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54話 生贄の条件

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 指先が空気に触れた。そう思った次の瞬間、エマは空中に放り出された。「ふにゃあああ!」と叫びながらクッションらしき布の山の上に落ちた。

「ほう、意識を保っているのか」

 エマが顔を上げると、ぞろぞろと黒ローブ集団がやって来た。めちゃくちゃ怖い。囮を引き受けた手前、エマも逃げる訳にはいかない……。

 何より、ヴォルグが冒険者ギルドに口利きしてくれるという話はあまりにも魅力的だ。今回は冒険者の失踪も含まれている。つまり、この事件の真相を暴くのを手伝えばお咎めを緩めてもらえるかもしれない。
 メイアの町を1日も離れられないというのも、2、3日程度に緩くしてもらえるかもしれない。

 何が何でも生き残ってやる。
 エマと舞の冒険は始まったばっかりなの。こんなところで足を止めてなんかいられない!

「何なんですか、生贄って! 僕なんて食べてもおいしくないぞ!!」

 とりあえず、捕まった人間らしくを演技してみた。
 黒いローブに変わりはないが、金の刺繍が入っている男がくくくっと喉で笑う。

「選別はここに来る前から始まっている。お前は、我らがファフニール様の糧に十分相応しい」
「何でおいしいって言いきれるんだよ! これでも、骨と皮だぞ! 肉なんかほとんどない!!」
「肉体など関係ない。むしろ、必要ない。ファフニール様に必要なのは、高い魔力だ」
「高い魔力?」

 あぁ、と男は頷く。

「魔力量は最低5000。そして土属性であることだ」
(生贄の範囲せっっっま! 確かに、これは『選ばれてる』わー)

 頭が他人事のように思う。
 確かに、エマは魔力量を5000超えている。階段から突き落とされてから目覚めた後にそうなってた。対象範囲に入っている。
 しかし、念のためと言った、男はエマをじっと見降ろす。その瞳が、きらりと光ったが。まぁ良い、とそれだけで終わった。

 今のはおそらく、鑑定だ。エマのステータスを盗み見たのだ。でも、隠蔽魔法で隠してあるから意味がない。

「貴様は確かに、イビルティアーが見え、赤い霧を撒いた。それだけで十分だ」

 枷を嵌めろ、と男達がエマを取り囲む。すぐにその場から縮地で飛び上がって、全貌を確かめる。大きな長方形の巨大空間。等間隔に設置された松明だけが、この空間を照らしている。

 そして、そこに鎮座している黒い影……ドラゴンだ。真っ黒な鱗に覆われ、爬虫類のトカゲの顔に近い。エマも舞も初めて見た。
 ドラゴンは体を起こしてはおらず、ぐったりと床に横になっている。

 だがその視線がエマを捕らえてはいるものの、その瞳は半開き。

(すごく、弱ってない?)
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