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4話 脱出

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 付喪神達をポンポン顕現させると、黒狐の手によって服が動きやすい物に一瞬で変わった。ちなみに今までお前なんぞが着てて良い服ではないそれはベッドの上に畳んで置かれていた。

 デスクの上にへたれていた祐希の鞄を持って黒狐は肩に戻ってくると、「それでですね」と前置きする。

「皆さんは顕現している間、ステータスが開けます」
「「「「「ステータス・オープン!」」」」」

 付喪神五人の声がピッタリ揃う。
 彼らの目の前に、それぞれの色が違うステータス画面が現れた。マサシゲは赤、フィーは茶色、ハッテルミーは緑、デスクと柱時計は青色のステータス画面だった。

 種族の部分に彼らが何の付喪神であるかが書かれていた。マサシゲなら『刀』、お城様は『城』、柱時計はそのまま『柱時計』といった具合だ。

「ユウキ様も開けますよ」
「そうなんですか」

 楽しそうにしている付喪神達の方へ顔を向ける。

「ユウキ様?」
「? 僕、操作説明書を見ない主義でして」
「いえ、ゲーム感覚でそれをされると困りますーー」
「おっ? おおおおーー!!」

 ハッテルミーが楽しそうに声を上げた。四人も「おぉ!」と感嘆を漏らして、浮かび上がっている絨毯を見つめている。

 ハッテルミーは目をキラキラさせながら腕を動かすと、それに習うように絨毯が動きを合わせてすーっと動く。まるで、空飛ぶ魔法の絨毯だ。

『操作:絨毯』と書いてあって、自分が動くのかと考えた結果、自由自在に動いているらしい。

「おや、絨毯は空を飛ぶものでしたでしょうか? 初めて聞きました」「良いわねぇ。私は動けそうにないわぁ」と柱時計とデスクはのほほんと言う。

「完全記憶って書いてあるけど、エルメラが読んでた本の内容全部覚えてるし、あんまり必要ないのよねぇ……」
「打刻と記されておりますが、打刻とは文字や数字を打ち込む事でございますね」
「そうねぇ。その意味であってるわよねぇ……?」
「ハッテルミー様が動かしている絨毯、僕達を乗せて、飛べそうですか?」
「はっ!!!!!」

 祐希の素朴な疑問にハッテルミーは漫画の一コマのように雷の衝撃を受けたような表情を浮かべた。早速絨毯を低空で停滞させて、飛び乗った。足元がちょっと沈んだようでバランスを崩したハッテルミーだったが、立てている。

 好奇心旺盛なお城様が四つん這いで乗り、その後をマサシゲ、デスクが恐る恐る乗るのを手を引いている。
 本当に乗れるんだと祐希が感心していると、マサシゲから手を差し出された。

 手を引いてもらいながら(あんまり意味はなかったが)浮かんでいる絨毯に乗ると、地面に着いていない感覚が布越しに伝った。ほんの少し体が絨毯に沈んでいるが、下から押し返されていて意外にしっかりしている。

(みんなが靴で踏んでたのは気にしないでおこう)

 いつまでも突っ立っている柱時計も絨毯の上に引きずりこんで、少し浮かび上がる。

「飛べる! これはいける!!」
「なら、お城からお暇しましょうか」

 黒狐が呟くと、あの青い光がすぅっと消え去った。
 その途端、二枚の扉が観音開きに突然開き、メイドと金ぴか鎧の騎士とニクソンが勢いよく倒れ込んだ。下の騎士がぐえぇ! と悲鳴を上げた。

「しゅっぱぁーつ!」

 お城様の掛け声に絨毯は発進した。予想以上にハイスピードでスタートを切った空飛ぶ絨毯は、大きく口を開ける部屋を飛び出した。

 少し強い風圧を身に受けながら、吹き抜けになっている二階の手摺を飛び越えた。が、急角度で降りて行ったため、祐希は絨毯の上で少し滑ってしまった。さすがにヒヤッとした。

「おぉおおぉお?! 危ないじゃろうがぁ!」
「ごめーん!」

 そう文句を言う割りに楽しそうなお城様。
 人通りがない一階廊下、無駄に天井が高くて横幅も広いから飛行しやすいのだろう、一直線の廊下を飛んでいくスピードが少し上がった。たったの数秒間、風を切りながら何本もの白い柱が過ぎ去り、廊下を伸びている赤い絨毯はアスファルトの道路みたいに下方を抜けていく。

 城のエントランスホールに辿り着くと、廊下よりも天井の高い広々としたホールを最大限まで利用して大きく旋回する。

「あれ? ちょっと待てよ?」

 突然そう言ったハッテルミーの姿がすっと下に引っ張られるように消えた。だが、絨毯から「あはは!」と彼の声が聞こえてきた。

「やっぱり! こっちの方が操作楽っぽい!」

 閉じていた扉が、ひとりでにバタン! と開け放たれる。

「今じゃ! 行け!」
「あーりがとぉーおう!」

 旋回二週目で位置を調整した絨毯は、開いている扉を真っ直ぐ飛び出した。

 薄暗かった世界が、光を受けて緑と土の、明るい景色に変わった。

 祐希に乗れと言っていた馬車だったのだろう。それが前方に停まっていたが、上昇する形で直撃を避ける。そのまま城壁よりも高く昇っていく。
 城の敷地内が、どんどん遠ざかっていく。

 建物に阻まれず、切り取られていない青空は、果てしない。眼下に見える町並みは、ヨーロッパの町並みを俯瞰写真を見ているよう。濃紺に統一された屋根、緑を取り入れられて、石畳であろう灰色の道がずっと続いている。

 そのずっと向こうに、とても高い塔も見えた。何の塔なのだろうか。

 振り向けば背の高い城だ。やっぱり、日本ではないんだなと痛感した。

「ハッテルミー! このまま東に行ってくれ!」
「キングストン邸かい?」
「あぁ! 頼む!」

 了解だぜ! と絨毯は大きく回って、滑空を開始する。城の中を飛ぶよりものびのびと、自由に。

「マサシゲ。お前、青い石は見たことあるか? 粒みたいなとても小さい石なんじゃが」
「ある……ガブリエルの執務机だ」
「そうか……」
「絨毯、少しだけ右を向いて……そこでございます。そのまま直進を」

 少しだけ西側を向いた絨毯は直進する。遠巻きに見えるのは、大きな屋敷が建ち並んでいた。
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