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56話 地龍
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(何か、腹立ってきた)
むくむくと苛立ちが沸いてくる。
自分達の身勝手のために弱っているドラゴンに漬けこんで、好き勝手やっている。自分たちの勝手な妄想でドラゴンを苦しめている。
それは、かつての酷いだけの仕打ちを受けてきたエマのよう。
両親の身勝手な理由でエマを自分達の子供ではないと拒否し、虐げてきた。
両親は身勝手な妄想をエマに押し付け、何もかもをエマのせいにした。思い出せば、絶対に関係のないことまでエマがいるせいだとターナーは喚いて殴ってきた。
「……」
一番安全な場所も分かった。やれるかどうかは分からないけど、どうしたら良いかも何となく分かった。
エマは縮地でゆっくり地面に降りていく。
てこずらせやがって、と掴みかかって来た男からは全ステータスとスキル、アビリティを奪い取る。がくん、と崩れ落ちた男から距離を取りながら、エマは地上で聞いた話を繰り出した。
そして最後に、
「本当に、ファフニールが誕生したら、この国を壊してくれるの?」
金刺繍の黒ローブを纏う男は、数秒の沈黙後、
「あぁ、その通りだ。ファフニール様の力は偉大。その程度造作もないことだ。お前は、この国が嫌いなのか」
「大嫌いだ」
いつもアリアがやっていたように、エマは口を開く。
「いつも両親は僕を馬鹿にした。生きてなくていいっていって、殴って蹴って、何でもないことまで全部僕のせいにした」
無関心な兄、面白半分でいじめてくる妹。それを庇うのはいつも両親。自分の話は何も聞いてくれない。いつだって、自分が悪者にされてきた……これまでの生活で起きたこと、ずっと悔しかったこと、使用人も、誰も助けてくれなかった。
「僕が食べられたら、そのドラゴンがファフニールになって、僕の家族を、使用人も、この国の人間をみんな、殺してくれるんですよね?」
「その通りだ、少年」
途端にローブの男達が機嫌を良くした。アリアみたいでみんな気持ちが悪い。
大変だったな、でも大丈夫だ、ファフニール様なら破壊を約束してくれると口々に言う。
「分かりました。生贄になります」
エマはドラゴンの元に歩み寄る。さっきまで躍起になって捕まえようとしていたローブの人間達は、自分から胃袋に飛び込んでくれると安心しきったのか、そのまま背を押してくれる。勇気ある少年だと賛辞まで飛んできた。
座る場所は指定された。そこに座れば、ドラゴンは蜂蜜を溶かしたような黄金色の瞳がエマを見つめる。エマも、見つめ返す。
《何を考えている》
頭に響く声だった。
それが、エマだけにしか聞こえていないと信じて、心の中で返答する。
《この頭がイカレた場所で、最も安全な場所に潜る。彼らが崇拝するファフニールというドラゴンの肉壁の内側に》
わずかに瞳が開いた。
《その神獣従属の呪い、私が貰い受けます》
解除できそうなレリースは、エマのレベルではまだできない。なら、スキルで奪うしかない。
ドラゴンが顔を上げて、ぐぉおおおおおおお! と咆哮を上げた。轟音のような声は鼓膜を震わせ、地面をゴゴゴゴと揺らした。信者たちも一時は驚きで声を失ったものの、ファフニール様が喜んでいるぞ! と声を上げる。
ガイアの瞳は今まで諦めた表情とは違う……笑っている。
《私ですら解除できなかったこの呪いを、どうにかしようというのならば、その言葉を信じてやろう。例えできなかったとしても構わない。その時は、地の王が君を目覚めさせてくれる。死にはしないから、安心しなさい》
開いた口が迫ってくる。
噛みつかれるかと思ったら、ぬめる舌に絡め取られて口の中へ。
そのまま、ごくんと丸呑みにされた。
むくむくと苛立ちが沸いてくる。
自分達の身勝手のために弱っているドラゴンに漬けこんで、好き勝手やっている。自分たちの勝手な妄想でドラゴンを苦しめている。
それは、かつての酷いだけの仕打ちを受けてきたエマのよう。
両親の身勝手な理由でエマを自分達の子供ではないと拒否し、虐げてきた。
両親は身勝手な妄想をエマに押し付け、何もかもをエマのせいにした。思い出せば、絶対に関係のないことまでエマがいるせいだとターナーは喚いて殴ってきた。
「……」
一番安全な場所も分かった。やれるかどうかは分からないけど、どうしたら良いかも何となく分かった。
エマは縮地でゆっくり地面に降りていく。
てこずらせやがって、と掴みかかって来た男からは全ステータスとスキル、アビリティを奪い取る。がくん、と崩れ落ちた男から距離を取りながら、エマは地上で聞いた話を繰り出した。
そして最後に、
「本当に、ファフニールが誕生したら、この国を壊してくれるの?」
金刺繍の黒ローブを纏う男は、数秒の沈黙後、
「あぁ、その通りだ。ファフニール様の力は偉大。その程度造作もないことだ。お前は、この国が嫌いなのか」
「大嫌いだ」
いつもアリアがやっていたように、エマは口を開く。
「いつも両親は僕を馬鹿にした。生きてなくていいっていって、殴って蹴って、何でもないことまで全部僕のせいにした」
無関心な兄、面白半分でいじめてくる妹。それを庇うのはいつも両親。自分の話は何も聞いてくれない。いつだって、自分が悪者にされてきた……これまでの生活で起きたこと、ずっと悔しかったこと、使用人も、誰も助けてくれなかった。
「僕が食べられたら、そのドラゴンがファフニールになって、僕の家族を、使用人も、この国の人間をみんな、殺してくれるんですよね?」
「その通りだ、少年」
途端にローブの男達が機嫌を良くした。アリアみたいでみんな気持ちが悪い。
大変だったな、でも大丈夫だ、ファフニール様なら破壊を約束してくれると口々に言う。
「分かりました。生贄になります」
エマはドラゴンの元に歩み寄る。さっきまで躍起になって捕まえようとしていたローブの人間達は、自分から胃袋に飛び込んでくれると安心しきったのか、そのまま背を押してくれる。勇気ある少年だと賛辞まで飛んできた。
座る場所は指定された。そこに座れば、ドラゴンは蜂蜜を溶かしたような黄金色の瞳がエマを見つめる。エマも、見つめ返す。
《何を考えている》
頭に響く声だった。
それが、エマだけにしか聞こえていないと信じて、心の中で返答する。
《この頭がイカレた場所で、最も安全な場所に潜る。彼らが崇拝するファフニールというドラゴンの肉壁の内側に》
わずかに瞳が開いた。
《その神獣従属の呪い、私が貰い受けます》
解除できそうなレリースは、エマのレベルではまだできない。なら、スキルで奪うしかない。
ドラゴンが顔を上げて、ぐぉおおおおおおお! と咆哮を上げた。轟音のような声は鼓膜を震わせ、地面をゴゴゴゴと揺らした。信者たちも一時は驚きで声を失ったものの、ファフニール様が喜んでいるぞ! と声を上げる。
ガイアの瞳は今まで諦めた表情とは違う……笑っている。
《私ですら解除できなかったこの呪いを、どうにかしようというのならば、その言葉を信じてやろう。例えできなかったとしても構わない。その時は、地の王が君を目覚めさせてくれる。死にはしないから、安心しなさい》
開いた口が迫ってくる。
噛みつかれるかと思ったら、ぬめる舌に絡め取られて口の中へ。
そのまま、ごくんと丸呑みにされた。
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