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 ガイアが指を差す。応接間の入り口から少し左、僅かに下向いているその指の先を確認するように、ガイアはシリルから貰った眼鏡を外し、と間違いないと断言した。

 ヴァレリアは立ち上がって、駆け足でリビングから出て行った。
 天井と床に付くほど大きな絵画……シュナイダー家の初代の肖像画。その人物は、いた。

「笑顔の、額縁……」

 額縁を掴む。思いっきりスライドさせると、巨大な肖像画はスパァンと襖のノリでスライドした。
 四角く黒い入り口を現す――その先は暗闇の中。

 背筋と腹部がざぁっと冷えきった。

 ヴァレリアは階段を駆け足で降りる。隠されている部屋へと導くように自動で灯りが点く。
 そして目の前の扉を開け放つ。

 中は真っ暗だ。鼻腔を突く酷い臭いがする。廊下から差し込む光が、闇の中に隙間を作り出す。その先に、細く細く伸びる肌色。両足が投げ出されていた。

「カイル、くん……カイル君!」

 ヴァレリアは駆け寄る。闇のベールを纏う少年の姿が、病的なまでに痩せ細っている少年には、かつてゲームで見た『カイル・ヴァイオレット』の面影が残っていた。





 アルトはカイルの元へ行こうとするヴァレリアの目を覆い、ライリーに連れていくよう指示を出す。ついでにガイアも馬車へと向かわせればあっという間に部屋は静かになった。

 拘束具の付いた寝台、棚には大人のオモチャが整然と並べられている明らかに目的を持って作られた部屋。
 そこには壁から伸びる鎖に繋がれた、ヴァレリアと変わらない年の子供。

 シュナイダー家の嫡男、カイル・シュナイダー。シュナイダー家当主の正式な後継者だ。

 しかし、現在進行形で被害者であろうと娘ガチ勢アルトの視界には入ってない。

 何故ならパトリックには前科があった。
 王都にいた頃、遊びが大炎上し、その後始末をしたのはアルトだ。
 わざわざ降りてきたパトリックが喚きながらしつけだ、家の教育方針だと自分を正当化している。

 アルトは考える。何度も来ていたアルトでさえ知らなかったのに、ヴァレリアはガイアの言葉だけでこの部屋の仕掛けを開け放ったのか。

 結論。連れてこられたことがあるからだ。

 ギラリとアルトの瞳が冷め切った。

「あ、ああ、アルト様! どうか、どうか話を――」
「二度はない。俺はそう言った。それどころか、慈悲を無視して、私の娘に手を出した……殺す」

 低く放たれた殺意の籠もった最後の一言と同時に、冷徹な魔力が突風となって地下室に転がる玩具を吹き飛ばし、棚をなぎ倒し、拘束台を転倒させた。
 それが暴風同様に吹き荒れ、渦を描いた。それが天に登らんとする竜巻となってシュナイダー邸の屋根をスポーンと真上へと吹き飛ばした。
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