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20話 血涙石
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屋敷は紫色の禍々しいオーラに包まれていた。圧倒的な威圧感がユウを襲っている。夜の帳が下りてきている事も手伝って、人間を飲み込むお化け屋敷だ。
酷い臭いが酷すぎて呼吸をするだけで鼻の粘膜も喉も焼かれ、目がかゆくなる。周辺の草にまで力が及んでいるのか萎れている。血涙石の呪力には驚かされるばかりだ。
だが、ここを乗り切れば……ーー。
「……行きましょうか」
「はい、ユウ様」
《こちらもよろしいですか?》
《は、はい!》
黒狐を中継地点に、エレノアにも念話を繋げてもらった。
ガブリエルは馬車でポーション類を買いに行かせる。そのためフィー達を伴って屋敷へと近付いていく。
《大丈夫です。フィー様の指示に従えば早急に対処できますよ》
《ですが、それでは神子様達の……》
ユウ達の功績を取る事になるのが心苦しい様子である。ユウがクリスへの腹いせに元婚約者であるエレノアが活躍したという事実を周囲に植え付けたいのだ。
もちろん、腹いせの話は伏せているが、あの王太子ならもらっていくだろうに。
エレノアは可哀想だが婚約破棄していただいて心底良かったと確信している。糞馬鹿王子では不釣り合いすぎる。
エルメラとハッテルミーの助言がエレノアの背を押す。
この件が解決すればエレノアへの支援要請が出てくるはすだ。フィーの指示は答え合わせみたいなものになるし、取りこぼしてもユウの目でカバーできる。
《何より、実践した方が成長するしな!》
《……ありがとうございます》
ハッテルミーの励ましに、エレノアははにかみながら頷いた。
ユウとしては糞王太子にザマァご覧遊ばせいただきたいので、エレノアには前面に出ていただかなくては。
ユウが屋敷の扉を開く。血生臭さが鼻腔をぶん殴ってきた。建物の中すら紫色のフィルターが厚めにかかって上手く認識できない。
だがそこに、片腕がちょっと黒くなっている上半身半裸の男性が一人現れる。ユウ達を見て目をまん丸にすると、逃げるように今来た部屋へ戻っていった。
「腕に浮かんでいましたね……」
「わ、私としたことが……! 殿方の素肌を見てしまうなんて……!」
顔を真っ赤にして手で覆うエレノア。貴族令嬢に必須な純潔さのうんたらかんたらなんだろうか思いつつ、まずさっきの陛下の部屋でしたように呪力の気を吹き飛ばしてもらう。
エレノアが目を閉じ、指を組む。自分の魔力を意識しながらその下準備を始めたところで「女の子来てる! お前等服を着ろ!!」「はぁ? こんな所にぃ?」「いや来る訳ねぇだろ~幻覚だ幻覚」と、忠告した男性の後に否定した二人が顔を出し、ぎょっと目をまん丸にして引っ込んでいった。
ミイラ取りがミイラになってしまったため、これ以上の被害を防ぐため給仕係りも配置できず、動ける人間達で色々やってもらっている状態だ。できるだけ接触も控える事になっていたので食べ物も週二、三回箱で持って来て配給される、極限までの接触を控えている。
が、人が来ない上、誰にも会わないからと自由にしちゃっていたようである。フィーも第一部隊の騎士達ともあろう者が弛んでおると言いながら嬉しそうだ。彼らが元気そうだからだろう。
僅かながらにエレノアから清涼感が漂ってきた。その頃にはワイシャツだけを羽織った隊員三人が顔を出してきた。暑いのか全員腕捲りしている。
エレノアは凛と蒼天の瞳を開いた。すると体に青白い光が発露して、一瞬の内に屋敷の廊下を疾走する。すぐに屋敷の部屋を満たし、さらには階段を駆け上がると二階にも、隅々にまで行き渡る。その光が瞬く間に屋敷全体を包んでしまった。
