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14話 商品(人間と亜人)

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「そうですね、ユウ様。まずペガサスの隷属の呪いを解きましょうか」
「「「「隷属の呪い?」」」」
「こちらのフェニックスの幼鳥もですが……」
「フェニックスの幼鳥? この黒い鳥さんがですか? 赤いと思っていましたが……」
「どうやら染色されているようです」

 あ、あの! とジェシーが声を張り上げる。

「どういう事ですか? そもそも、こちらのペガサスはブレンディさんと契約しています! 契約紋だって、私達見てます!」

 黒狐は首を傾げて、そのままの意味ですよとペガサスに舌を出すよう指示した黒狐。ペガサスも言われるままに舌をんべ、と出した。

 肉厚な桃色の舌の上に、黒い模様が浮かんでいる。

 この紋を印された者は主人に逆らえない呪いが掛かる。別称『隷属の呪い』と呼ばれていて、この呪いの上位は反抗的な態度を取るだけで電撃が流れて苦痛を与える。

(舌の上じゃなくて、上顎に付ければ見えないだろうに)
「それは言ってはいけませんよ」
「あれ? 念話、飛んでました?」
「いえ! 私は、ユウ様のサポートが使命でございますから!」

 黒狐は「ユウ様、お早く解呪をしましょう!」と誤魔化された気がしたが、ユウは眉尻を下げ、自己紹介がまだでしたよね? と名乗る。

 続いて柱時計、最後にマサシゲも名乗って「よろしく」と続ける。目をぱちぱちさせていた黒狐はきゅっと笑ませた。

「私も忘れておりました! 私は此度、神よりユウ様のアヴァンデルグでの生活を全面的にサポートするよう命じられました、神使のナビゲーターと申します! お名前はユウ様にお付けいただきたいと存じております! よろしくお願いします!」
「え? 神……? ーー神ぃい?!」

 サイラス達が素っ頓狂な声を上げる。だが「そうだ、さっきの魔法!」と変な所でユウが神子だとバレそうになり黒狐をむんずと掴んだ。

「さぁ、解呪しましょうか。やり方教えて下さい」
「にゅ? 分かりました、まずはですね……」

 胴の側面を両手で触れさせてもらう。黒狐からアドバイスを貰う。しっかり意識を集中させて、ペガサスの体内にある呪いの元を探すーー。
 燃え盛る炎のような熱を感じた。肌がざわつくような嫌な感じだ。
 それを狙うように……ーー。

「浄化系の魔法を使います」
(((((説明ざっつ)))))
「うーん、『かい』」
(((((軽っ)))))

 想像力でどうにかなるのは既に把握済みだ。それなら『ほどく』、『じゅといった意味に使われる漢字でもいけるだろう。

 案の定、ペガサスの体の中の魔力から、ぱき、と小枝を手折ったような音が聞こえた気がしたあと、すぅと体からその嫌な感じが抜けていった。
 舌の模様を確認させてもらうと、きちんとなくなっていた。

「お上手です、ユウ様!」
「ナビゲーター様もアドバイスありがとうございます」

 ちょっと離れた所の空中でお座りしている黒狐に笑い掛けていると、ペガサスからべろんと頬を舐められた。弾力があってヌメっとしていて、ちょっぴり驚いた。舐められた所がひんやりしてスースーする。

 黒狐から回復魔法を陣を教えてもらう。「怪我が治るように祈ればいいんですよ」で終わったが、やったら治った。

 ペガサスは再びサイラスに向き直ると、鼻先をコツンとぶつけると、その純白の翼を羽ばたかせて飛び上がった。

 ユウ達の名前を呼ぶフィーの声がする……ーー。後方を振り返れば、紐をくくりつけた絨毯が馬よろしく引いていた。その絨毯の先にハッテルミーとフィーが乗っていた。その後にキングストン家の馬車が続いている。

 ユウにダスティンの治癒をお願いしようとしていたサイラス達は「絨毯が浮かんでる?!」と目を白黒させる。

 無事にユウ達は再会を果たすことができた。
 そして、破滅フラグの立ったブレンディは無事マサシゲにきゅっと締められた。

「白目を剥いておらぬか?」「大丈夫大丈夫。息はしてる」で片付けられたブレンディは転がされた。

 エレノアとユウは一緒に回復魔法をかけていく。一番重態のダスティンは任せて、他の人達を治していく。ヘンリーは最初怯えていたが、ユウに治癒魔法をかけられてからは懐いてくれた。改めてヘンリーには謝罪するとわふん! と可愛いことこの上ない。

 ダスティンの魔力切れには何もできないが、怪我は治った。彼以外の全員に聞きたいことがあるとフィーはマジックバッグを開いて見せた。
 魔力素粒子で形成される画面を見て、さぁっと顔色を変えた。

 ユウも気になって覗き込むと、ボックスにいっぱいに顔が浮かんでいた。

「こ、これは……?」
「お主らが護衛していた荷馬車と一緒に運ばれていた代物じゃ。全員に隷属の呪いが掛けられておる所から見ると、恐らく人身売買の商品。貴殿らの様子からして、この事実は知らなかったという事で間違いないな?」
「は、はい! 俺達は、オクタール商会とは契約したばかりで、今回が初めての護衛任務だったんです!」
「承知した。じゃが、お主らには詳しい話を聞かねばならぬ。すまぬがアジュールに行くのだ。ついてきてほしい」
「これ、もしかして王都に降ろされる予定だったんですか?」
「あ、あぁ。王都にいるお得意様と各店舗にと、ブレンディさんは……」

 ユウはマジックバッグを抱き上げる。この中に、七人もの命が入っているのだと思うと、あまりに軽かった。

「なら、変に遅くなるとに何か勘繰られて逃げるのでは? 到着予定は?」
「今日から二日後ですね」
「じゃあ! 私がこの中に入って商品として紛れ込みます! 出された所でいっぱい念話を飛ばして……おえっ!」

 デコピン食らった。首がガクンとのけぞるほどの衝撃が襲った。

「駄目に決まってるだろ」
「どちらにせよ一度報告せねばならぬ。サイラスと言ったな。お主らには協力してもらう事になるじゃろうから、一度共に来てほしい。悪いようにはしませんから」

 フィーは穏やかに微笑む。先程までブレンディを責め立てながら問い詰めていた御仁とは思えぬ程の変わりようだった。

 ユウは、黒狐に渡された自分の鞄がマジックバッグに変えられている事を今更教えてもらい、フェンリルの亡骸をマジックバッグにしまってからユウ達はアジュールへ向かう。その道中でフェニックスに気に入られたらしく、ユウの頭を陣取られた。

 重たくなった頭を出来るだけ動かさないよう何時間も耐え、夕陽がうっすら空を橙に染めた頃に到着した。
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