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60話 地上では

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 エマが連れて行かれて1時間……。

 発信機の反応はない。いつもなら余裕そうに構えているヴォルグはメモ帳を書き込みながら歩き回っている。今後、似たような事件が発生した場合にどうするか対応策を考えているのだ。

 妙な魔法を使う相手であれば、まだ発信機も機能したかもしれないが、今回はドラゴンが絡んでいることを事前に見抜けなかったことが悔しいらしい。

 この地の守護も担う地龍は神域……亜空間の創造が可能だ。その中に引きずり込まれれば、外界で通用する発信機は作動していても外部へ知らせる術はない。

 だが、万事休すという訳ではない。
 地龍を利用しているのなら、この神殿にいる。それは、アルフレッドがよく知っている。

《隊長、冒険者達から確認が取れました》

 ここに来る前、ヴォルグから頼まれていた冒険者達の調査が終了したようだ。この声の主はミレーヌ。『通信』というスキルを使う彼女は、こうやって遠隔から念話という形でのやりとりや、現在アルフレッドとつないでいる『通信』状態であれば、互いの脳に直接資料の映像を送受信可能だ。

 暴れる冒険者、そして失踪した冒険者はみんな、地龍神殿に来ているのではないかという彼の予想は的中していた。

 ほとんどが国外から来た冒険者で、やって来た呪いの餌食に……正確には、生贄だろう。
 彼らは地龍伝説を聞き、地龍神殿を観光するため特産品採取の依頼を引き受けて神殿まで見に行った。

 しかし、呪われていない冒険者と呪われた冒険者では両者に記憶の食い違いがあった。
 呪われていないメンバー達は地龍神殿に行ったことを覚えているが、呪われた冒険者は一様に覚えていなかったのだ。
 仲間達も、呪われた冒険者がぼーっとしているなど、変な行動を取っている事があったという。
 行方不明の仲間を探すため残っている冒険者達からも聞き取りできた。失踪した仲間も地龍神殿へ行った際に、似たような行動を取っていたらしい。

 これが分かっていれば、もっと早くに地龍神殿に辿り着いたかもしれない。

 騎士団やスキル特務部隊では、家族や仲間内の証言を鵜呑みにしない。仲間という理由で口裏を合わせている可能性があるからだ。
 だが、アルフレッド個人で捜索していたのも事実……自分にも、非がある。

「ありがとう、ミレーヌ」
《どういたしまして。気をつけてくださいね》

 ルートネリア王国で見た、騎士団と冒険者が互いに距離が近い光景。騎士が冒険者にも気さくに話しかけ、冒険者もまた有事に騎士団に快く手を貸してくれる。窮地を、死線を共にくぐり抜ければ、最後は祝杯で騒ぐ。

 今のロウェスタリアでは、まだまだ先。

 遠くから、仲間達の姿が見えてきた。
 他にも、冒険者達らしい姿はある。騎士達の姿も近付いてくるにつれ、少数同伴しているようだ。そこには、魔法師団第4部隊長のレグルスもいる。だが、人数が明らかに少ない。救護班も見当たらない。

 先を歩いていたレグルスが、アルフレッドを睨みながら口を開く。

「詳しい話をしていただこうか」
「ならば、冒険者の皆さんもお聞きになって下さい」
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