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1 佐藤桐也と彼岸花
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「佐藤桐也ぁぁあああ!」
三十五階層に響き渡る神崎の怒鳴り声。この『ダンジョン探索部隊』……俺達は『攻略班』と言っている。その第六班班長である神崎に、俺は胸倉を掴み上げられた。
四角い顔にガタイの良い体付き。ひょろひょろのモヤシみたいな俺は、ひょいっと持ち上げられた次の瞬間、地面にぶん投げられた。
ワンバウンドしてうつ伏せに這いつくばる俺の頭を、神崎は足で踏み付けた。
地面に頬を押し付けながら、「何度も言ってるだろうが!」とがなる。
「テメェは役立たずなんだから、余計なことすんなって言ってるんだろーがっ! テメェのせいで他のモンスターに気付かれただろ!」
「あ、れは、モンスターが走ってきてたから、仕方なく……ぐっ!」
「言い訳すんな! 俺達は『覚醒者』として国を代表する『攻略班』なんだぞ!!」
更に足に力を込められて、口を開けなくなった。
覚醒者……近年、超能力とは違う力を持つ能力や、魔力が使えるようになった人間達を日本ではそう呼ぶ。
俺達はその中でも、国に一応保護された『覚醒者』だ。
その保護された中でも俺は、使えないスキルが開花しただけの『無能スキル持ち』だ。
今も頭上からは神崎や仲間達から罵詈雑言が投げ付けられる。
もう止めなよ、と呆れたように言うのは魔法使いの久留米。俺よりも十歳歳下の少女。ストレートに伸ばした髪は白い。わざわざ色を脱色させたその髪を揺らす。
「お花で気を逸らすぐらいしか使い道がないクズなんだから、いくら罵ったところで使えないのは仕方ないことなのよ」
第六班で一番の実力を誇る久留米の歯に衣着せぬ物言いに、物理以上のダメージが精神にクリティカルヒットした。
何も言い返せなかった。
だが、そうだなと神崎はご満悦な様子で足をどける。
「でも、邪魔なものは邪魔なんだよな」
そう神崎はニタリと笑った。
他のメンバーも頷きながら時間を確認して、そろそろ時間だと口にした。
ダンジョン探索部隊第六班のメンバーはまだ長期間の探索に出られないため生存確認のため規定時間までに戻らねばならない。その時間が迫っていたのだ。規定時間をきっかりではなくても良いが、この期限時間内までに帰らないといけない。
俺も、その時間が迫っていると分かって体を起こす。
「フリーズ」
次の瞬間、足元から氷が生えてきて体の動きを封じる。そのまま胸元まで氷漬けにされてしまった。全く身動きが取れない。
それは、久留米の魔法。
「……何の冗談だ? 解いてくれ」
「冗談じゃないわよ」久留米は冷ややかに言う。
「テメェが死ねば良いんだよ。そうすりゃあ、証拠隠滅だ」
神崎の吐き捨てた言葉にカッとなるも、他のメンバーはクツクツと笑い、久留米は冷え切った目でただただ俺を見下ろすだけ。全員が、一様にそう思っているのだ。
「あなたが邪魔なのよ。寄生虫みたいに私にしがみ付いて! アンタと一緒にされる私の身になりなさいよ!」
「それは俺の意思じゃなくて魔法捜査課の人の指示で……」
「気持ち悪いのよ、お前のスキルは!」
ゾッと全身から血の気が引く。
憎悪を込めた表情で久留米から睨まれて俺は呆然とする。
「いい加減気付きなさいよ! お前はお荷物で足手まといなの!! 私がこんなところにいるのだって、全部お前のせいなんだから!!」
行くわよ! と久留米がくるりと踵を返すと足早に去って行く。他のメンバー達も踵を返した。
最後に、神崎だけは首を回して、嗤う。
「あばよ、佐藤」
それだけ言って、手をヒラヒラと振った。
神崎達が遠ざかる姿に言葉も出てこない。
