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22話 回復と浄化

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 それからは早かった。ユウはマジックバッグへ片っ端に、フィーは見えていた範囲を浮かんでいる絨毯にポイポイと乗せていく。合流すれば全てマジックバッグに詰め込み、再確認のため屋敷を回る。どうやら城の外で仕掛けられたようで一階に二つほど出てきた。二階は無事に回収う出来ていた。

 ユウはその途中で黒い模様の写真を許可を得てスマホで撮影した。そう、こちらもマジックバッグ同様存在を忘れ去られていたが入っていたのである。

 そしてエレノアは二階の団員や魔法師を回復させていく。浄化は造作もない作業だった。これはスキルが補助として働いているからだ。
 しかし、今のエレノアでは治癒魔法を一人ずつにしかかけられず、二階の十一人が終わった頃にはもうヘトヘトだった。

 フラついたところでマサシゲに支えられる。

「エレノア様、ご無理はなさらず」
《そろそろ限界だ。一階は神子様にーー》
《ま! まだ大丈夫ですマサシゲ様! まだやれます!》
《エレノア様。それでは魔力枯渇で倒れてしまいます。後は我々にお任せを……》

 階段を下りる手前でエレノアは立ち上がる。

「まだやれます!」
「エレノア様!」

 一人で降りようとするエレノアをマサシゲは抱きかかえた。
 そこに、ユウから念話が飛んでくる。

 ◇◇◇

《やらせてあげなよ。エレノア様は頑張りたいんだし》
「すみません、体力回復用のポーションしかなく……」

 応接間にて差し出された赤い液体の入った小瓶を数個受け取る。これは寝たきりだったヴィンセントに残していた上級ポーション一つと中級ポーション二つ。

 ヴィンセントは団員達を優先させ、自分は体力に自信はあるからとポーションには手を付けず、魔法師の治癒魔法に任せていた。しかし彼等も倒れて一週間……つい二日前に倒れた。

 あれだけの大きさの血涙石で回復薬もなしに一週間も持ち堪えたのはエルメラも舌を巻いた。普通の人間なら回復薬がなくなったら三日も経たずに死んでいる。

 ハッテルミーは明るいノリでMP回復ポーションを買いに行かせているガブリエルをせっついてくるぜと部屋を出て行った。マサシゲから「無理をさせんなって言ってんだよ!!」と一喝が飛んで来た。

 しかし、念話からは「やれますぅーう!!」エレノアの可愛らしい虚勢が聞こえてくる。

《一先ず休憩ですね、エレノア様、ポーションがくるまではゆっくりして下さい。もう
皆さんにもご連絡してありますか》
《ミコサマ、ちょっと表出て待ってろ。すぐ行く》
《やだなぁ、こわいなぁ》棒読み。
《おーい! 戻ったぜー!》
《え? 今行ってきたばかりでは?》

 ガブリエルは馬車ではなく馬に直に乗って駆けて行ったためだ。確か、裸馬に乗るのは大変だと聞いたのだが。それとも馬具を着けたのか。

《エレノア、範囲回復魔法の情報はほしいですか?》

 教えていただけるんですか?! とエレノアの口から飛び出す。そうすれば黒狐がぴょこんと肩から頭に乗った。そのままじっとしていてくださいねと言って秒。

「完了しましたよ」
「えっ?」
「スキルには個々の得意分野とはある程度の親和性が高いです。今教えた範囲回復魔法にスキルを付加して行ってみましょう」

 マサシゲがエレノアの頭に乗ったままの黒狐をつまみ上げた。

「先程からエレノア様には無理をさせないようにと申し上げているのですが?」
「? 本来なら治癒魔法と浄化魔法を比べたら、浄化魔法の方が大変ですよね?」
「そうよ。普通はそう……あら?」

 するとエルメラは目をぱちぱちさせているエレノアを見る。

「エレノア様、さっきから浄化魔法も使ってるわよね? 今、魔力はどれぐらい残ってるの?」
「いえ、浄化の方はみこーーユウ様から助言を頂いてスキルでやっています。だから、ほとんどが治癒魔法に……」

 エレノアはステータスを開く。
 五千強だった魔力量は、三桁にまで減り五百以下になっていた。 
 しかし、エルメラから見てそれはおかしい事だった。

 黒狐の言う通り、本来なら浄化魔法の方が難しく魔力の消費量も多い。治癒魔法だけが使える魔法師は多々いても、同時に浄化魔法まで使える魔法師は更に数が少ない。

 治癒魔法と言っても体を癒して体力を回復させる回復魔法と、状態異常の回復魔法を一緒くたにして考えている単純な人間が多い。平民も然りだが貴族にだって山ほどいるだろう。

 しかし、本来はその二つの魔法は二千年も前から別物であった。

 毒や麻痺、眠り、呪いなどの様々な状態異常を取り払う魔法陣は形が全て違う。ポーションで例えれば、解毒剤は数種類あるし、一時的に状態異常に耐性を与えるポーションも各状態異常別にある。

 全状態異常に対応するポーションも開発されてはいるが、一本金貨五百枚以上はする。
 魔法では『パーフェ・キュア』呼ばれる全状態異常を解除する魔法は、最上級治癒魔法師でも覚えるのは至難。魔力も膨大な量を使用する。

 そして、様々な呪いに対応する解呪専用浄化魔法は各状態の中でも難易度は断トツで一位である。そのため、その他状態異常を浄化する専用魔法より難解でありエルメラの時代は数年おきに形が加わり変わって、上級魔法に匹敵していた。

 だから、体力回復魔法と状態異常回復魔法は別なのが普通。『浄化』スキルを持っている聖人でも回復魔法に付加させるという話は聞いたことがなかった。

 組み合わせた物はあるにはあるが、使いこなせる治癒師は神々の加護を受ける聖人達以外に、エルメラはアリアンロッド以外に聞いた事はなかった。

 それをスキルで可能にできるという事は、もはやエレノアは聖女に等しい力を有しているという事だ。それも、アリアンロッドのような伝説級の聖女である。

「あのっ……」

 立ち上がろうとした彼女をソファーにマサシゲは引き戻す。

「いえ、先程から無理を強いるような事をさせなで頂きたいのですが?」
「では、エレノアに決めてもらった方が良いでしょう」

 頭の上の、黒狐は言う。
 マサシゲの言う通り、精神的にも体力的にも疲れている。それなら無理をせず他の方に任せるか。
 倒れても自分がどれだけ出来るのか試すのか。

「どちらにしますか?」

 問いが、空気を叩いた。 
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