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13 俺と曼珠沙華・上
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曼珠沙華がスキルである分、俺が曼珠沙華へ抱く感情や印象が良いのは仕方がないそうだ。
赤が鮮血に見える人、彼岸花などの別称を知っている人間はそれらの言葉から怖くて暗いイメージを想起して気味悪く感じる人も多いらしい。その分、きれいだと思えるのは感受性が豊かな証だという。
「そうでなくても、君はとても素晴らしい感受性を持っている。イメージよりも心で受け止める能力が人より突出しているんだろう。だがその分、君と感性が近い人があまりにも少なかったみたいだな。ご両親も、曼珠沙華にあまり良い感情を抱いていなかったようだ」
心臓がどきっと跳ねた。
清掃員さんが顔を上げる。
「カマをかけたつもりだったが、正解か?」
「……はい。父も気味悪がってたし、母も、口にはしなかったけど、多分……」
「そうか。幼少の頃からそのような環境だったのなら、自分自身が否定されているように感じただろう。子供の頃は私も、親には無条件で受け入れてもらえると、思っていたからな」
「……」
「でも、君が何故あの時、仲間に見捨てられたのにも関わらず諦観を露にしたのか、分かった気がする」
清掃員さんは俺を真っ直ぐ見つめる。
「君は、一人になると確信していたんじゃないか? 自分が見限られるのは当然だと、心のどこかで思っていたんじゃないだろうか」
しばらく呆然とした俺は、最後、ようやく俯いた。
◇
俺は、昔から変わった子供だった。
外で友達と遊ぶより自然の中で日がな一日花を眺めていられたし、学校の行事で土いじりができる授業が一番好きだった。夏休みの宿題で朝顔の観察日記を出された年は、一日一回でいい観察を朝昼晩と三回も書くような子供で、朝顔が咲いて閉じる光景を日がな一日眺めていた。
そんな俺が衝撃を受けたのは曼珠沙華を初めて見た時。
あまりにもきれいで、母さんに曼珠沙華の名前……『彼岸花』だと聞いてからは、心を奪われたように『彼岸花』について調べ、別名は『曼珠沙華』なのもすぐに知った。そうして毎日、買ってもらった花の図鑑で曼珠沙華を眺めていた。
母さんは他にも花があると色々な花を薦めてくれたけれど、俺はずっと曼珠沙華にしか興味がなかった。口にはしなかったけど、気持ち悪いと思っていたんだろう。死人花なんて言われる花を、異様に好んだ俺を。色々な赤い花を見に行ったけど、曼珠沙華ほどきれいに見えなかった。
一方で父さんははっきり口にするタイプで、「そんな気持ちの悪い花ばかり見るんじゃない」と叱られた。花は女が好むものだ、男ならもっと体を動かせ、男らしくしろと言われ、曼珠沙華が載っていた花の写真集は全て捨てられた。
だから家ではなく学校で曼珠沙華を見るようにしたけど、花の図鑑を毎日見ている俺を見たクラスの連中から「花なんか好きなの、ダッセェ!」と馬鹿にされてからは、人の目がない所で眺めるようにした。
弟が生まれてからは、両親も俺より弟を構った。
弟は俺よりも頭がずっと良くて、しっかり者に育った。両親からすれば、弟の方が理想の息子だっただろう。父さんは俺に、弟のようにしっかりしろと言ってきた。特に意味もなく景色を眺めてただ生きているだけのような俺と、目標を持って公務員を目指す弟。どんな親だって応援したくなるのは弟みたいな奴だ。
大学だけは出るように言われて家から近い所に通っていたけど、中途退学した。俺の学費を弟の方に当ててもらった方が家計のためになるし、両親も弟の方にお金をかけてあげたいだろう。それなら俺はいない方がいい。働きに出る許可はすんなり降りた。一人暮らしを始めるに当たっては家事は大変だけど、家にいるよりずっと楽に生きている心地がした。
