上 下
12 / 93

11話  護衛隊

しおりを挟む
「で? これはどうい事かのう?」

 亜人や人間が入っているマジックバッグの表示画面を見せたまま、フィーはニコリと微笑んでいた。ただし、それが誰から見ても貼り付けているだけということは明らかだった。ついでに今、マサシゲに念話でこの事実を伝えている最中である。

 それはそのとゴニョゴニョして視線をそろーっと横に逸らす御者・ブレンディ。

「これは、どういう事、かのう?」

 圧を強めで言うと土下座した御者・ブレンディは「ハヒーッ!!」ひれ伏したが、フィーは頭をわし掴んだ。青筋が長手袋とパフスリーブの隙間から浮かんだ。

 フェオルディーノ聖王国では奴隷もそれに関連する売買も禁止である。当然、奴隷の運搬も見つかれば即刻逮捕ものである。
 しかし王都やその他関所では、荷馬車の中身は調べてもマジックバッグの中まではいちいち調べていない。マジックバッグの容量限界まで突っ込んでいる者もいるから検閲に時間が掛かると、マジックバッグの申告さえされれば通過させる。

《何年も前からやられてる可能性があるな》
《あぁ。今まで王室どころか城にさえ情報が上がってきた事がない。全く、やってくれるわ》

 フィーは青い瞳を細めてブレンディを冷ややかに見下ろす。

「答えないようなら貴様を殺してから調べる。貴様の身内も捜査対象として家に騎士を向かわせるぞ」
「す! すみませんでしたぁああーー! これには海より深い訳がぁああーー!!」
「吐けと言っておる」
「はい! 吐きます! 吐きますぅううーー!!」

 フィーの変貌具合を少し離れた所で見ていたエレノアとライラがカタカタ震えていた。

 ◇◇◇

 ペガサスが急に止まった。
 ユウが見下ろすと、たくさんのウィンドウルフに囲まれている五つの人影が見えた。皆が背を預けている。倒れている人もいるから、合わせて六人だ。

《緊急連絡、緊急連絡です。緑の狼達に襲われている集団あり。荷馬車の護衛に当たっていたと思われます。編成は六人。全員負傷している模様。繰り返しますーー》

 念話で連絡を終えて、ユウは飛び降りようと跨がっている足を持ち上げようとしたらペガサスが降下を始めた。

《クロード、神子様、気を付けろ。ウィンドウルフ共、多分指揮を出してる上異種がいる》
《畏まりました》
《りょー》
《神子様、もう少し真面目にですねーー》

 あっはっはっはっ! と、ハッテルミーが念話で爆笑している。

《ウィンドウルフの弱点は?》
《風属性のモンスターは火属性に弱いわよ》
《霧になって消えてるから、神塔から出てきた魔物だ。光属性も効く》
《分かりました、ありがとうございます!》

「ペガサスさん、行きましょう」とユウが声を掛けると、天馬は嘶いて降下を始めた。

 ◇◇◇

 サイラスは唇を噛んだ。
 ブレンディと荷馬車を逃がす事に成功したが、護衛隊は大量のウィンドウルフに囲まれて苦戦を強いられていた。

 回復と魔法攻撃を兼任していたダスティンは最後まで回復に集中して魔力切れで倒れている。誰よりも自分達に協力してくれて、一番無理をさせた彼を死なせるわけにはいかないと囲んで戦ってきた、が。

「もう無理だ、サイラス!!」
「くっ……!」

 事実を告げる仲間にサイラスは歯噛みする。
 かくなる上は、仲間だけでも逃がす。がちりと剣を握り締めたその時、ダスティンの小さな呻き声が聞こえた。彼の擦れた声で呟く。

「……にげ……ろ」
「そんな事が出来るか! 諦めるな!!」

 頭上から、嘶きが聞こえた。
 すぐに水の弾がドォウッ! とウィンドウルフを数匹纏めて吹き飛ばした。その攻撃は土を抉っている。それが、一つ、二つ、三つ、サイラス達に飛び掛っていたウィンドウルフの体を吹き飛ばして、霧にしていく。

