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7 清掃員のオバサンとワイルドボア討伐

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 これ以上は吸えないと思った俺が正直に告白すると、清掃員さんが付いてくるように言う。言われるままに後を追うと、岩陰に隠れて声を潜めるように言った彼女が、そっと指し示す。
 豚の鼻より大きい鼻に、牛みたいな大きさのワイルドボアだ。ちょうどケツを向けた。こちらには気づいていないらしい。尻尾をゆらんゆらんと揺らしている。

「次の検証だ。君のスキルはモンスターに何本咲かせられるか、彼岸花の血液の吸収、その二つの速度を検証する。全力でやってみなさい」

 一瞬、ドキッと心臓が跳ねた。
 何でって、清掃員さんが俺を「君」って言ったから……いや、最初も「君」だったんだ。ただ、途中からブチ切れたように「貴様」になったから、ちょっとビックリした。

 でも、そんなことできるのか……?
 いや、そんな事を言えばまた清掃員さんから「やれ」と一言お声を掛けられるだけだ。

 清掃員さんはさっき言った。スキルは、トライアンドエラーを繰り返すんだって。  

 でも……。

「怖いか?」
「……スキルを、あんまり使い過ぎるなって言われてるから……」
「きちんと規則を守ってくれているんだな。君は立派な人格者だ。スキルを手に入れた人間は、まず面白半分で使うから馬鹿みたいな被害を出すが、君のように節度ある人間は魔法捜査課でも重宝する」
「いや、そんなことは……」

 苦い記憶を思い出して俺が俯きそうになった時、清掃員さんは薄く微笑む。

「それに、例えできなくても構わない。何があっても私は君を守る。思いっきりやってみなさい」

 心臓をドカンと一発ぶん殴られたような衝撃が走る。
 ときめきそうなお言葉だけれど、ワイルドボアをぶん殴る清掃員さんなのを思い出して冷静になった。
 それに助けに来てくれた。神崎や久留米のように見捨てるなんてことをしないと、言ってくれているのだ。

 俺は意識を研ぎ澄まして、慎重にワイルドボアとの距離を図る。
 そして、

 ――ここだ!

 かっと目を見開く。完全に無意識の行動だった。
 次の瞬間、ワイルドボアの全身を赤く染めるように無数の彼岸花の茎が伸びて、ぶわっ! と花開く。まるで鮮血が全身から噴き出たようだった。ブギィッと鳴き声を上げたワイルドボアには悪いと思いながらも追撃! 一気にその血液を吸い上げる。

 彼岸花がさらに花開く。しべが伸びる。俺も感じる。血液を一気に吸い上げているのを。それは、わずか一秒の出来事だった。
 ワイルドボアが、どしんと横転した。

 俺は、真っ赤になって倒れているワイルドボアを呆然と眺める。
 本当に動かないんだろうか……というか、俺が? ワイルドボアを一撃で仕留めた……?

 そんなまさか。そんな風に思って、俺はワイルドボアへと駆け寄る。
 ワイルドボアは曼珠沙華の中に埋もれるようにと目を口を開いたまま動かなかった。
 鼻先にぶすっと指を軽く突いて、今度はグリグリと押し付けてみる。

 ワイルドボアは、うんともすんとも言わなかった。
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