通りがかりに見つけた花屋の仕事に就けた。高卒だからあまり良い給料ではなかったけれど、それでも学生より働いている方が楽しかった。
赤が鮮血に見える人、彼岸花などの別称を知っている人間はそれらの言葉から怖くて暗いイメージを想起して気味悪く感じる人も多いらしい。その分、きれいだと思えるのは感受性が豊かな証だという。
「そうでなくても、君はとても素晴らしい感受性を持っている。イメージよりも心で受け止める能力が人より突出しているんだろう。だがその分、君と感性が近い人があまりにも少なかったみたいだな。ご両親も、曼珠沙華にあまり良い感情を抱いていなかったようだ」
心臓がどきっと跳ねた。
清掃員さんが顔を上げる。
「カマをかけたつもりだったが、正解か?」
「……はい。父も気味悪がってたし、母も、口にはしなかったけど、多分……」
「そうか。幼少の頃からそのような環境だったのなら、自分自身が否定されているように感じただろう。子供の頃は私も、親には無条件で受け入れてもらえると、思っていたからな」
「……」
「でも、君が何故あの時、仲間に見捨てられたのにも関わらず諦観を露にしたのか、分かった気がする」
清掃員さんは俺を真っ直ぐ見つめる。
「君は、一人になると確信していたんじゃないか? 自分が見限られるのは当然だと、心のどこかで思っていたんじゃないだろうか」
しばらく呆然とした俺は、最後、ようやく俯いた。
◇
俺は、昔から変わった子供だった。
外で友達と遊ぶより自然の中で日がな一日花を眺めていられたし、学校の行事で土いじりができる授業が一番好きだった。夏休みの宿題で朝顔の観察日記を出された年は、一日一回でいい観察を朝昼晩と三回も書くような子供で、朝顔が咲いて閉じる光景を日がな一日眺めていた。
そんな俺が衝撃を受けたのは曼珠沙華を初めて見た時。
あまりにもきれいで、母さんに曼珠沙華の名前……『彼岸花』だと聞いてからは、心を奪われたように『彼岸花』について調べ、別名は『曼珠沙華』なのもすぐに知った。そうして毎日、買ってもらった花の図鑑で曼珠沙華を眺めていた。
母さんは他にも花があると色々な花を薦めてくれたけれど、俺はずっと曼珠沙華にしか興味がなかった。口にはしなかったけど、気持ち悪いと思っていたんだろう。死人花なんて言われる花を、異様に好んだ俺を。色々な赤い花を見に行ったけど、曼珠沙華ほどきれいに見えなかった。
一方で父さんははっきり口にするタイプで、「そんな気持ちの悪い花ばかり見るんじゃない」と叱られた。花は女が好むものだ、男ならもっと体を動かせ、男らしくしろと言われ、曼珠沙華が載っていた花の写真集は全て捨てられた。
だから家ではなく学校で曼珠沙華を見るようにしたけど、花の図鑑を毎日見ている俺を見たクラスの連中から「花なんか好きなの、ダッセェ!」と馬鹿にされてからは、人の目がない所で眺めるようにした。
弟が生まれてからは、両親も俺より弟を構った。
弟は俺よりも頭がずっと良くて、しっかり者に育った。両親からすれば、弟の方が理想の息子だっただろう。父さんは俺に、弟のようにしっかりしろと言ってきた。特に意味もなく景色を眺めてただ生きているだけのような俺と、目標を持って公務員を目指す弟。どんな親だって応援したくなるのは弟みたいな奴だ。
大学だけは出るように言われて家から近い所に通っていたけど、中途退学した。俺の学費を弟の方に当ててもらった方が家計のためになるし、両親も弟の方にお金をかけてあげたいだろう。それなら俺はいない方がいい。働きに出る許可はすんなり降りた。一人暮らしを始めるに当たっては家事は大変だけど、家にいるよりずっと楽に生きている心地がした。
通りがかりに見つけた花屋の仕事に就けた。高卒だからあまり良い給料ではなかったけれど、それでも学生より働いている方が楽しかった。
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