上 下
7 / 18

6 清掃員のオバサンと一緒

しおりを挟む
 ……ちょっと待って。

「何で階層を降りてるんですか?」
「私の仮住まいがこの先のセーフティーエリアにあるからだ」

 俺の目は点。
 いや、待って。仮拠点がセーフティーエリアにあるって、どういうこと? 次のセーフティーエリア、四十階層の前の三十九層ですよ? この清掃員さん、マジで何者なの? どこの実況者もまだ未踏破のセーフティーエリアに仮拠点構えてるって?

 意味が分からない俺でも、途中で遭遇したワイルドボアを素手で仕留めた清掃員さんにそれ以上のツッコミはしなかった。俺みたいな下等生物がこの清掃員さんに物申す事自体がおこがましいと、視覚から脳味噌をぶん殴られるように叩き込まれたからだ。

 久留米より強い。清掃員さんからすれば、俺達のやってる攻略なんてお遊びみたいなものに感じるだろうな。

「佐藤桐也」
「ひゃい」
「はい、だ。しっかり返事をしろ」
「すみません、ビックリして……」

 清掃員さんは息の根が止まっていることを確認して、くるりと振り返る。

「このモンスターにスキルを使ってみろ」
「え?」
「このモンスターにスキルを使ってみろ」
「いや、どうやって?!」
「貴様のスキルの基本的な使い方があるだろう。使ってみろ」
「はい」

 ていうか、スキルを使えって……――動物の死骸に、花を咲かせろってことか?

 それは、

「ボサッとするな」
「分かりました」

 任意の場所に、意識を向けるだけ。
 ぱっと現れるのではない。まず緑色の茎が伸びて、赤く、血を吸ったような花が咲く……。
 弔い花のように、ワイルドボア横腹に生えた彼岸花。

 ――気持ち悪いのよ、お前のスキルは!

 こんな様を見ていると久留米の言葉が久留米の声で反響する。彼女の言う通りだ。死体から花が生える花なんて……気持ちが悪い。

「ぼさっとするな。次、血液を吸い上げるんだ」
「え……できんの?」
「できるかどうかは試してから判断することだ。こういったスキルは、一度試してみないと分からない。スキルの使い方は試行錯誤が基本、トライアンドエラーだ。人の迷惑にならないところでなら、いくら試してみても問題なかろう」

 そうですね、とは返答したものの、そう言われてもどうやるかは分からない……。

「植物の構造は?」
「え?」
「植物は、どうやって水を得る?」
「それは、根から土にある水分を……」

 あぁそうか、と俺は改めてワイルドボアの上で咲いている彼岸花に意識を向ける。必要なのは、球根から伸びている根から吸い上げていくイメージ……。

「……!」
「分かるんだな。のが」
「は、はい……」

 遠くからでも、あの彼岸花が水を吸い上げるように獣臭い血液を吸い上げているのが分かる。血液を吸って元気になったように、花はさらに大きく花を開き、花の中心部から伸びる真っ赤なしべを伸ばす。反り返った六つの赤い花が輪を描いて咲く彼岸花。それが、死体の上で寂しげにただ佇んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

処理中です...