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16話 掃除

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 食堂の一部屋に連れて行かれ、再び応接間へ戻ろうとするロイを引き留めた黒狐がその頭に飛び乗ると、くるん、とぎこちなく振り返ったロイは「体が、勝手に」と言いながら着席した。

「エレノア、ステータスを見せてください。貴女であればフェニックスの浄化ができるはずです!」
「え……」

 ちょっと目を大きく見開いて、ショボーンと俯く。「浄化といった類の魔法は……」と言い淀む。
 しかし、黒狐はエレノアから感じ取れる魔力も浄化が出来る高位魔法師の資質があると言い張る。

 そろーっとエレノアは瞳を逸らしたが、「悪いモノを吹き飛ばすイメージです!」とちょっと分かりにくい説明を始めた。

「そうです! ユウ様であれば、絨毯や柱時計にしたように的確なアドバイスをいただけるでしょう!」
「どっちも思いつきなんだけどなぁ」
「柱時計? 絨毯?」
「神子様の助げーー」

 みこ、と聞こえた瞬間には手を伸ばして黒狐の口を塞ぐ。手をポンポンとされて、念話で神子だと言い触らさないようにと告げてから、ユウは外す。

「スキルはその文字の意味通りではありません! そこにユウ様の助言が加われば、スキルの具体的な使い道筋が見えるようになるでしょう!」
「……そうですよね。神子様ですし……」
「えっ?!」
「ご内密に」
「あっ! す、 すみません……!」

 一応、他言しないという約束はエレノアとその使用人達とはしているのだ。
 さっきからエレノアとユウを交互に見ているロイにも、遠回しにガブリエルや信頼できる友人でも言わないようにと釘を刺しておく。これでガブリエルに報告しなくなるかと言えばノーだが……。

(そういえば、さっきから巫女がすごいってのは分かるんだけど、結局どうすごいのかは全然知らないや)
《……申し訳ございません! 私失念しておりました! 後程ゆっくりお話させていただきます!》

 エレノアがステータスを開く。
 彼女の涼やかな見た目とよく似た、青い画面が現れた。お邪魔しますと、覗き込む。

ーーーーーーーーーー

名前:エレノア・キングストン
種族:人間族


Lv:32
HP:1020/1020
MP:5400/7000


固有スキル:掃除
アビリティ:魔力感知、魔量増量

攻撃:C
防御:E

魔力:A
敏捷:B

属性:  水 風     光   無 
ーーーーーーーーーー

 固有スキルの部分に書かれた『掃除』という単語。黒狐はこのスキルで浄化が出来るという。念話で再度確認すれば「はい!」と即答である。

 あの、とエレノアはそう呟いて、また俯いてしまった。

「……こんなスキルでは、何をしてもダメだと……」
「うーん。私だったらサクッと悪いモノ掃除しちゃうイメージしか沸きませんけど」

 殺害的なお掃除ではなく、本当に悪い物を払い落とすものだ。
 しかし、すみません、とステータスと閉じてしまった。

《もしかして、風水のような概念はないんですか?》
《ふうすい? 分かりませんが、教えてみては如何でしょうか?》

 うん、つまりないんだなと腹の底で思ってからユウは風水について話し始める。

 西に黄色の小物を置くと金運が上がるとか、北は悪いモノが入ってくる方角・鬼門に当たるから、門は北側に配置しない方が良いなど建築の配置、それらで運気が変わる風水の代表的な情報だ。聞きかじった程度だが『運気を上がる!』という本を片っ端から読むと、必ず『やるべき』と言われているものがある。

 それが『掃除』だ。ゴミや汚れには悪いモノが溜まりやすいため、掃除して悪いモノを掃き出すという考え方がある。遠回しになったが、要は一貫して『掃除には空間の浄化作用がある』。運が悪いなと感じたなら掃除しろとすら書いてある物もある。

「掃除とは書いてありまが、掃除には悪いモノを『除去』するという考えでも良いかもしれません。それなら、フェニックスの中にある隷属の呪いはこの子に必要のない『悪いモノ』でしょうから、そのスキルなら寧ろ除去できそうですよね」

 フェニックスはエレノアの目の前に降り立って「さぁ、やれ!」と言わんばかりに翼を広げた。悪いモノの見つけ方は黒狐にお任せして彼もエレノアの傍に置く。

「スキルは神々からのギフトです。先も申し上げた通り言葉の通りの意味だけがスキルとは限りません。固有スキルに浄化と書かれていても、部屋に浄化スキルを発動させたら熟練のメイドよりきれいに掃除できるんですよ」
「多分ですね、それ先に言ってあげるべきでしたよ」
「うんにゅ?」
「……ふふっ」

 エレノアはしょうがないなぁという風眉尻を下げて微笑むと、フェニックスを手で包んだ。さっきまでのちょっと暗さが滲んでいた笑みに、明るさが戻ってくる。

「それが解けたら、陛下の持ち物にすり替えられている呪具の呪いも解けるかもしれませんし、試してみる価値はありますよ」
「「えっ?」」
「?」
「呪具を持っている? それはどういう事ですか? 陛下が掛けられている呪いは外部から干渉をーー」

 ロイは立ち上がろうとして失敗する。それをすっかり忘れていたようだ。「忘れてた……」と露骨に凹むロイ。

 黒狐は「話は後で!」と、ユウに説明した通りにエレノアに指示を出していく。彼女は長い睫を伏せて、フェニックスの中にある魔力の残滓を辿っていく。

「二つ……弱いのと、強いのが……」

 アビリティには『魔力感知』なんていかにも悪いモノを発見するにはおあつらえむきな能力があった。きっとユウよりも明確にそういったモノを感知出来るのだろう。
 ユウは椅子をエレノアの傍まで引きずって座る。

 まずは弱い方を試してみようという黒狐に言われるまま、エレノアは挑戦する。すぐに清浄な気配を感じた。気持ちが悪い空気が充満している屋敷の中、その感覚が払拭されている。

「これは、浄化できますね」
「そうでございましょうとも!」
「エレノア様もこの屋敷の空気が悪いと思っていたのでは?」

 案の定、エレノアは肯定した。屋敷に入ってから強く感じていたという。
 それにはちょっとロイも驚いたらしい。先程から彼女を優しく見守る眼差しはなく、エレノアを真剣に観察するような目付きになった。
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