「ペガサスだ! ブレンディさんのペガサスだ!!」

 一人が声を上げた隙を狙うように飛び掛ったウィンドウルフ。しかし、ペガサスの水弾で穴を開けられて霧消した。

 ◇◇◇

 ペガサスがウィンドウルフ達に水弾を放っている隙に、ユウは掌を上向ける。
 白い光がぽうっと点る。それからダイヤ模様が十六方向に生える。RPGゲームで光属性の魔法使いキャラがある魔法を使う時、手元に現れるエフェクト(?)だ。

 ユウは再び砲弾のような水弾を放つペガサスから飛び降り、チャレンジ。一人が倒れ、五人体制で守り合っている彼らの元に降り立つ。

「えっ?!」「子供!?」
「あっ。すみません、失礼します」

 あのエフェクトを真上へと浮上させる。そうすれば、ダイヤが高速回転を始め、光が強く輝く太陽のように輝いた。ゲームでは外側から見るしか出来なかったが、実際はこんな感じなんだなぁと感心しながら、声を張り上げる。

「セイクリッド・ランサー!」

 ユウの一声の後、浮かび上がった白い玉から、白い閃光がレーザービームのようにズドドドドドドドドドド! と降り注いだ。白光のシャワーがウィンドウルフ達を貫いて霧に変え、紫色が白く染まってから消えていく。頭、胴体、もろもろを容赦なくぶち抜いていく。

 セイクリッド・ランサー。
 この攻撃は二段攻撃になっていて、一段目の攻撃中だ。ランダムに照射されるレーザービームでコンボを稼ぎ、その後に効果範囲線内に無数の光の槍が降り注いで、ボス戦では千以上のコンボ数を叩き出す。SP消費は激しいが一回の攻撃でコンボ数が稼げるお気に入りの魔法攻撃である。

 が、紅一点の女性・ジェシーは顔を真っ青にした。

「ヘンリーぃい! 逃げてぇえええーー!!」
「ヘンリー?」
「私の相棒ですぅーー!!」

「あそこの! 白い犬です!」と叫んで指を差していると、危機を感じ取った白い小型犬は脱兎の如く林の奥へと逃げた。

「あの子怪我してるのに!」
「それは、すみません」
「な、なんだこの光属性魔法は……!」
「神の光だ……」
「!」

 ちょっと張り切り過ぎてしまった。変な理由で神子だとバレてしまうかと思った。
 未だに熱を放ちながらビームが地面を抉りながらウィンドウルフを串刺しにしていると、今度は上空に光の槍が無数作り上げられる。

「あっ」
「何ですか?!」
「そういえばこの魔法、次弾に無数の光の槍が降り注ぐんですけど、広域殲滅型なんですよね。ヘンリー君、大丈夫でしょうか?」
「へんりぃいいいいい~~~~~~!!」
「お、落ち着けジェシー!」

 鎧も剣もボロボロの男性・サイラスが、ヘンリーなら大丈夫だと必死にジェシーを宥める。
 ユウはまたすみませんと謝罪した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あの味噌汁の温かさ、焼き魚の香り、醤油を使った味付け——異世界で故郷の味をもとめてつきすすむ!

ねむたん
ファンタジー
私は砂漠の町で家族と一緒に暮らしていた。そのうち前世のある記憶が蘇る。あの日本の味。温かい味噌汁、焼き魚、醤油で整えた料理——すべてが懐かしくて、恋しくてたまらなかった。 私はその気持ちを家族に打ち明けた。前世の記憶を持っていること、そして何より、あの日本の食文化が恋しいことを。家族は私の決意を理解し、旅立ちを応援してくれた。私は幼馴染のカリムと共に、異国の地で新しい食材や文化を探しに行くことに。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...