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15話 アジュール到着、そして一悶着

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 アジュール到着後……現在、騎士達とフィー達は交戦中であった。

 フィーがここに国王が来ているのは内密だったのに暴露してしまい、「何故それを知っている?!」「賊か!」と交渉を試みる間もなく兵達が突撃してきた。

 エレノアがキングストンの者だと告げても聞く耳持たずで、自己防衛にマサシゲとクロードは殴って殴って蹴りまくる華麗な物理攻撃を披露。

 すると、入り口付近で固まっていたむくつけき男達が「やっちまえー!」と何故かマサシゲ達に声援を送って大騒ぎ。そして、それにこたえんと次々と騎士をのしていく二人。

 これ以上騎士団側の被害拡大を防ぐべく、ユーリは大慌ててマジックバックからフェンリルの死体を放り出した。

「ウィンドウルフ達が群れで発生していました! こちらはその群れを率いていたフェンリルです! どうぞご確認……ーーあえれ?」

 現れたのは銀の毛皮だけだった。
 どうやら皮膚と肉体がすでに引き剥がされていたため、マジックバッグに入れた時にセパレートして保存されてしまったらしい。

「遊んでんじゃねぇ、ガキ! どけ!」
「なぁあんじゃと! 貴様ぁああ!!」

 ついに静観していたフィーが加勢。純白のスカートを翻し、ヒールがターンを決めやすいのかクルクルと回って軽業師のように舞っている。一気に華やかさが増した。
 腰を抜かした連中以外の立っていた騎士は見事に全員のされた。

「ガブリエル・キングストンを連れて参れ。でないと、貴様ら全員腕をへし折ってからラルフフローに送り返す」
「はっ!! はひぃ!!」

 抜かしていたはずの腰はどこへやら、ビシッと立ち上がって騎士達は一目散に逃げていく。
 この後、フィー達は「お前等すげぇなぁ!」と囲まれた。特にフィーは大人気だった。

 ◇◇◇

 しばらく待たされていたユウ達の元に品の良い服に身を包んだ初老の男がやって来た。白髪をオールバックに撫で付け、いかにも上流階級感が漂う。

 エレノアが駆け出す。すると彼はちょっと驚いたように、ハグをした。多分、この事は報告されていなかったのだろう。

《あの方が偽者なんですか?》
《あぁ。魔力の質が違う。アイツの魔力はもうちょっと爽やかなんだ……》

 寂しげにマサシゲが言う。
 フェンリルの毛皮と、頭の上のフェニックスの隷属紋を見せるよう言うと、黒狐に指示されると、黒い嘴からぺろ、と小さい舌を出す。

《……何か、ちょっと空気薄汚れてる……?》
《そうですね。負の感情に染まった魔素がアジュール内を停滞しているようです。フィーが言った通り、治安がよろしくないせいかと》

 排気ガスの溜まる大都市で生活していたが、それ以上に嫌な気分になってくる。

「キングストン宰相。王都近郊にてウィンドウルフが出た。大規模災害級のスタンピードが発生すると断言できる状況だ」

 フィーの言葉に騎士達を含め、この場にいる人間達がどよめいた。

 詳しい話は奥の屋敷でしようと案内してくれることになった。
 ここでサイラス達はもう少し詳しい状況を騎士達にするためお別れだ。ブレンディの話はしなくて良いと事前の打ち合わせのため、マサシゲが肩に担いでフィーが例のマジックバッグを持つ。

 ユウはフェニックスを渡そうとするが、炎を吐いて騎士を攻撃する。美しい鳴き声が唸り声を上げて威嚇しているようだ。害はないと説得してみたが、言葉が通じないのか差し出そうとするとユウの手を逃れて頭をぐわし! と掴んで居座る姿勢である。
 いつまで経っても離れないなら連れて行って良いとガブリエルから許可を貰う形になってしまった。

「宰相?」
「何でしょうか」
「ハリエットは可愛かったなぁ?」

 ぐるんとガブリエルがフィーに首を回した。彼女はニコニコと微笑んでいるだけだ。

《これは反射ねぇ》
《じゃろうな。ガブリエルはハリエットの事でこんな反応はせん》
《あの、フェオルディーノ様。ちょっと聞きたい事があるのですが》
《うむ? ハリエットのことか?》
《いえ、そちらではなく――》

 ◇◇◇

 念話を飛ばし合っているうちにこの場所には合わない豪勢な屋敷に辿り着いた。言われるままに来てしまったが、ここまで来たら逃げられないのでは?

 扉の左右に立つ騎士が警備している両開きのドアを潜り抜ければ内装はお高いと一目で分かる数々の調度品や家具が置かれていた。

(……この家の方が空気悪い)

 フェニックスの幼鳥も何だか嫌そうにピュイィと甲高い鳴き声を漏らしてユウの肩を降りてくると、頬を擦りつけてきた。

 エレノアにもロイという人物を呼んでくるまでは座って待っているように言って、一度ガブリエルは離れた。

 それから高貴さの漂う服に茶髪の若い男性・ロイと、少々痩せ気味の男・カッヘルが一緒にやって来た。「お父様!」とエレノアが足早に駆けて行った。

『あらっ! 娘さんがこんな所まで来てくれたのかい! 良かったねぇ~』と老婆のような声。
『父ちゃんなのに若いなぁ! カッヘルの奴なんか三十過ぎてもまだ嫁もいねぇってのに!』

 若いお兄ちゃんの声が部屋の中から聞こえてきた。
 その後、「ねぇ、聞いてよぉーう」とおっとりした声が痩せ気味の男のネクタイピンから聞こえてくる。

 立ち尽くしているユウの手をエレノアが引く。ロイと一緒に別室へ行こうという事だ。
 マサシゲも誘われたが、そこでネクタイピンは愚痴る。

『カッヘルってばぁ、また帳簿誤魔化したんだよぉー。今回は何十万エルドだと思うー?』
『三十!』『あたしゃ五十だ!』
『ざんねーん。今回はオードルの人身売買の裏取り引きが上手くいったから、六十五万だよー』
『なぁ~~んて奴だい!!』『なぁ~~んてやつだ!!』
《神子様、エレノア様達を急いで部屋から出して下さい》
《分かった》

 ニコッと笑ったマサシゲに促されるままユウは急いでエレノアとロイの背中を押し出し、扉を閉じる。
 部屋には入れないようにと念を押された次の瞬間、部屋の中でカッヘルの「ぐぉおーお?!」と奇妙な呻き声が聞こえてきた。

 さすがにカッヘルの変な声が聞こえてくれば心配になったロイが戻ろうとする。ドアノブに『施錠』の魔法を掛けて、開けられないようにする。「あらぁ~? 金庫のダイヤルは右に7、左に……」と楽しげなエルメラの声は気のせいだ。

「えっ? 今のはバーグ伯爵の声では……」
「彼には脱税の疑いがあるんです」
「「え?」」

 ハッテルミーが「よし! 帳簿調べに行こ」としゃべっている途中で『消音』の魔法も掛けたお陰で、きれいさっぱり聞こえなくなった。「さぁ、参りましょう!」と張り切ったご様子の黒狐は尻尾を振った。
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