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「『月浴の神酒ソーマ』だ」
「「は?」」

 ならばあの時の「よし」は何なのか。
 尋ねてみると、あの時点で連続五回目の成功で、完璧に会得したと思ったからつい声が出てしまったとガイアは言う。

「あと十七本あるから、遠慮しなくて良い」

 再びヴァレリアとシリルは溜め息を溢した。
 彼の瞳より淡く、月のように黄金色に輝く『月浴の神酒ソーマ』の入ったコルクを引き抜いてガイアは寄越す。

「……ありがとう」

 一口飲めば清酒のようなアルコール分と、清涼感ある花の香りの味わい。意外にも苦くなかった。腕のなくなっていた先から光が凝縮していき、ヴァレリアの腕は元に戻っていた。握ったり開いたりを繰り返し、感覚もしっかりあるのを確認する。確かにこれは本物だ。

 ガイアはそれからもう一本、『月浴の神酒ソーマ』を取り出した。

「それと、俺の代わりにこれを母に使ってくれ。俺から貰うよりも嬉しいだろう」
「いえ、一緒に行きましょう。本来ならガイアさんを逃がすのは悪いことですが、きちんと確かめた方が良いでしょう」
「しかし母は……」
「来なさい」
「はい」

 あっさり従ったガイアを連れて医務室を脱走。シリルの案内の元、人目を掻い潜りながら製薬研究所へと向かった。

 中に入ればすぐにコナーが応対すると研究員達を散らせた。
 脱走してくるだろうと思っていたコナーに導かれ、別室へ。どこかに無機質に見えるその場所で、女性がぽつねんと立っていた。

「……母さん」
「ガイアさん、これを」

 シリルは今まで自分が付けていた眼鏡を外すと、それをガイアにかぶせた。すると、ガイアは目をぱちくりさせる。

「これで、お母様の顔が見えるようになると思いますよ」
「何で俺が母の顔が見えないのを知ってるんだ?」
「やっぱりそうですか。今まで私の顔が見えていなかったのですね?」
「えっ?!」「シリルはすごいなぁ」

 感心していないで行ってこいと促したシリル。
 丸い眼鏡を掛けたガイアが母の元へ駆けて行く後ろ姿は珍しく年相応の少年に見えた。

月浴の神酒ソーマ』を掛けた所から、波紋を広げるように彼の母親は服の色を、肌の色を取り戻した。そして髪の毛の一本一本すらもしなやかに揺れるようになるとガイアの母親メイジーは目を瞬かせた。
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