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21話 擬態能力

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 ちょうど戻ってきた二人へバートンは大慌てで説明を始めた。しかし、半信半疑のご様子で中への案内については眉根を寄せて渋った。危ない事を心配しているようだ。

「私なら大丈夫です。やらせてください!」
「セクメンダー一等兵。私達で先に重傷者の方へご案内を頼みます」

 呪物の擬態を解いた所を見せれば二人も信用するでしょうとエレノアに言う。二人は制服のジャケットのワッペンだと言い残し、マサシゲにエレノアをつけてそれ以外がバートンと共に。

 二階へ上がり右の最奥へ。先程浄化してもらったばかりだが、呪力が強いのか鉄錆びの臭いが強まっていく。それでもナイジェルの部屋を最初に訪れた時より断然良い。こんな屋敷の端にまでエレノアの空間浄化は行き届いている。

 扉が開かれる。ぶわっと暴風のように血の臭いに眉をしかめながら入る。壁際に寄せられたベッドに誰かが横になっていたが、ユウの目はその傍に置かれているローチェストの上に惹きつけられた。紫の炎が業火のように燃え上がっているのだ。

《ヴィンセント・ベルセルク。我が城の第一騎士団団長じゃ》

 いつの間にかバートンがベッドに近寄っていた。深紅の髪がベッドに散らばり胸が苦しげに上下している。紅の隙間から顔に黒い模様が見えた。

 ユウは慌ててローチェストに駆け寄る。水差しが乗っている横に、セミロングの緩やかなウェーブを垂らしている若い女性の似顔絵のようだった。腰から上までの線画だ。

「あっ。それは、団長の大事な物で……」
「それがすり替えられているのです」
「え?! で、でも、それは団長がいつも肌身離さず持っているお母様の似顔絵です!」

 外から聞こえてきた足音が扉を開けた。こちらです、と青いジャケットを着た騎士がエレノアを中へ促した。胸元からはワッペンが消えていた。
 一礼もする間もなくエレノアはユウの手元にあるモノに目に行ったのだろう、ひっ、と小さく悲鳴を上げて口元を抑えた。

「大丈夫です、姫」
「……」

 こくこくと頷いて、ユウの方へ足早に駆けてくる。
 多分大きいから床に置いた。それに向かってエレノアも膝を突いて両手をかざせば、すぐにそれは解ける。

 ごと、と傾いて。

「「「え」」」騎士達が呟く。

 その血涙石の大きさに唖然となった。一瞬のうちに、綿がぎっしり詰まった高級座布団の大きさになった赤黒い血涙石が、元に戻ると同時にエレノアの膝に押されて傾いた。

(……成人男性……)

 ユウには首と腕の付け根から切り取られ、
 固まっているエレノアをマサシゲがささっと横抱きにする形で回収する。

 一応浄化は効くそうだが、これだけの大きさでは一日もあればまた呪力を持ってしまう。血涙石の対処法は光属性の魔法で浄化しながら木っ端微塵にするしかない。

「そうなんですか……」とユウは今まで持ち運んでいたショルダーバッグの口を開く。そう、一応ずっと持っていた。自分でも持っているのを忘れそうなぐらいずっと肩に掛けていたそれを手前に持って来て。

「マジックバッグの中に入れておいても外に呪力が漏れ出したり……」
「しませんよ!」
「よぉし、入れようぜ!」

「いや~! にしてもデカイなぁ~!」とハッテルミーは血涙石を持ち上げ、ユウは上から鞄の口を上から被せる形で回収する。

「陛下のは小粒の石、ブーツの金具に四角い紙ですか。すごい能力ですね」
「関心してる場合か」
「そうですか? 城壁の外に大砲とその弾を大量に、それも花に擬態させていたら誰も気が付かないのでは?」

 靴を履く形で、大事な私物として彼等も持ち運べているのと同義だ。しかし、この世界には大砲はないらしくて首を傾げられた。

「タイホウって……城壁を壊せる大型武器なのかしら? それなら怖いわねぇ」
「あぁ、なるほど。剣とか槍とかの武器も果物の形に変えたりしてマジックバッグに入れておけば、大量に運べる上に関所通過も余裕、人に売り渡す形で拡散も楽だよな? 反乱起こしたい時には持って来いだな!」

 ハッテルミーの例え話の方が的確にユウの考えを汲み取っていた。お陰で意味がマサシゲ他騎士達、エレもアもさぁっと顔を青くした。ちなみにクロードは「おや、それは大変ですね」と他人事のように言う。

「エレノア様、私達は血涙石の回収を優先します。エレノア様は被害者達の浄化と回復を、マサシゲは引き続き彼女に付いて下さいーー」

 ユウには重傷者の多い二階をマジックバッグで回収するように、一階はフィーがハッテルミーの絨毯を使って集めておく。エルメラとクロードはユウの補助にとフィーはテキパキと指示を出していく。

 そうと決まれば騎士達の案内で屋敷を駆け抜ける。階段を飛び降りていくフィー、そして階段とか面倒と言わんばかりにハッテルミーはさっさと手摺を越えていった。「なっ!? そっちの方が楽しそうではないか!」と空気が読めていない発言は気にしないことにした。

 ◇◇◇

「……あ、あの……マサシゲ様……!」

 エレノアは震える体に喉が引きつらせながらようやく訴えた。
 抱きかかえたままのマサシゲは「いかがしましたか」。何故そうも平然としているのか、エレノアは再び体が沸騰するような恥ずかしさに見舞われ、顔を覆っていた。

「ぉ……おろしてくださいまし……!」
「あっ。すみません、嫌でしたよね」
「いえ、っ、そ、そのぉっ……!」

 降ろされながら「軽すぎませんか」と言われて体がピクリと跳ねる。食事はちゃんと摂っているのか、無理はしてないかと上から掛けられるマサシゲの言葉にエレノアはずっとクラクラしっぱなしである。

 大丈夫ですと勢いに任せて返答したが、再び心配されて今度こそ「もう大丈夫です!」とハッキリ返す。

 すると、ベッドの上でもぞりとヴィンセントが身じろいだ。
 エレノアは目敏く気付くと、彼に向かって先ずは治癒魔法を、それからスキルを使って呪力を消し去っていく。

「もう、大丈夫ですから……!」

 ヴィンセントの赤い瞳がエレノアをぼんやりながら捉えた。だがそれもたった数秒。朦朧とした意識の中、銀色の少女が見えただけで意識を手放した。

 その呼吸は先程までの苦しそうなものではなく、穏やかな寝息に変わってい。
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