心の中に空虚感がわだかまって、ははっと乾いた笑いが漏れる。その乾いた笑いもすぐに空気に溶けた。
――やっぱり……――。
三十五階層に響き渡る神崎の怒鳴り声。この『ダンジョン探索部隊』……俺達は『攻略班』と言っている。その第六班班長である神崎に、俺は胸倉を掴み上げられた。
四角い顔にガタイの良い体付き。ひょろひょろのモヤシみたいな俺は、ひょいっと持ち上げられた次の瞬間、地面にぶん投げられた。
ワンバウンドしてうつ伏せに這いつくばる俺の頭を、神崎は足で踏み付けた。
地面に頬を押し付けながら、「何度も言ってるだろうが!」とがなる。
「テメェは役立たずなんだから、余計なことすんなって言ってるんだろーがっ! テメェのせいで他のモンスターに気付かれただろ!」
「あ、れは、モンスターが走ってきてたから、仕方なく……ぐっ!」
「言い訳すんな! 俺達は『覚醒者』として国を代表する『攻略班』なんだぞ!!」
更に足に力を込められて、口を開けなくなった。
覚醒者……近年、超能力とは違う力を持つ能力や、魔力が使えるようになった人間達を日本ではそう呼ぶ。
俺達はその中でも、国に一応保護された『覚醒者』だ。
その保護された中でも俺は、使えないスキルが開花しただけの『無能スキル持ち』だ。
今も頭上からは神崎や仲間達から罵詈雑言が投げ付けられる。
もう止めなよ、と呆れたように言うのは魔法使いの久留米。俺よりも十歳歳下の少女。ストレートに伸ばした髪は白い。わざわざ色を脱色させたその髪を揺らす。
「お花で気を逸らすぐらいしか使い道がないクズなんだから、いくら罵ったところで使えないのは仕方ないことなのよ」
第六班で一番の実力を誇る久留米の歯に衣着せぬ物言いに、物理以上のダメージが精神にクリティカルヒットした。
何も言い返せなかった。
だが、そうだなと神崎はご満悦な様子で足をどける。
「でも、邪魔なものは邪魔なんだよな」
そう神崎はニタリと笑った。
他のメンバーも頷きながら時間を確認して、そろそろ時間だと口にした。
ダンジョン探索部隊第六班のメンバーはまだ長期間の探索に出られないため生存確認のため規定時間までに戻らねばならない。その時間が迫っていたのだ。規定時間をきっかりではなくても良いが、この期限時間内までに帰らないといけない。
俺も、その時間が迫っていると分かって体を起こす。
「フリーズ」
次の瞬間、足元から氷が生えてきて体の動きを封じる。そのまま胸元まで氷漬けにされてしまった。全く身動きが取れない。
それは、久留米の魔法。
「……何の冗談だ? 解いてくれ」
「冗談じゃないわよ」久留米は冷ややかに言う。
「テメェが死ねば良いんだよ。そうすりゃあ、証拠隠滅だ」
神崎の吐き捨てた言葉にカッとなるも、他のメンバーはクツクツと笑い、久留米は冷え切った目でただただ俺を見下ろすだけ。全員が、一様にそう思っているのだ。
「あなたが邪魔なのよ。寄生虫みたいに私にしがみ付いて! アンタと一緒にされる私の身になりなさいよ!」
「それは俺の意思じゃなくて魔法捜査課の人の指示で……」
「気持ち悪いのよ、お前のスキルは!」
ゾッと全身から血の気が引く。
憎悪を込めた表情で久留米から睨まれて俺は呆然とする。
「いい加減気付きなさいよ! お前はお荷物で足手まといなの!! 私がこんなところにいるのだって、全部お前のせいなんだから!!」
行くわよ! と久留米がくるりと踵を返すと足早に去って行く。他のメンバー達も踵を返した。
最後に、神崎だけは首を回して、嗤う。
「あばよ、佐藤」
それだけ言って、手をヒラヒラと振った。
神崎達が遠ざかる姿に言葉も出てこない。
心の中に空虚感がわだかまって、ははっと乾いた笑いが漏れる。その乾いた笑いもすぐに空気に溶けた。
――やっぱり……――。
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