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17 シルさんと俺達
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こっちだよ、何かが服の袖を引っ張る感覚。
こっちこっち、呼ばれるままにフラフラ歩いていく。
冷たく佇む殺伐としたビルの群とは違う。どこを歩いても自然豊かで、心地よい温かさ。
しばらくすると木々が鬱蒼と生い茂っている場所が見えてきた。その暗い場所に、大きい丸を描いている不思議な木があった。その中心部、緑色の光が浮いている。
俺は、吸い寄せられるようにその光に近寄っていく。
『おはよう』
子供の声とは違う、成人女性の優しい声。それが、頭に……いや、心に響く。
それと同時に緑色の光が輝きを増して、人の姿に膨らんでいく。
人の形が完成すると、ふわり、と色が広がる。新緑色の髪が靡き、白いワンピースが揺れる。肌色を全身が纏い、整った顔に浮かぶ双眸はエメラルドに煌めいた。
『初めまして』
女性は木の縁に腰掛けて、ニコリと微笑んだ。
目を奪われるほど、美しい女性だった。
『私は、ユグドラシルの一枝。君は?』
「曼珠沙華……――いやっ! 佐藤桐也です!!」
何言ってんだ?! と、俺は慌てて言い直したか、彼女はそんな俺の阿呆さを笑っているようではなかった。
『そうね、今あなたは人間だものね。普通は、その人間の名を名乗るものよね』
「えっと……その……――」
『モモコなら、まだ来ないわ』
彼女はそう笑って言う。
『お話しましょう、■■■■■■』
そう呼ばれて、俺はその場に座り込んだ。
初めて聞いた音のはずなのに、酷く懐かしい気持ちと優しい温かさが、胸に広がっていた。
◇
頬を両側から引っ張られて俺ははっと我に返る。
その手が後ろへ引っ込む手を追うと、一瞬、誰か分からなかった。
清掃員の姿だ、と思ってようやく、清掃員さん……モモコさんだと思い出す。
「ユグドラシル殿、あまり深く入り込み過ぎないでくれ」
『きれいで優しい子は好きなの』
「それは何よりだ。逢わせた甲斐がある」
『あなたは、もう少し遅くても良かったのに』
くすりとユグドラシル……シルさんが悪戯っぽく微笑む。
それに対してモモコさんは「ご冗談を」と一言。
「普通の人間なら、もう死んでいる」
チラリと俺を見ると、モモコさんは俺の足元へ指を向けた。それに習って視線を下ろす。
蔓が体に巻き付いている。体に蔦が張り上半身を這っている。体の中には根が伸びている。
「脳には?」
『あと少しだったのに』
シルさんは残念そうに言う。
俺も残念だと思ってしまうのは何故だろうか。
「やめてくれ。私は彼を捧げに来たんじゃない。彼に、人間として生きるための選択肢を増やすために来たんだ」
『元はといえば曼珠沙華の妖精なのに?』
シルさんが面白おかしそうに言って、俺は腑に落ちた。
俺は人間とは合わない。そもそも、生活基盤が合わないんだ。
だって、植物だもん。
「俺、人間として生きる必要あるのかな?」
俺が呟くと、モモコさんは今度、俺の耳をグイグイ引っ張って、「シャキッとしろ、佐藤桐也!」と瞳孔開き切った目で睨まれた。めっちゃ怖くて正気に戻った。
こっちこっち、呼ばれるままにフラフラ歩いていく。
冷たく佇む殺伐としたビルの群とは違う。どこを歩いても自然豊かで、心地よい温かさ。
しばらくすると木々が鬱蒼と生い茂っている場所が見えてきた。その暗い場所に、大きい丸を描いている不思議な木があった。その中心部、緑色の光が浮いている。
俺は、吸い寄せられるようにその光に近寄っていく。
『おはよう』
子供の声とは違う、成人女性の優しい声。それが、頭に……いや、心に響く。
それと同時に緑色の光が輝きを増して、人の姿に膨らんでいく。
人の形が完成すると、ふわり、と色が広がる。新緑色の髪が靡き、白いワンピースが揺れる。肌色を全身が纏い、整った顔に浮かぶ双眸はエメラルドに煌めいた。
『初めまして』
女性は木の縁に腰掛けて、ニコリと微笑んだ。
目を奪われるほど、美しい女性だった。
『私は、ユグドラシルの一枝。君は?』
「曼珠沙華……――いやっ! 佐藤桐也です!!」
何言ってんだ?! と、俺は慌てて言い直したか、彼女はそんな俺の阿呆さを笑っているようではなかった。
『そうね、今あなたは人間だものね。普通は、その人間の名を名乗るものよね』
「えっと……その……――」
『モモコなら、まだ来ないわ』
彼女はそう笑って言う。
『お話しましょう、■■■■■■』
そう呼ばれて、俺はその場に座り込んだ。
初めて聞いた音のはずなのに、酷く懐かしい気持ちと優しい温かさが、胸に広がっていた。
◇
頬を両側から引っ張られて俺ははっと我に返る。
その手が後ろへ引っ込む手を追うと、一瞬、誰か分からなかった。
清掃員の姿だ、と思ってようやく、清掃員さん……モモコさんだと思い出す。
「ユグドラシル殿、あまり深く入り込み過ぎないでくれ」
『きれいで優しい子は好きなの』
「それは何よりだ。逢わせた甲斐がある」
『あなたは、もう少し遅くても良かったのに』
くすりとユグドラシル……シルさんが悪戯っぽく微笑む。
それに対してモモコさんは「ご冗談を」と一言。
「普通の人間なら、もう死んでいる」
チラリと俺を見ると、モモコさんは俺の足元へ指を向けた。それに習って視線を下ろす。
蔓が体に巻き付いている。体に蔦が張り上半身を這っている。体の中には根が伸びている。
「脳には?」
『あと少しだったのに』
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俺も残念だと思ってしまうのは何故だろうか。
「やめてくれ。私は彼を捧げに来たんじゃない。彼に、人間として生きるための選択肢を増やすために来たんだ」
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俺は人間とは合わない。そもそも、生活基盤が合わないんだ。
だって、植物だもん。
「俺、人間として生きる必要あるのかな?」
俺が呟くと、モモコさんは今度、俺の耳をグイグイ引っ張って、「シャキッとしろ、佐藤桐也!」と瞳孔開き切った目で睨まれた。めっちゃ怖くて正気に戻った。
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