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9 清掃員のオバサンの仮拠点はおしゃれなお部屋だった

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「着いたぞ」

 セーフティーエリアは緑っぽい光に囲まれている。そこにはどんなモンスターも近寄って来れないから、ダンジョンに潜る人達にとって憩いの場だ。
 言われるままについてきたけど、ここまでどうやって来たんだっけ……何か、歩いていた記憶もな……。

「いや、ちょっと待って? 仮拠点?? 拠点のレベルじゃないよね?!」
「私は拠点ではなく、『仮住まいだ』と言ったはずだが」
「いや、セーフティーエリアを居住スペースにしてるとか、おかしいだろ?!」

 テレビはさすがにないけど、どう見てもハイスペックなデスクトップパソコンがどんって鎮座してる! しかも、ソファー、システムキッチン(換気扇なし)に、洋書などの本がギッチギチに詰まった大きな本棚が二つ、更にはキングサイズのベッドまである! 他にも家電製品らしき冷蔵庫もだ。電力はどこから供給されてるんだ??
 幻覚を見てるのかと思ったが、地面にフローリングまで敷かれている。靴を脱いで靴下で上がったらフローリングだ。観葉植物もあるし、足に優しい柔らかなラグも敷かれてて無駄におしゃれな部屋に来てしまったと頭がバグって萎縮している。

 違う! ここは清掃員さんのお宅じゃない! ダンジョンのっ!! 中なんだよっっっ!!
 もう突っ込むところしかないっっっ!!!!

「君、麦茶でいいか?」清掃員さんは冷蔵庫を開きながら言う。
「いっ! 頂きますけど、仮住まいのレベルが違うだろ!!」
「元気になってくれたようで何よりだ」
「心配してくれてどうもありがとうございますぅーっ!!」
「若いのは元気で良いな。私も三百年前は……いや、何でもない」

 三百年前? 何か変なこと言ったな??
 突っ込んで聞いたらいけないと頭が警鐘を鳴らした。口にはチャック。こういう時黙ってないと、きっと久留米みたいに煩いんだ……――。

 ――気持ちが悪いのよ、お前のスキルは!

 久留米のことを引き合いに出したせいで、記憶の中でまたあの怒鳴り声が聞こえる。
 岩肌が剥き出しの天井を見上げる。

 ――全くその通りだ。全部、お前の言う通りだよ。

 自分のスキル曼珠沙華が、血液を吸い上げるこんな気持ち悪いなんて、微塵も思ってなかった。
 久留米は直感的にそんな気味悪さを感じてたのかな……曼珠沙華に。


「きれいなのに」


 ぽつりと、俺は漏らしていた。

 清掃員さんはパソコンの電源を入れながら、勤務に戻るという。休憩時間になったら一度ここに帰ってくるから、それまでにスキルの大本である曼珠沙華について調べるよう言われた。植物系スキルのほとんどは例外なく植物の生態や効能などが反映されているそうだ。

「あと、君、料理はできるか?」
「簡単なものなら……」
「作っておいてくれ。私は料理ができないんだ」
「だったら何でシステムキッチンなんか設置したんだよ?!」
「格好良いからだ」

 この人にはツッコミどころしかねぇ!!

「頼んだぞ」と手をひらひらさせた清掃員さんは靴を履くと、デッキブラシを肩に担いでセーフティーエリアを離れていく。その姿が見えなくなったところで、俺はもっと重要なことに気付た。

「いや待って、ダンジョンに清掃員って、おかしくない??」

 今更になって、清掃員さんの存在そのものが本来、ダンジョンという場所において非常識であることに気付いたのだった。
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