお掛けして申し訳ありません、マサシゲ様。ですが孫のわがままを叶えて頂けませんか? ーーようやく、前に進めそうなのです」
マサシゲは、眉根を寄せて目を伏せる。
《危険な局面で倒れてもおかしくないほど重症を負ったオウカが一度でも足を止めたか? アリアンロッド様は魔力が枯渇しても立ち上がったぞ》
何事も無理をして越えているのではいくら命があっても足りないが、しかし今は無理をしてでも越えねばならない時だとフィーは言う。
《エレノア様の敵は不良品の大型粗大ゴミとはいえ次期国王の王太子じゃ。ラルフフローの第一王女にして第一王妃の息子という血統書付きじゃ。この程度ではあの女がエレノア様の功績を揉み消す。何ならよりを戻させて、クリスの功績と言い始めるぞ》
エレノアとは念話を一時的に遮断しているそう。黒狐は超優秀だった。血統書付きのお馬鹿様には出来ない芸当である。
フィーは次いでエルメラに尋ねる。
《人間の氷結状態は状態異常に入るか?》
《氷結? 肉体が完全に凍ってるなら入るわよ》
《ならば、やはりエレノア様にはこのまま頑張ってもらわねばならぬ。マサシゲ、ナイジェルに期待はするな。あれはこの国の王ではない。ラルフフローに尻尾を振っているアホ犬じゃ。フレデリカがクリスの功績にしろと騒げば「そういう事にしてくれ」と頼んでくるカスじゃぞ》
《いやホントただのカスじゃん》
《二代揃って駄犬。クリスが穏和になっただけなのがナイジェルじゃ》
それは確かにカスだと脳内に強く刷り込まれるようにインプット出来る絶妙な例えである。オブラートに包んでいるように見せかけてクソ野郎という情報を確実に落としている。
「分かりました」
「……! ありがとうございます、マサシゲ様!」
「さぁ、エレノア。もうひと踏ん張りだ」
エレノアにMP回復ポーションを渡して、ガブリエルは心配層ながら笑って見せた。何気に上級の回復ポーションである。
「大丈夫、エレノアなら出来るよ。お前は昔から、優しくて強い子だったからね」
優しくそう語りかけてガブリエルが頭を撫でる。仲睦まじい家族そのものだ。
(……そうか。別に、記憶は同じなんだもんなぁ)
《ガブリエルの事ですか? それは、どうかされましたか?》
こっちの話、とユウはしまっていたスマホを取り出して、ポーションを飲み干したエレノアにマジックバッグを差し出す。
「私からもお願いします、エレノア様」
「……ありがとうございます、ユウ様」
マジックバッグを血涙石が入っている受け取って彼女は微笑んだ。
◇◇◇
動けそうな人は応接間に集まってもらった大半が騎士だが、ローブを纏っている魔法師の姿も伺えた。彼等には一カ所に集まってもらってもらう。
エレノアは全員がその入るよう、脳内に刷り込まれた範囲回復の魔法陣を思い浮かべる。
彼らの足元から、青色をした癒しの光が溢れ出す。ユラユラと無数のオーブが舞う。
「ここでスキルを使います」
スキルを魔法に溶かして広げていくようにーースキルを溶かすという意味すらユウにはさっぱりだった。
だが、エレノアは違ったようだ。青い魔法陣はすぅっと白く色を変わったのだ。
「上手くスキルと魔法が親和すると、こうやって色が変わります。治癒魔法系は白ですね。さぁ、試してみてください!」
黒狐はぴょんとユウの頭の上に着地して、肩へ降りてくる。
フェニックスも、エレノアの後ろ姿をじっと見つめていた。
エレノアは「皆様、いきます」と一声掛けてから、魔力の光が溢れた。光が応接間を満たしていく。エレノアに使ってもらう浄化とはまた違い、清浄さの中に温かさがあった。
「ヒーリング・サークル!」
エレノアの銀髪がキラキラきらめきながら揺れる。
魔法陣から光が立ち昇った。ユウが顕現させた時とは違って真っ直ぐ上へ伸びた。
中に立ち、魔法陣を見回していた彼らは、おぉ、と驚いたように声を上げた。黒い模様は溶けるように消えていく。
白い魔法陣が消えれば、彼らの体内に残っていた呪力が放つ嫌な感じも消えていた。
彼らは互いに、模様が消えている事を確認しあい、何かしらの体調不良も驚きながらも喜び合った。
「大成功ですね」
「はい! できました!」
エレノアはすぐ後ろに待機していたマサシゲへと振り向く。
「……えぇ。さすがでございます、エレノア様」
マサシゲの赤い瞳がゆるりと笑んだ。
すぐにエレノアは囲まれていく。近くにいたマサシゲも纏めてだ。ガヤガヤとすげぇすげぇ! と大騒ぎ。中には「あの王太子を助けたっていう聖女様よりすごいですよ!」と、はしゃぐ隊員までいる。
「……何か安心したらおトイレ行きたくなりました。行ってきますね」
「あぁ、妾達は他の部屋の者達に言って回って来ようかのう!」
エレノアとマサシゲを残して部屋を出ていく。
ユウは別れて真っ暗なトイレに。
すっかり夜になってしまったトイレは薄明かるい。真正面の小さな窓か、ら外の灯りが入り込んでいるようだ。
ユウはそっと飛行の文字を使って窓まで飛び上がると鍵を開ける。
「何をなさっているんですか?」
「ん? 逃げるんだよ」
「うにゅ? 何故ですか?」
「何でってそりゃあ、あれだけじゃあクリスには仕返しできないんでしょう?」窓を開け放つ。
この呪い騒ぎの調査や人身売買の件もあるし、国王陛下はフィーも認めるカス野郎だと言っている。婚約破棄の件はクリスが横暴を働いた結果だと確信している。だがそれもカス野郎が上では有耶無耶にされてしまうかもしれない。
それではユウの腹の虫がおさまらないのである。
小さな窓も十歳児の体はするっと抜けられた。足音を立てずゆっくり着地する。
「さぁ、行きましょう。クリスが王太子として相応しくない証拠を集めにーー」
次の瞬間、ユウは伸びてきた手に口を塞がれた。
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