「……すごい」ユウは感嘆を漏らす。中に入るのもキツかった空気や臭いが跡形もなく消え去り空気がおいしいとすら感じる。
何よりきれいになり過ぎているお陰で、この屋敷に呪物の気配が感じ取れた。二階の最奥が一番強い。
顔を出していた騎士達が足早にこちらへ駆け寄ってきたーーその彼等の内一人、緑の髪の男性から紫色のオーラが登っていた。
「えっと、貴方達は……」
「おい!」と小声で尋ねてきた騎士に肘鉄を食らわせる。
「すみません。キングストン家のご令嬢とお見受けします。今のは、一体……」
「血涙石が皆さんの私物に紛れ込んでいる可能性が浮上しております。その調査のために案内してもらってもよろしいですか?」
「「「えっ?!」」」
ゾロゾロ入っていく。最後に入ってきたフィーを見て更に三人は「アリアンロッド様?!」と声を荒げた。それに「ただのソックリさんじゃ」と返答すと、フィーは緑髪の騎士バートン・クレメンダーに屋敷の案内を指名した。他の二人は他の隊員にも連絡してきますと散ってっ行った。
その間に念話でバートンが血涙石を持っているとヒントを出しておく。
すると、エレノアの視線は下へ。
《足元から感じます……左のブーツの、上部、でしょうか?》
ほぼほぼ正解だ。左足のブーツ上部に施されているベルトのバックルから紫色が昇っている。
「あの、靴を脱いでいただいても……」
「あぇ?!」
「今は血涙石の捜索と解呪が急務ですからそのまま触って下さっても大丈夫ですよ」
エレノアが了承すれは安堵したようにバートンは眉尻を下げた。そりゃあ貴族のご令嬢に臭うブーツを渡すのは嫌だろう。バートンはグッジョブとユウへ視線を送ってきている。
エレノアが手をかざしてすぐ、あの赤黒い石がゴトッと落ちてきた。こっちはナイジェルのとは違い小玉葱ぐらいの大きさだ。
バートンはぎょっとして地団太を踏むように数歩後退した。「えっ!? えぇ!!?」とブーツを見やる。ベルトのバックルが無くなり、ダラリと垂れていた。
酷い臭いが酷すぎて呼吸をするだけで鼻の粘膜も喉も焼かれ、目がかゆくなる。周辺の草にまで力が及んでいるのか萎れている。血涙石の呪力には驚かされるばかりだ。
だが、ここを乗り切れば……ーー。
「……行きましょうか」
「はい、ユウ様」
《こちらもよろしいですか?》
《は、はい!》
黒狐を中継地点に、エレノアにも念話を繋げてもらった。
ガブリエルは馬車でポーション類を買いに行かせる。そのためフィー達を伴って屋敷へと近付いていく。
《大丈夫です。フィー様の指示に従えば早急に対処できますよ》
《ですが、それでは神子様達の……》
ユウ達の功績を取る事になるのが心苦しい様子である。ユウがクリスへの腹いせに元婚約者であるエレノアが活躍したという事実を周囲に植え付けたいのだ。
もちろん、腹いせの話は伏せているが、あの王太子ならもらっていくだろうに。
エレノアは可哀想だが婚約破棄していただいて心底良かったと確信している。糞馬鹿王子では不釣り合いすぎる。
エルメラとハッテルミーの助言がエレノアの背を押す。
この件が解決すればエレノアへの支援要請が出てくるはすだ。フィーの指示は答え合わせみたいなものになるし、取りこぼしてもユウの目でカバーできる。
《何より、実践した方が成長するしな!》
《……ありがとうございます》
ハッテルミーの励ましに、エレノアははにかみながら頷いた。
ユウとしては糞王太子にザマァご覧遊ばせいただきたいので、エレノアには前面に出ていただかなくては。
ユウが屋敷の扉を開く。血生臭さが鼻腔をぶん殴ってきた。建物の中すら紫色のフィルターが厚めにかかって上手く認識できない。
