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2 現れた清掃員のオバサン

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「君、大丈夫か」

 そう声をかけられて、俺はぎょっとして首を回す。その人物に、俺は固まったし意識がぶっ飛んだ。

 青いタータンチェックの三角巾をかぶり、青い半袖シャツに青いスラックスの女性が……片手にデッキブラシ、片手にスマホを構えてこちらを見ていた。
 見るからに清掃員だ。

「……………………おばさん、だ――」
「『オバさん』ではない、清掃員さんだ」

 キツめの口調に俺は即座に清掃員さんと言い直した。
 いやだって、こんな所に見た目どう見ても清掃員の人がいるとかおかしいだろ。
 幻覚見てるのか? あぁ、氷漬けにされたから幻覚が見えるのも仕方がないか?? 低体温症になってもおかしくないもんな?

「君、仲間に見捨てられたのに喚きもしないのか。普通なら怒り狂うぞ。私なら怒り狂う」
「だったらなんだよ、アンタには関係な……――いや、ちょっと待て。アンタ何で俺が仲間に裏切られたって知ってるんだ?!」
「見ていたからだ。ちなみに、現場は撮影済みだ」

 清掃員さんが持っているスマホを強調するように一度振った。

「いや、それならこうなる前に助けろよ!!」

 そう言い返す俺に、清掃員さんは涼しい顔で「何を言う」と一言。

「あぁやって仲間を捨てる人間は、ダンジョンに食われて死ぬ。だから今、君を助けに来た」

 スマホを胸ポケットにしまう。スマホが大きくてちょんと頭が出ている。

「ついでに、説教をしに」
「……」

 俺は、視線を一瞬逸らす。

「アンタも、俺が役立たずだって言いたいのか?」

 そう自分から言っておいて視線は落ちる。

 そんなのは自分が一番よく分かってる。

 俺のスキルは、不気味な赤い花を咲かせるだけの能力だ。その花が咲いている間、モンスターは近寄ってこない。それどころか逃げてしまう。
 だがその能力も低い階層のモンスターにしか効果がない。三十階層までくると、モンスター避け効果はなくなってお荷物になるのだ。

 清掃員さんはしばし沈黙して、

「貴様、もう一度自分のスキルの評価を言ってみろ」
「だから、役立たずだって言ってるんだよ!!」
「何故そう思う。分析結果を報告しろ」
「何でアンタになんか……」
「『報告しろ』と、言っている」

 腕を組んで仁王立ち。俺を無感情に見下ろす瞳……格好良さに極限まで振り切った低い美声に窘められて、俺はひゅっと喉から空気を吐き出す。
 死地に置き去りにされるように仲間に見捨てられたことよりも、清掃員さんと遭遇したことの方が恐怖だった。
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