だがそこに、片腕がちょっと黒くなっている上半身半裸の男性が一人現れる。ユウ達を見て目をまん丸にすると、逃げるように今来た部屋へ戻っていった。
「腕に浮かんでいましたね……」
「わ、私としたことが……! 殿方の素肌を見てしまうなんて……!」
顔を真っ赤にして手で覆うエレノア。貴族令嬢に必須な純潔さのうんたらかんたらなんだろうか思いつつ、まずさっきの陛下の部屋でしたように呪力の気を吹き飛ばしてもらう。
エレノアが目を閉じ、指を組む。自分の魔力を意識しながらその下準備を始めたところで「女の子来てる! お前等服を着ろ!!」「はぁ? こんな所にぃ?」「いや来る訳ねぇだろ~幻覚だ幻覚」と、忠告した男性の後に否定した二人が顔を出し、ぎょっと目をまん丸にして引っ込んでいった。
ミイラ取りがミイラになってしまったため、これ以上の被害を防ぐため給仕係りも配置できず、動ける人間達で色々やってもらっている状態だ。できるだけ接触も控える事になっていたので食べ物も週二、三回箱で持って来て配給される、極限までの接触を控えている。
が、人が来ない上、誰にも会わないからと自由にしちゃっていたようである。フィーも第一部隊の騎士達ともあろう者が弛んでおると言いながら嬉しそうだ。彼らが元気そうだからだろう。
僅かながらにエレノアから清涼感が漂ってきた。その頃にはワイシャツだけを羽織った隊員三人が顔を出してきた。暑いのか全員腕捲りしている。
エレノアは凛と蒼天の瞳を開いた。すると体に青白い光が発露して、一瞬の内に屋敷の廊下を疾走する。すぐに屋敷の部屋を満たし、さらには階段を駆け上がると二階にも、隅々にまで行き渡る。その光が瞬く間に屋敷全体を包んでしまった。
「……すごい」ユウは感嘆を漏らす。中に入るのもキツかった空気や臭いが跡形もなく消え去り空気がおいしいとすら感じる。
何よりきれいになり過ぎているお陰で、この屋敷に呪物の気配が感じ取れた。二階の最奥が一番強い。
顔を出していた騎士達が足早にこちらへ駆け寄ってきたーーその彼等の内一人、緑の髪の男性から紫色のオーラが登っていた。
「えっと、貴方達は……」
「おい!」と小声で尋ねてきた騎士に肘鉄を食らわせる。
「すみません。キングストン家のご令嬢とお見受けします。今のは、一体……」
「血涙石が皆さんの私物に紛れ込んでいる可能性が浮上しております。その調査のために案内してもらってもよろしいですか?」
「「「えっ?!」」」
ゾロゾロ入っていく。最後に入ってきたフィーを見て更に三人は「アリアンロッド様?!」と声を荒げた。それに「ただのソックリさんじゃ」と返答すと、フィーは緑髪の騎士バートン・クレメンダーに屋敷の案内を指名した。他の二人は他の隊員にも連絡してきますと散ってっ行った。
その間に念話でバートンが血涙石を持っているとヒントを出しておく。
すると、エレノアの視線は下へ。
《足元から感じます……左のブーツの、上部、でしょうか?》
ほぼほぼ正解だ。左足のブーツ上部に施されているベルトのバックルから紫色が昇っている。
「あの、靴を脱いでいただいても……」
「あぇ?!」
「今は血涙石の捜索と解呪が急務ですからそのまま触って下さっても大丈夫ですよ」
エレノアが了承すれは安堵したようにバートンは眉尻を下げた。そりゃあ貴族のご令嬢に臭うブーツを渡すのは嫌だろう。バートンはグッジョブとユウへ視線を送ってきている。
エレノアが手をかざしてすぐ、あの赤黒い石がゴトッと落ちてきた。こっちはナイジェルのとは違い小玉葱ぐらいの大きさだ。
バートンはぎょっとして地団太を踏むように数歩後退した。「えっ!? えぇ!!?」とブーツを見やる。ベルトのバックルが無くなり、ダラリと垂れていた。
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